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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

7話: のんびりな朝

 そんなこんなで、私は三日後、正式に婚約を結ぶために王城へ行くことになった。
 ちなみに、第二王子の抗議のおかげでデートは先延ばしになったらしい。

「若いわね。ふふっ。」

 王妃様はそうおっしゃって笑っていたが、仕方ないと思う。デート、デートと言われるのは、本当に恥ずかしい。言われるだけでも恥ずかしいのだから、実際にしたら……と思ってしまう。


 そしてついに登城の当日、私は日が昇る前から用意をしていた。

「お嬢様。ドレスはこちらでよろしいですか?」

「えぇ。」

「ネックレスは、どちらがよろしいですか?」

「任せるわ。」

「チークはどうしましょう?」「靴は?」「ブレスレットは?」「髪型はどうしますか?」




(あっはは、大変だねー。)

 アイカがそう言って笑う。今、アイカは私以外からは見えていない。声も、聞こえないようになっている。彼女の意思で、姿を見せる相手を変えられるそうだ。
 便利なものだな、と思う。

 (確かに大変だけど、もう慣れたもの。小さい頃からずっとこうだから。)

 私はここ数日で身につけた思念会話、というものでアイカに答える。これを聞ける相手は限られているものの、口を動かす必要が無いので便利だ。

(そっかー。慣れ、ってすごいよね。いや、アマリリスがすごいのか。)

 (もう。褒めても何も無いからね。)

 ちょっぴりくすぐったくなって、思わず口元が緩んだ。慌てて引き締めようとすると、エミーの笑い声が耳に入る。

「申し訳ございません。ふふっ、もう終わりましたよ、お嬢様。楽になさって結構です。精霊様も、良ければお茶をいたしますか?」

 見ると、さっきまでいた侍女達はいなくなっていて、エミーだけがそこにいた。少し恥ずかしくなって、私は俯く。すると、腕に嵌めているブレスレットが目に入った。

「これをあなたに。もし良ければ、邪魔にならない時はいつも付けて欲しい。」

 そう第二王子に言われ渡されたものだ。銀色のチェーンに、大きなオレンジダイヤモンドが付いている。また、小さいブラックダイヤモンドも付いていて、まるで第二王子のようだった。
 あの後、急ぎ足で王城を去った私達なのだが、これはその去り際に渡されたもの。初めて第二王子から頂いたものだから大切に仕舞っておきたいのだが、いつも付けて欲しい、と言われているため、丁寧に扱おう、と思っている。
 今日付けて行ったらなんとおっしゃられるのかな、と少しわくわくしてしまう。

『おーい、アマリリス?お茶しよー。』

 どうやら、ブレスレットに見入ってしまったみたいだ。急いで鏡台の前から立ち上がると、ティーセットの用意されたバルコニーへ向かう。

 私は今、公爵家のお屋敷に帰っている。
 最初家に着いた時は、お父様やお母様、弟達だけでなく、たくさんの家人に泣かれた。無事で良かった、と。
 屋敷から出ると、なんと領地の人々にも泣かれた。ご無事で何よりです、そう口々に言われた時は、本当に驚いたものだ。
 どうやら、あの婚約破棄騒動は王国全土に広がってしまったらしい。

「お口に合いませんでしたか?」

 溜め息をつくと、勘違いしたエミーが尋ねてくる。私は首を振ると、「違うの」と呟いた。

「あの時の事、一体どれだけの人が知ったのかしら、と思って。」

『あー。確かにすっごく広まってたよね。地方の方へは、かなり尾ひれが付いて広まってる。』

 そう言ってアイカは笑った。風の魔法に適性のあるアイカは、情報収集が得意らしい。

 アイカは、精霊術の使える、精霊術師であるお兄様に聞いたところ、本当に高位精霊だそうだ。しかも、高位精霊は第二位精霊と第三位精霊を含むのだが、彼女は第二位精霊らしい。第二位精霊は、精霊王達についで高位の精霊だ。

 ちなみに、アイカは今まで魔法が使えなかった、と言っている。どうして使えるようになったか聞いたら、「秘密ー」と答えられた。

「まぁ。それは、どんなふうになっているのですか?」

 エミーがアイカに尋ねる。どうやら、今は姿を見せているようだ。

『それは、もう。ほんとに面白いよー。
 かいつまんで話すとねー、婚約破棄を言い渡されたアマリリスが嘆き悲しんだんだって。そして悲しみのあまり自決を選ぼうとすると、その声を聞いた王子────第二王子が病を吹き飛ばしたの。いわく、こんな美しい方に自死を選ばせるなんてあり得ない、ってね。』

 病を吹き飛ばす、とは一体なんなのだろう。
 もともと第二王子は、病よってお姿を見せなかったのでは無い。その膨大な魔力の制御が出来なかったからなのだ。
 もっとも、これは一部の貴族しか知らないらしいが。表向きは、病を患っていたことになっている。

『そして第二王子は、第三王子をララティーナもろとも、天井へと吹っ飛ばした。そして、今にも死にそうなアマリリスにキスをすると、アマリリスの傷が治ったそうです。おしまい。』

「ふふっ。」

 エミーが微笑む。彼女には本当の事を教えているから、面白いのだろう。噂話というものは、往々にして脚色されて伝わっていくものだ。その脚色された内容を楽しむのも、噂話を聞く楽しみとも言えるけれど、当事者の私にとってはそうでも無い。
 止めようとしても、どんどん顔が熱くなっていく。

「き、キスなんてしてないわ!」

『あはは、わかってるって。あ、王子様がいらっしゃったよー。』

 元凶のアイカを少し睨むと、私は窓の外に目を向けた。確かにそこには、王族の紋章が付いた馬車が止まっている。
 うきうきする心を抑えて、私は立ち上がった。

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