【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む
幕間: 精霊について
『あなた、名前は。』
『…………アイカ。』
『そう。好きなモノとかあるの。』
『……ある。私が、好きなのは────』
「そういえば、精霊には種類があると聞いたのだけれど。」
『あるよー。種類、っていう感じじゃないけどね。』
 アマリリスは明日に控えた登城に、どうやら寝付きが悪いみたいだ。
 私は別に寝なくてもいいから、話には付き合ってあげられる。というか、一緒に話したい。
 いくら生まれ変わりとはいえ、アマリリスはアマリリスで、私は私だ。ものの考え方も、性格も、結構違う。
 だから、話してて楽しい。
『まず、精霊には位がある。上位精霊、中位精霊、そして下位精霊。上位精霊には第二位と第三位、中位精霊には第四位と第五位がある。下位精霊は第六位。』
「あ、知ってるのと同じ。」
『じゃあ、第一位が精霊王だっていうのも?』
 アマリリスは頷いた。その時、束ねている銀色の髪が揺れる。
 日本にいた頃は、アニメとか漫画で銀髪キャラを見る度に、本当に銀髪なんてキレイなんだろうか、と疑問に思っていた。けれどこうして見ると、結構おしゃれだ。
「精霊王は、それぞれ属性を司るのよね?」
『そうそう。主要六属性の、火・水・風・土・雷・無。それプラス、貴属性の光と闇。合計で八属性だね。』
 指を折りながら数える。
「アイカってどの属性に適性があるんだっけ?」
『風と雷、そんで無。さすがに貴属性は無いなー。』
 無は、防御魔法や精神魔法―――例えば認識阻害魔法とか―――が分類されている。イメージ的には、攻撃系よりもサポート系みたいな感じだ。結構色々な魔法が無魔法で、無魔法の適性が低いと苦労しやすい。
 そして貴属性。適性のある者は少なく、特に回復系を含む光魔法を使える者は特別視されている。
「そういえば。どうして私は、精霊魔法が使えないの?」
『……丁度いいね。話すよ。』
 アマリリスは真剣な面持ちで私を見ていた。だから、少し心苦しくなる。全てを言えない事に対して。
 私だって、別に言いたくないわけではない。今説明することが出来ないのだ。これを話してしまったら、アマリリスを余計なことに巻き込んでしまう事になるから。
 だから今からする話は、かいつまんだ話になってしまう。
『アマリリスにはね、精霊に命令する力が無い。』
「命、令?」
『そ。言い方は悪いけど、精霊魔法とは、いわば精霊に魔法を使わせる魔法。』
 これは事実だ。アマリリスに、精霊に対して命令する力が無いのも、これまた事実。
 ただ、伏せている事もあるけれど。
『だから、精霊としてはアマリリスの存在はすごく貴重なんだよね。他のやつだったら、自分達の魔力がすっからかんになるまで、魔法を使わせるかもしれない。』
「も、もし、魔力が無くなったらどうなるの?」
『……死ぬ。』
 私の言葉に、アマリリスが息を呑む。さすがにこれは、事実を話しておこう。
『まぁ、死ぬって言っても一時的にね。一度死ぬと、魔力がある程度溜まるまで生き返れない。眠りについたままになっちゃう。時々、その間に人格が消えてしまったりすることもあるから、"死ぬ"っていう表現を使っているんだよね。』
「そうなのね。」
 アマリリスが、安心したように笑う。アマリリスはちょっとキツめの目だが、こうして笑顔を浮かべるとその目元でさえも愛嬌が感じられる。
 やっぱり誰にでも優しいな、と思った。私とは、全然違う。
 トントン
「失礼します、お嬢様。」
「エミー、どうかした?」
 部屋に入ってきたのは、アマリリスの専属メイド、エミーだった。私も彼女の事は信頼している。
 戦闘能力は低いけれど、別にバトルメイドは期待していない。
 私にとっては、アマリリスの瞳の色で彼女を差別しない事が、何よりも大切な事だから。
「お嬢様がまだ起きていらしたので、ホットミルクでもいかがかと。アイカ様の分もございます。」
「ありがとう、エミー。」
『ありがと!助かるよー。』
 エミーは微笑むと、一礼して部屋を出ていった。
 ホットミルクを飲んでみると、ちょうど人肌ほどに温められていて、体中に染み渡るような感じがした…なんていうと大げさだが、シンプルな味だからこそほっとする。
「温かくて美味しいわね。」
『うん。────あ、さっきの続きなんだけど。』
 アマリリスが頷いて、続きを促す。
『まず、下位精霊は、知能が小さな子供くらいしか無いんだ。だから、結構感情で動くし、感情に動かされやすい。』
 アマリリスが、興味深そうに頷く。
 下位精霊は、精霊としては生まれたての存在だ。大抵が、生まれてから数十年未満、といったところで、アマリリスみたいに精霊に好かれやすい人間に着いて行ったり、魔力濃度の高い霊峰とか呼ばれる土地にいたりすることが多い。
『第五位精霊は、自我がきちんとあって、しかも知能も第六位精霊より高い。ただ、加護を与える事は出来ない。それが、第四位精霊との違い。』
「加護って、第四位精霊からしか与えられないの?」
『そ。といっても、第四位精霊の加護は弱いけどね。────そうだ、加護の話しよっか。』
 アマリリスが頷いてくれた。それを確認してから、私は話を続ける。
『加護っていうのは、その精霊の力の一部を分け与える事。だから、魔力保有量の少ない精霊は出来ない。』
「そうなのね。」
『ちなみに、同じ原理で愛し子を持てるのは上位精霊のみ。愛し子っていうのは、結構自分の魔力をあげる存在だからね。特に、なんかものとかを司る精霊にしてみれば、それの力も分けることになるから、意外と消耗するんだよね。』
「そっか、アイカは、上位、精霊、だもん、ね……ふわぁ。」
 アマリリスが大きく欠伸をする。
 外を見てみると、もう時間も遅いみたいで人っ子一人いない。
 一応この世界にも時計はあるのだが、あまり技術が進歩していないために誤差がひどい。それに、一つ一つがかなり高価だ。
 クリスト公爵家はお金持ちだから居間に一つと書斎に一つ、そして図書室に一つあるが、さすがに個人の部屋にはない。
『アマリリス、もう寝る?』
「うん、あと少ししたら。────ねぇ、何かを司るのは、上位精霊だけ?」
『そうだよ。そして、第二位精霊が司るものの下位存在を第三位精霊は司る。ちなみに、中位精霊は属性を持っているだけ。』
「そう、だったんだ。疑問が解けたわ……ふわぁぁ、もう、寝るわね。」
『はーい。おやすみ、アマリリス。』
「おやすみなさい、アイカ。」
 アマリリスはそう言うと、目を瞑ってしまう。しばらくすると、安らかな息が聞こえてきた。
 この子は眠りに入るのが早い。昔から変わらないなぁ、と思わず笑みをこぼす。
 アマリリスの前髪が顔にかかっていたから、耳の方へかけてあげた。
 可愛い妹がいる気分だ。
『明日は頑張ろうね。私も、頑張るよ。』
 長い夜をどう使うか。
 そんな事を考えながら、私は一人起きたまま、空に輝く月を見ていた。
『…………アイカ。』
『そう。好きなモノとかあるの。』
『……ある。私が、好きなのは────』
「そういえば、精霊には種類があると聞いたのだけれど。」
『あるよー。種類、っていう感じじゃないけどね。』
 アマリリスは明日に控えた登城に、どうやら寝付きが悪いみたいだ。
 私は別に寝なくてもいいから、話には付き合ってあげられる。というか、一緒に話したい。
 いくら生まれ変わりとはいえ、アマリリスはアマリリスで、私は私だ。ものの考え方も、性格も、結構違う。
 だから、話してて楽しい。
『まず、精霊には位がある。上位精霊、中位精霊、そして下位精霊。上位精霊には第二位と第三位、中位精霊には第四位と第五位がある。下位精霊は第六位。』
「あ、知ってるのと同じ。」
『じゃあ、第一位が精霊王だっていうのも?』
 アマリリスは頷いた。その時、束ねている銀色の髪が揺れる。
 日本にいた頃は、アニメとか漫画で銀髪キャラを見る度に、本当に銀髪なんてキレイなんだろうか、と疑問に思っていた。けれどこうして見ると、結構おしゃれだ。
「精霊王は、それぞれ属性を司るのよね?」
『そうそう。主要六属性の、火・水・風・土・雷・無。それプラス、貴属性の光と闇。合計で八属性だね。』
 指を折りながら数える。
「アイカってどの属性に適性があるんだっけ?」
『風と雷、そんで無。さすがに貴属性は無いなー。』
 無は、防御魔法や精神魔法―――例えば認識阻害魔法とか―――が分類されている。イメージ的には、攻撃系よりもサポート系みたいな感じだ。結構色々な魔法が無魔法で、無魔法の適性が低いと苦労しやすい。
 そして貴属性。適性のある者は少なく、特に回復系を含む光魔法を使える者は特別視されている。
「そういえば。どうして私は、精霊魔法が使えないの?」
『……丁度いいね。話すよ。』
 アマリリスは真剣な面持ちで私を見ていた。だから、少し心苦しくなる。全てを言えない事に対して。
 私だって、別に言いたくないわけではない。今説明することが出来ないのだ。これを話してしまったら、アマリリスを余計なことに巻き込んでしまう事になるから。
 だから今からする話は、かいつまんだ話になってしまう。
『アマリリスにはね、精霊に命令する力が無い。』
「命、令?」
『そ。言い方は悪いけど、精霊魔法とは、いわば精霊に魔法を使わせる魔法。』
 これは事実だ。アマリリスに、精霊に対して命令する力が無いのも、これまた事実。
 ただ、伏せている事もあるけれど。
『だから、精霊としてはアマリリスの存在はすごく貴重なんだよね。他のやつだったら、自分達の魔力がすっからかんになるまで、魔法を使わせるかもしれない。』
「も、もし、魔力が無くなったらどうなるの?」
『……死ぬ。』
 私の言葉に、アマリリスが息を呑む。さすがにこれは、事実を話しておこう。
『まぁ、死ぬって言っても一時的にね。一度死ぬと、魔力がある程度溜まるまで生き返れない。眠りについたままになっちゃう。時々、その間に人格が消えてしまったりすることもあるから、"死ぬ"っていう表現を使っているんだよね。』
「そうなのね。」
 アマリリスが、安心したように笑う。アマリリスはちょっとキツめの目だが、こうして笑顔を浮かべるとその目元でさえも愛嬌が感じられる。
 やっぱり誰にでも優しいな、と思った。私とは、全然違う。
 トントン
「失礼します、お嬢様。」
「エミー、どうかした?」
 部屋に入ってきたのは、アマリリスの専属メイド、エミーだった。私も彼女の事は信頼している。
 戦闘能力は低いけれど、別にバトルメイドは期待していない。
 私にとっては、アマリリスの瞳の色で彼女を差別しない事が、何よりも大切な事だから。
「お嬢様がまだ起きていらしたので、ホットミルクでもいかがかと。アイカ様の分もございます。」
「ありがとう、エミー。」
『ありがと!助かるよー。』
 エミーは微笑むと、一礼して部屋を出ていった。
 ホットミルクを飲んでみると、ちょうど人肌ほどに温められていて、体中に染み渡るような感じがした…なんていうと大げさだが、シンプルな味だからこそほっとする。
「温かくて美味しいわね。」
『うん。────あ、さっきの続きなんだけど。』
 アマリリスが頷いて、続きを促す。
『まず、下位精霊は、知能が小さな子供くらいしか無いんだ。だから、結構感情で動くし、感情に動かされやすい。』
 アマリリスが、興味深そうに頷く。
 下位精霊は、精霊としては生まれたての存在だ。大抵が、生まれてから数十年未満、といったところで、アマリリスみたいに精霊に好かれやすい人間に着いて行ったり、魔力濃度の高い霊峰とか呼ばれる土地にいたりすることが多い。
『第五位精霊は、自我がきちんとあって、しかも知能も第六位精霊より高い。ただ、加護を与える事は出来ない。それが、第四位精霊との違い。』
「加護って、第四位精霊からしか与えられないの?」
『そ。といっても、第四位精霊の加護は弱いけどね。────そうだ、加護の話しよっか。』
 アマリリスが頷いてくれた。それを確認してから、私は話を続ける。
『加護っていうのは、その精霊の力の一部を分け与える事。だから、魔力保有量の少ない精霊は出来ない。』
「そうなのね。」
『ちなみに、同じ原理で愛し子を持てるのは上位精霊のみ。愛し子っていうのは、結構自分の魔力をあげる存在だからね。特に、なんかものとかを司る精霊にしてみれば、それの力も分けることになるから、意外と消耗するんだよね。』
「そっか、アイカは、上位、精霊、だもん、ね……ふわぁ。」
 アマリリスが大きく欠伸をする。
 外を見てみると、もう時間も遅いみたいで人っ子一人いない。
 一応この世界にも時計はあるのだが、あまり技術が進歩していないために誤差がひどい。それに、一つ一つがかなり高価だ。
 クリスト公爵家はお金持ちだから居間に一つと書斎に一つ、そして図書室に一つあるが、さすがに個人の部屋にはない。
『アマリリス、もう寝る?』
「うん、あと少ししたら。────ねぇ、何かを司るのは、上位精霊だけ?」
『そうだよ。そして、第二位精霊が司るものの下位存在を第三位精霊は司る。ちなみに、中位精霊は属性を持っているだけ。』
「そう、だったんだ。疑問が解けたわ……ふわぁぁ、もう、寝るわね。」
『はーい。おやすみ、アマリリス。』
「おやすみなさい、アイカ。」
 アマリリスはそう言うと、目を瞑ってしまう。しばらくすると、安らかな息が聞こえてきた。
 この子は眠りに入るのが早い。昔から変わらないなぁ、と思わず笑みをこぼす。
 アマリリスの前髪が顔にかかっていたから、耳の方へかけてあげた。
 可愛い妹がいる気分だ。
『明日は頑張ろうね。私も、頑張るよ。』
 長い夜をどう使うか。
 そんな事を考えながら、私は一人起きたまま、空に輝く月を見ていた。
「【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1,391
-
1,159
-
-
116
-
17
-
-
104
-
158
-
-
176
-
61
-
-
2,400
-
2,813
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
66
-
22
-
-
78
-
446
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
5,039
-
1万
-
-
1,000
-
1,512
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
215
-
969
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
2,534
-
6,825
-
-
3,152
-
3,387
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,548
-
5,228
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
1,295
-
1,425
-
-
6,675
-
6,971
-
-
2,860
-
4,949
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
3万
-
4.9万
-
-
344
-
843
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
76
-
153
-
-
3,653
-
9,436
-
-
1,863
-
1,560
-
-
62
-
89
-
-
89
-
139
-
-
108
-
364
-
-
14
-
8
-
-
2,629
-
7,284
-
-
2,951
-
4,405
-
-
23
-
3
-
-
86
-
288
-
-
218
-
165
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
51
-
163
-
-
2,799
-
1万
-
-
1,658
-
2,771
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
62
-
89
-
-
1,301
-
8,782
-
-
183
-
157
-
-
164
-
253
-
-
34
-
83
-
-
408
-
439
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
88
-
150
-
-
42
-
14
-
-
9,173
-
2.3万
-
-
614
-
1,144
-
-
2,431
-
9,370
-
-
220
-
516
-
-
614
-
221
コメント