【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む
14話: ガゼボでの話し合い
 庭園を歩いていくと、白い屋根がだんだん大きくなってくる。それに、甘い香りや紅茶の香りもした。
 柱には、鳥や花の精巧な彫刻が施されていて、天井には精霊と空の絵が描かれている。
「わぁっ!!」
 テーブルや椅子まで白で統一されたガゼボは、それだけで充分洗練された雰囲気を持っていた。だが、周りに植えられている薔薇が、更に美しいものにしている。
 それぞれの装飾が調和していて、見ていてとても楽しい。
「ふふっ、気に入ってもらえたようで嬉しいわ。」
「王妃様!?」
 そこにいたのは、薔薇よりも溢れる気品を持っていらっしゃる、我が国の王妃、レシア様だった。
 しかもその隣には、さっきまで会議室に居たはずの、お父様とお母様、そして陛下がいらっしゃる。
 さっきまで談笑していたのか、陛下も含めて全員の口元には笑みが浮かんでいた。
「取り敢えず座って頂戴。あなた達もよ、ユークライ、ラインハルト。」
 二人は一礼すると、席に着く。私もそれに倣って座ると、アイカが王妃様に尋ねた。
『私も座っていい?』
「失礼いたしました。もちろん、座って頂きたく思いますわ。」
 アイカは『ありがと』と言うと、私の隣に腰掛けた。
 この場の雰囲気はほんわかとした楽しげなものだったが、私はどうしても緊張してしまっていた。
 賢王と名高いハーマイル陛下、それを支えるレシア様、いつもは親バカみたいだけれど外交大臣として活躍されているお父様、そして今でも社交界の花と言われるお母様。
 身内もいるのだけれど、高貴な方が多すぎて、なかなか落ち着かない。
 そわそわしていると、「さて」と陛下が口を開いた。
「アマリリス嬢、クリスト公爵、並びに公爵夫人。今回サーストンが起こした事に対し、今一度謝りたい。」
 驚いた事に、陛下はそう言って頭を下げる。王族が頭を一介の貴族に下げるなど、普通なら有り得ない事だ。しかも、下げられた方にしても畏れ多い。
 まぁすぐに頭を上げるかな、と思っていたが、彼はなかなか上げようとはしなかった。
「へ、陛下。わたくしは、構わないのです。ですから、頭を……」
「アマリリス。」
 お父様が私の名前を呼んだ。流石外務大臣というか、威厳のある声だった。
 お父様は、自他共に認めるような親バカだけれども、能力は人一倍高い。特に、交渉技術は国一番、いや大陸一と言ってもいいくらいだ。
 ただ、私にとっては、上目遣いをしたらなんでも買ってくれたため、そこまですごさを感じないのだけれど。
 ともかく、そんないつもの姿からは考えられない声だった。
「アマリリス。この陛下の謝罪は、受け入れない方が非礼だ。」
「許さない、というふうに捉える事も出来るのよ。」
「お二人の言う通り。アマリリスちゃん、これはこの人なりの区切りなの。」
 お父様とお母様、それに王妃様に畳み掛けられたら、折れるしかない。
 けれども、いつまでも陛下に頭を下げさせるのも申し訳ない。
 というか王妃様、私の事ちゃん付け……?
「とまぁ、謝罪は終わりにしようか。今は、もっと話すべき事がある。」
 ガバッと顔を上げて 、陛下が話を始める。
 相変わらずの無表情なのだが、さっきまで感じていた怖さとかが、他の何かと一緒に消えていた。
 あれ、と違和感を感じる。なんだか、抱いていた陛下の像が、音を立てて崩れていくような錯覚を覚えた。
 陛下ってなんか軽い……
『そだね。じゃあ言うけどさ、廃嫡して?あの第三王子君。』
 アイカも軽かった。しかも軽いまま、恐ろしい事を言っている。
「それは、今は難しい。ま、サーストンを表舞台に立たせる事は、しばらくしないがな。」
 今は。
 まるでそれは、いつかは廃嫡する、という宣言のようだった。
 口調は軽い。けれど、陛下の声色は、実の息子の話のはずなのにひどく冷たい。
 話の内容が暗いものだからか。はたまた、別の理由があるのか。
 アイカは陛下の言葉を聞いても特に顔色を変えず、王妃様の方を向いた。
『りょーかい。じゃあ次の事。ララティーナ・ゼンリルの動向は?』
「わたくしの配下の者にやらせていますわ。何か掴めしだい共有いたします。」
『ありがと。レシアさんの情報集めの腕は、ほんと頼りになるよ。』
 王妃とは、諜報員を束ねるものなのだろうか。そして、自らがそれらの情報を纏めるような事をなさるのだろうか。今の発言からはそうとしか取れない。
 チラリと第一王子と第二王子の方を見ると、二人とも苦笑いをしている。
『次は……婚約についてかな?』
「進めておりますわ。お披露目の舞踏会の準備も、着手しています。その際の警備も、お任せ下さいな。こちらの準備も、つつがなく進んでおりますゆえ。」
 お母様。どうしてお母様が、警備に関してすごく誇らしげなのでしょうか。
 なんだか、ここにいる大人達のイメージがことごとく壊されている気がする。
 そういえば、少しだけだが聞いたことがある。
 お父様やお母様、陛下に王妃様方は魔法学校で同期で、学生ながら犯罪組織を共に解決なさった、とか、今国一番で大陸で見てもかなり有名な傭兵団も元はお父様方が作られた組織だ、とか。
 ……デマだと思っていたが、本当なのかもしれない。
『だってさ、アマリリス。ラインハルトも、良かったねー。』
 わざと脳内でスルーしていたのだが、そんなことを知らないアイカは笑顔でそう告げてくる。
「二人の婚約はとても喜ばしいよ。」
 第一王子も、にこにこ────いや、ニヤニヤ笑っている。
 恥ずかしくなって、思わず俯いてしまう。それでも、顔に上ってくる朱はなかなか消えようとしない。
『そういえばさ、お二人さん二人っきりで話した事無いよね?』
「そうですね。折角の機会だし、庭園を散歩したらどうだ、ラインハルト?」
 どうにかしてください、という気持ちを込めてお母様に目線を向けるが、助けようとはしてくれない。むしろ、「行ってきなさいな」という言葉が聞こえてきそうなくらいだ。
 お父様も、微笑んでいらっしゃる。私を助ける気は無さそうだ。
「二人とも若いのだから、こんな話し合いはつまらないだろう。行ってこい。」
 陛下の言葉に、私と同じく母である王妃様に目線を送っていた第二王子も諦めたようだ。
 後ろから暖かい目線を感じながら、私は第二王子にエスコートされ、ガゼボから庭園へと足を踏み出した。
 柱には、鳥や花の精巧な彫刻が施されていて、天井には精霊と空の絵が描かれている。
「わぁっ!!」
 テーブルや椅子まで白で統一されたガゼボは、それだけで充分洗練された雰囲気を持っていた。だが、周りに植えられている薔薇が、更に美しいものにしている。
 それぞれの装飾が調和していて、見ていてとても楽しい。
「ふふっ、気に入ってもらえたようで嬉しいわ。」
「王妃様!?」
 そこにいたのは、薔薇よりも溢れる気品を持っていらっしゃる、我が国の王妃、レシア様だった。
 しかもその隣には、さっきまで会議室に居たはずの、お父様とお母様、そして陛下がいらっしゃる。
 さっきまで談笑していたのか、陛下も含めて全員の口元には笑みが浮かんでいた。
「取り敢えず座って頂戴。あなた達もよ、ユークライ、ラインハルト。」
 二人は一礼すると、席に着く。私もそれに倣って座ると、アイカが王妃様に尋ねた。
『私も座っていい?』
「失礼いたしました。もちろん、座って頂きたく思いますわ。」
 アイカは『ありがと』と言うと、私の隣に腰掛けた。
 この場の雰囲気はほんわかとした楽しげなものだったが、私はどうしても緊張してしまっていた。
 賢王と名高いハーマイル陛下、それを支えるレシア様、いつもは親バカみたいだけれど外交大臣として活躍されているお父様、そして今でも社交界の花と言われるお母様。
 身内もいるのだけれど、高貴な方が多すぎて、なかなか落ち着かない。
 そわそわしていると、「さて」と陛下が口を開いた。
「アマリリス嬢、クリスト公爵、並びに公爵夫人。今回サーストンが起こした事に対し、今一度謝りたい。」
 驚いた事に、陛下はそう言って頭を下げる。王族が頭を一介の貴族に下げるなど、普通なら有り得ない事だ。しかも、下げられた方にしても畏れ多い。
 まぁすぐに頭を上げるかな、と思っていたが、彼はなかなか上げようとはしなかった。
「へ、陛下。わたくしは、構わないのです。ですから、頭を……」
「アマリリス。」
 お父様が私の名前を呼んだ。流石外務大臣というか、威厳のある声だった。
 お父様は、自他共に認めるような親バカだけれども、能力は人一倍高い。特に、交渉技術は国一番、いや大陸一と言ってもいいくらいだ。
 ただ、私にとっては、上目遣いをしたらなんでも買ってくれたため、そこまですごさを感じないのだけれど。
 ともかく、そんないつもの姿からは考えられない声だった。
「アマリリス。この陛下の謝罪は、受け入れない方が非礼だ。」
「許さない、というふうに捉える事も出来るのよ。」
「お二人の言う通り。アマリリスちゃん、これはこの人なりの区切りなの。」
 お父様とお母様、それに王妃様に畳み掛けられたら、折れるしかない。
 けれども、いつまでも陛下に頭を下げさせるのも申し訳ない。
 というか王妃様、私の事ちゃん付け……?
「とまぁ、謝罪は終わりにしようか。今は、もっと話すべき事がある。」
 ガバッと顔を上げて 、陛下が話を始める。
 相変わらずの無表情なのだが、さっきまで感じていた怖さとかが、他の何かと一緒に消えていた。
 あれ、と違和感を感じる。なんだか、抱いていた陛下の像が、音を立てて崩れていくような錯覚を覚えた。
 陛下ってなんか軽い……
『そだね。じゃあ言うけどさ、廃嫡して?あの第三王子君。』
 アイカも軽かった。しかも軽いまま、恐ろしい事を言っている。
「それは、今は難しい。ま、サーストンを表舞台に立たせる事は、しばらくしないがな。」
 今は。
 まるでそれは、いつかは廃嫡する、という宣言のようだった。
 口調は軽い。けれど、陛下の声色は、実の息子の話のはずなのにひどく冷たい。
 話の内容が暗いものだからか。はたまた、別の理由があるのか。
 アイカは陛下の言葉を聞いても特に顔色を変えず、王妃様の方を向いた。
『りょーかい。じゃあ次の事。ララティーナ・ゼンリルの動向は?』
「わたくしの配下の者にやらせていますわ。何か掴めしだい共有いたします。」
『ありがと。レシアさんの情報集めの腕は、ほんと頼りになるよ。』
 王妃とは、諜報員を束ねるものなのだろうか。そして、自らがそれらの情報を纏めるような事をなさるのだろうか。今の発言からはそうとしか取れない。
 チラリと第一王子と第二王子の方を見ると、二人とも苦笑いをしている。
『次は……婚約についてかな?』
「進めておりますわ。お披露目の舞踏会の準備も、着手しています。その際の警備も、お任せ下さいな。こちらの準備も、つつがなく進んでおりますゆえ。」
 お母様。どうしてお母様が、警備に関してすごく誇らしげなのでしょうか。
 なんだか、ここにいる大人達のイメージがことごとく壊されている気がする。
 そういえば、少しだけだが聞いたことがある。
 お父様やお母様、陛下に王妃様方は魔法学校で同期で、学生ながら犯罪組織を共に解決なさった、とか、今国一番で大陸で見てもかなり有名な傭兵団も元はお父様方が作られた組織だ、とか。
 ……デマだと思っていたが、本当なのかもしれない。
『だってさ、アマリリス。ラインハルトも、良かったねー。』
 わざと脳内でスルーしていたのだが、そんなことを知らないアイカは笑顔でそう告げてくる。
「二人の婚約はとても喜ばしいよ。」
 第一王子も、にこにこ────いや、ニヤニヤ笑っている。
 恥ずかしくなって、思わず俯いてしまう。それでも、顔に上ってくる朱はなかなか消えようとしない。
『そういえばさ、お二人さん二人っきりで話した事無いよね?』
「そうですね。折角の機会だし、庭園を散歩したらどうだ、ラインハルト?」
 どうにかしてください、という気持ちを込めてお母様に目線を向けるが、助けようとはしてくれない。むしろ、「行ってきなさいな」という言葉が聞こえてきそうなくらいだ。
 お父様も、微笑んでいらっしゃる。私を助ける気は無さそうだ。
「二人とも若いのだから、こんな話し合いはつまらないだろう。行ってこい。」
 陛下の言葉に、私と同じく母である王妃様に目線を送っていた第二王子も諦めたようだ。
 後ろから暖かい目線を感じながら、私は第二王子にエスコートされ、ガゼボから庭園へと足を踏み出した。
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