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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

5話: もう一人の私との対面

「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私は、第二王子のラインハルト様付きの従者の、ライル・ジークスです。」

「ご丁寧にありがとうございます。わたくしは、クリスト公爵家のアマリリス・クリストですわ。」

「存じ上げております。」

 そう言って、ライルさんは微笑んだ。それがなんだか、エミーと似ている気がした。
 ライルさんの髪は、王都の方では珍しい赤毛だ。クリスト公爵領も王都に意外と近いところにあるから、学校などの色々なところの出身の人達が集まるところ以外では滅多に見ない。

「アマリリス様。僭越ながら申し上げますと、あなたは公爵令嬢ですので、私のような、一介の従者に敬語を使う必要はありませんよ。」

「あら。ですが、ジークス子爵家は名家ですもの。わたくしも、ジークス子爵領のアクセサリーを愛用していますわ。それに、領地経営の手腕も見事ですし。」

 そう言うと、ライルさんは照れたようにはにかんだ。
 お世辞などでは無く、本当にジークス子爵はその才で領地を豊かにしているのだ。特に人材の育成で有名で、ジークス子爵領出身の者は文武両道に秀でている、と言われている。

「自慢の生家です。アマリリス様がご存知とは、まことに光栄です。────あぁ、着きましたよ。」

 その言葉に私は前を向き、言葉を失った。

 美しい彫刻の施された扉は、恐らく黒檀だろう。シンプルだが、それが逆に美を強調している。

 扉が開くと、そこには吹き抜けの居間のような場所があった。ソファやテーブル、棚といった家具達が一体感をもって並んでいる。どれも黒色だが、しっとりとした感じを醸し出していて、部屋全体の心地よい雰囲気を作るのに一役買っていた。
 更には、二階へと登るための階段もあり、その手すりは銀色に輝いている。どうやらこの部屋は、上の階へ繋がっているようだ。
 他にも、色々な物がちょうど良く配置されていて、どうしても目移りしてしまう。

「気に入ってくれたか?」

「っは、はい!」

 声が裏返ってしまった。なぜなら、初めて第二王子のお顔を見たからだ。
 透き通るように白い肌、温かく優しそうな橙色の瞳、長い睫毛に、すっと通った鼻筋、そして美しい黒髪。
 心臓がドキドキ言っている。こんな美しい方は、初めてだ。
 アメジストレインでは登場していないはずだけれど、こんなに麗しい方が攻略対象者ではないのが少し不思議だ。

『いやー、さっすがイケメン。』

「え?」

 聞いたとこのない、精霊の声らしきものが聞こえる。

『うんうん、やっぱ黒ローブよりもちゃんとした服のほうがいいよ。』

 精霊の声は、普通の声と違って、直接語りかけてくるような、不思議な声だ。私は精霊の加護を持っているから常人よりは精霊の声を聞き慣れているが、いつもの精霊達の、どこかほわほわした声と違って、芯が感じられる声だった。
 
 てっきり私しか聞こえていなかったと思っていたが、そうでもないようだ。

「誰だっ!」

 居間で待っていた、もう一人の従者らしき青年が剣を構える。第二王子も、ライルさんも身構えていた。

『ごめん!ごめんなさい!!おどかすつもりは本当に無かったんです。ちょっと、少しお待ち下さいねー。』

 全員が怪訝そうな顔をする。きっと私も、同じような顔だろう。声だけの精霊らしき人は、どこにもいない。ただ、精霊達が大人しいから害意は無いはずだという事はわかる。

『……はい!』

「「「えぇ!?」」」

 突然、誰もいないところから一人の少女が出てきた。その少女は宙に浮いていて、体がほんのり光っている。

 彼女は、黒い髪に黒い瞳を持っていた。この国ではひどく珍しい。それに、見た事の無い服を着ている。上は白いシャツで、下はチェック柄の膝上のスカートだ。この国、この世界の常識では短すぎてはしたないはずだけれど、不思議ときっちりした印象を与える。

 ……なんだか、私はこの服装を知っている気がする。

『やっほー、アマリリス!そしてラインハルト殿下!私です、アイカですよー!!』

 制服だ。そうだ、制服よ!前世の私が学校で、毎日着ていた服。

 これは、私の前世の記憶にあった服装のはず。
 ということは…

「アイカなのね!」

『うん、さっきそう言ったんだけどな…』

 ぶつぶつアイカが何か呟いている。だけど、今はそれどころではない。
 私は淑女の礼を取った。
 昔から、お母様に言われているのだ。恩がある相手には、敬意を持って接しなさい、と。

「アイカ様。さきほど、お手紙を読ませていただきました。今まで受けたご恩、どうやって返せば良いのか…」

『あ、ちょっと、アマリリス!?頭なんか下げなくていいからね!?私はただの女子高校生だよ!?いや、過去形かな…?けど、どっちにしろ、頭下げないでー!!様付けしないでー!!』

 あまりにも焦ったように言われ、私は頭を上げた。あたふたしているアイカが面白くて、つい笑ってしまう。アイカも困ったように笑った。

『なんで笑うかなー。私、一応高位精霊だよ?』

 軽く口にされたその言葉に、全員が驚いて息を呑んだ。
 高位精霊は、強大な力を持つ存在で、簡単に会える相手ではない。なぜなら、ほとんどの高位精霊は神樹や神器に宿っていて、人の前に滅多に姿を現さないからだ。しかも国一つ簡単に滅ぼしてしまう力を持つため、多くの国はそれはもう丁重に祀っている。
 我が国も、もちろん例外ではない。ある土地に宿っている大地の精霊や、王城にある宝剣に宿っている剣の精霊などに対して、特定の家や組織が管理をしている。
 それほどに高位精霊という存在は国家にとって重要で、無視できないものなのだ。

「アイカが、高位精霊……」

「……おい、お前!嘘をつくな!我が国には五人しか、高位精霊はいらっしゃらないんだぞ!」

 さきほどの青年が声を荒らげる。第二王子やライルさんが慌てるが、アイカは大して気にしたふうも無く笑った。けれど、彼女の目は笑っていない。

『嘘はついてないよ。信じるか信じないかは、ってやつだね。
 あ、そうそう。私はアマリリスの守護精霊だからね。自分に対する侮辱はある程度は我慢するけど、アマリリスを傷付けるやつには容赦しないから。』

 風が吹き荒れる。更には、そこかしこで火花が散った。ただ不思議な事に、私の周りだけはその影響を受けていない。
 驚いて周りを見渡すと、花瓶がカタカタと音を立て、壁にかかっている絵画が今にも落ちそうに揺れていた。

「アイカ!怒りを鎮めてくれ!」

 第二王子がそう叫ぶ。
 アイカは第二王子の呼びかけに視線を返すと、ぷいと顔を背けて私の隣に降り立った。
 トン、と彼女が床に足を付けた瞬間、吹き荒れていた風が一瞬にして収まった。

 部屋を見渡すと、何事も無かったのようだ。だから余計に、アイカの力のすごさがわかる。

『別に怒ってはないよ?今のは、アマリリスを傷付けようとするやつへの警告。』

「……ここに、アマリリス嬢を傷付ける者がいるのか?」

 第二王子が低い声で問う。
 その様子を見て、私は思わず質問をしそうになってしまう。「どうして私に対して、こんなにも優しいのですか」、と。
 おそらく、同じ黒持ちだからだと思うのだけれど、どうしても自分に都合がいい想像をするのを止められない。

「アイカ、もしいるのだとしたら早く教えて欲しいのだが。」

『いや、いないよ。ただ、そのドアの奥にいるお偉いさんに知って欲しくてね。』

 アイカはそう言って一つの扉を指さした。すると、扉が開き、中から複数の方々が出てくる。

 その方達の顔を見た瞬間、私はさっきまでのときめきなんか忘れて、いつも以上に丁寧に淑女の礼を取った。

「そんなに畏まらないで。これは非公式な対談なのですから。」

「えぇ。愚弟の犯した罪への謝罪も込めたものですしね。」

 そこにいらしたのは、ウィンドール王国王妃のレシア様と、第一王子のユークライ殿下だった。

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