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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

9話: 馬車の中で 2

「協力者……」

 第二王子がポツリと呟く。そして、小首を傾げると尋ねた。

「それは一体、なんのために。」

『アマリリスのため。ひいてはこの────いえ、アマリリスの幸せのためです。』

 何かを言いかけて言い直したアイカに、二人の王子はそれぞれ疑うような視線を向けた。
 けれど、私に二人を責める資格は無いだろう。なぜなら、私もアイカの言いかけた言葉が知りたいから。疑うような視線で、彼女を見てしまったから。

『……はぁ。いずれ、時が来たら必ずお伝えしますよ。なので、その目をやめてくれませんか?』

「これはすみません。ですが、我々はこの国の王族です。もしこの国に関わる事ならば、教えていただきたい。」

 第一王子が微笑みながら言った。けれど、彼の目の奥には真剣さが宿っている。
 その気迫に、私は彼の王族としての矜恃を感じた。第三王子には無かった、上に立つ者の覚悟、威厳、そして誇り。

 アイカも同じものを感じたのか、第一王子の目をしかと見つめて言った。
 相変わらず笑みは浮かべているが、アイカが纏っているのは茶化すような雰囲気ではない。

『わかってますよ。アマリリスがこの国を大切に思う限り、この国は滅びませんよ。私が保証します。私の力が及ぶなら、この国、そしてあなたに助力をしましょう。』

 アイカが笑顔で言い切る。
 第一王子も笑ってくれて、私は知らず知らずのうちに止めていた息を吐いた。どうやら第一王子に威圧されていたらしい。
 ふぅ、と息を吐くと、対面に座っている第二王子と目が合った。彼は平気だったようで、私を気遣うように「大丈夫か」と小さな声で聞いてくれる。私がそれに頷くと、彼は安心したようにかすかにだが笑ってくれた。

『少し話が逸れましたが、私はアマリリスの協力者になる人を探していました。そしてあの日、私はやっと見つけたのです。』

 そう言って、アイカは第二王子を見た。
 その視線に気づいたように、彼の澄んだ橙色の瞳が、アイカを真っ直ぐ見つめる。こちらを見ているわけではないのに、まるで吸い込まれるくらい綺麗な瞳。

「アイカから多少は聞いてるとは思うが…僕は君との婚約を結ぶが、それは別に誰かに強制されたわけでは無い。」

「というか、本当なら私だったけれど、ラインハルトがお父様に頼んだんだ。僕が婚約したい、ってね。」

「えっ、そうなのですか?」

 第一王子から告げられた事実に、驚いて第二王子を見ると、拗ねたように顔を逸らして言った。
 もしそれが本当だとしたら……私は、勘違いをしてもいいのだろうか。

「兄さん、それは今関係無い。」

 本当、なんだ……

 王族に婚約破棄された、という事は一生の汚点になる。次の婚約者が出来ないかもしれない、という状況で婚約を結んでくださるだけでもありがたいのに、それが彼自身の意思だったなんて。

「……反則ですわ。嬉し、過ぎます。」

 目から温かいものが出てきた。
 第二王子が焦っていて、止めなきゃ、とは思うのだけれど涙はとめどなく流れてくる。

 すごく、嬉しかった。

 陳腐な言葉では表せないけれど、他の言葉でも足りない、美しく温かい感情が溢れ出る。

 小さい頃から、厄災を運ぶ"黒持ち"として、同じくらいの年代の子からは、直接的ではないものの、嫌がらせを受けたり無視をされたりしてきた。家族は惜しみない愛情を注いでくれて、とても優しくしてくれたが、幼い私には友達が一人もいなかったのだ。
 あの頃の唯一の救いは、第三王子だった。まだ私達が七歳の時に結ばれた婚約だったけれど、当時の私は第三王子が大好きで、私の好意をちゃんと受け止めてくれていた彼のことを、本当に心の支えのように思っていた。
 そんな彼に傷つけられて、正直、私はこれから先何を大切にして生きていけばいいかわからなかった。

 けれど、今、わかった。

『アマリリス、よかったね。』

 アイカが優しく声をかけてくれる。すごく柔らかい表情をしていた。
 ぽん、とアイカの手が私に触れる。

『ほらほら。涙の美少女もそれはそれでいいけどさ、アマリリスは、笑顔の時が一番素敵だよ。』

「う、ん。ありがとう、アイカ。」

 アイカが笑顔で頷いてくれる。さっき彼女は私は笑顔が良い、と言っていたけれど、彼女の笑顔の方がきっと素敵だ。太陽のような、輝く笑顔。
 彼女は、多分知らないのだろう。彼女の笑顔に、私が勇気づけられていることを。

「────仲睦まじいですね。」

『あのさー。アマリリスを人質に、とか馬鹿な事考えたら…わかってるよね?』

 涙も、いろんな感情が一瞬にして吹き飛んだ。
 どうして第一王子のその発言で、そんな物騒な考えになるのかはよくわからないが、アイカが怒りそうだという事はわかる。
 第二王子も険しい顔をしていて、誰もアイカを宥めようとはしない。といっても、ここには四人しかいないのだけれど。

 ハラハラしながら、アイカと第一王子を交互に見る。アイカは思いっきり第一王子を睨んでいるが、第一王子は微笑みを浮かべていた。
 "一触即発"という言葉を、慌てて頭から振り払う。

『……はぁ。とりあえず話を続けますね。』

 大きな溜め息をついた後に、アイカがプレゼンモード(多分)に入った。
 どうやら落ち着いてくれたようだ。ただ、アイカのオンオフがいまいちよくわからない。
 わからないからこそ、今日はもうこのようなことになって欲しくないと、切に思う。防ぐことも、宥めることもろくに出来ないのだ。

『えーっと…あぁ、協力者ですね。まぁ、これの説明はおいおいします。
 それでは次に、アマリリスについて話しますね。アマリリスは、今までは普通に育ってきました。基本は、ですけど。そしてあの日、私という前世の記憶を思い出したんです。』

「思い出した、という事はもともと知っていた、という事なのか?」

 第二王子の質問に、アイカは頷いた。
 これも手紙で読んだことだが、改めて聞いてもやっぱり不思議な感じがする。

『私とアマリリスは、同じ魂を持っています。』

 その言葉に、二人の王子が揃って首を傾げた。仕方ないだろう。こう聞いてピンとくる人なんて、多分いない。
 前世の記憶を持っている私からしてみると、わりあいと"魂"というのはわかりやすいのだが、この世界では"魂"というと、もっとぼやっとした、とらえどころのないようなものだ。
 私達二人が同じ魂を持っているなどと聞いて、どういうことかわからないのは、ある意味当然なのかもしれない。

「失礼、それは一体どういうことなのでしょうか。」

『簡単に言いますと、私とアマリリスは同一人物です。』

 アイカはそう、最初の前置きと正反対の事を言った。




 すみません。もう少し続きます。

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