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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

3話: 第二王子と、もう一人の私

 ラインハルト・ウィンドール第二王子。

 彼の姿を見たことある者は少ない。幼い頃に魔法を暴走させてから、ずっと王宮の奥で療養────隔離されていたからだ。
 初めて見る第二王子の黒髪に、人々がどよめき後ずさる。黒髪の者は、この国には少ない。いたとしても、焦げ茶色に近い黒色だ。それは、瞳の色にも言える。だから、髪や瞳が黒い者は忌避されがちなのだ。

 周りの人が声を上げ、恐れ第二王子から距離を取ろうとする中で、私は動かなかった。
 それは別に、彼に同情したからではない。純粋に、彼の姿に惹かれたからだ。
 
 私は彼の後ろ姿しか見えていない。けれど、それでも彼の気品溢れる佇まいが、私の心を掴んで離してくれなかった。

「どうしてここに……」

 第三王子がポツリと呟く。その声には、さっきまでの気迫は無かった。

「今日の魔法学校の卒業パーティーで、本来なら私の療養終了を知らせる予定だったのだ。」

 それは知らなかった。前世で何回もプレイしてる大好きなゲームなはずだけれど、第二王子の名前は全然出てきてない。もちろん、この悪役令嬢の断罪イベントでも。

「そ、そんな事聞いてないぞ!!」

「そうですわ。あなたには、伝えていないのだから。」

「お、お母様!?」

 立ち上がった王妃様が注目を集める。
 王妃様は、紺色の髪と橙色の瞳を持つお方だ。過去に何回かお会いした事があるが、その美貌と威厳からか、毎回緊張してしまう。
 紫色の、艶やかなドレスを翻し、カツカツとこちらに歩まれる王妃様に、会場にいた人々が頭を垂れる。
 私も、淑女の礼をとり頭を下げた。

「サーストン、剣を仕舞いなさい。」

 王妃様の、感情の抑制された声が、冷たく第三王子に命令する。
 それに対し、第三王子は驚きのあまりか動けなくなっていた。

「で、ですが……」

「仕舞いなさい、と言っているのがわからないの。」

「っ!!」

 王妃様は、いつもはこんなふうになさる方ではない。それはきっと、子である第三王子もよく理解するところだろう。

 第三王子は緩慢な動作で剣を仕舞う。
 それを見た瞬間、私の中で張り詰めていたものが切れた。

 薄れていく意識の中で、誰かが私の名前を呼んだ気がした。




「アマリリス嬢!?」

 ラインハルト様が私に駆け寄ると、心配そうに顔を覗き込んでくる。不快感はまったく無い。まぁ、もう一人の私・・・・・・には少し申し訳無いけど。

 ラインハルト様は、すっごいイケメンだった。
 白磁のよう、もしくは雪のよう、と形容したくなるくらい白く透き通った肌。夜の闇よりも深い黒の髪、そしてお母さんの遺伝であろう、夕焼けのような温かいオレンジ色の瞳。

 どうして攻略対象じゃないのか。
 ただそれだけが不思議になる人だった。

「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません。わたくしは平気ですわ。」

 そう言って、私は笑みを浮かべる。本当は、多分平気じゃないんだけどね。

 もう一人の私────アマリリス・クリストの意識は、恐らく疲労のせいで疲れきって、そして気絶した。
 その代わりにこの体を使っているのが、私なのだ。

「そう、か……」

 私の目を見るラインハルト様は、すごく懐疑的だ。なんだろう、と思うと彼がぐっと体を近づけて耳元で囁く。

「君の右目。瞳の色が変わっている。」

「え、えぇ!?」

「隠した方がいい。……それと、君はアマリリス嬢じゃないね。」

 言葉に詰まる。これは、正直に言っちゃった方がいいのかな?
 ただ、この衆人環境の中では言いたくない。なんとなく。

「ラインハルト殿下。まことに恐縮ですが、少し疲れてしまったので外で休憩させて頂きたいのですが。」

 正しいかわからない敬語で、取り敢えずそう尋ねてみる。

「あぁ、構わない。────お母様、失礼致します。」

 ラインハルト様はそう言って、私を外へ連れ出してくれた。




「大丈夫か。」

 会場の外のベンチで、私は腰掛けている。しかも、ラインハルト様と一緒に。
 王族と一緒なんて恐れ多い、と思ったけれど、彼に座るよう言われたから仕方ない。

「大丈夫ですわ。」

 どっちかって言うと、今この状況の方がやばいって。
 私の返答にラインハルト様は頷くと、いきなり聞いてきた。

「それで、君は誰だ?」

 どう、答えればいいんだろう。
 ゆっくりと言葉を探して、できるだけ誤解を生まないようにするのが、多分今の私にできる精一杯の誠意だ。

「私は、アマリリス・クリストと同じ魂を共有する者、なんだと思います。ただし、意識は別です。ですので、私はアマリリスではありません。」

「そんなことが、あるんだな。不思議だが、君の様子を見るに本当の事なんだろうな。」

 良かった。納得してくれたらしい。
 ホッとして息を吐くと、ラインハルト様がこちらを向いた。その目には、真剣さが宿っている。
 少し、からかいたくなってしまう。

「さて、では少し質問をさせてもらいたいのだが。」

「構いませんよ。ただ、私とアマリリスは違う人間なので、アマリリスに関しての質問でしたら私の考察になるんですけどね。」

 私の言葉に、ラインハルト様が少し驚いたように目を見開いた。

「そう、なのか。」

「はい。私はあくまで、アマリリスの人生、というお話を知っているだけです。それでも、言えることがありますよ。」

 自然と頬が緩む。自分で言っちゃうけれど、今の私の容姿は結構いい。というか、普通に美少女だ。さすが、第三王子の婚約者、というところか。
 話が逸れたけれど、ともかく今の私は美少女だ。そして、ラインハルト様はイケメンだ。
 要するに、美男美女カップルである。

「多分、アマリリスはあなたに好感を持ってますよ。恋愛感情に発展する可能性、ありありです。」

 そう言うと、ラインハルト様の耳がどんどん赤くなっていく。
 うぶだなぁ、と思った。

「出来ればアマリリスと婚約してあげて下さい。」

「……二つ、言いたいことがあるんだが。」

 続きを促すと、ラインハルト様はゆっくり話し始めた。

「一つ目なんだが、君は、アマリリス嬢と同じ声で同じ容姿なんだ。だから、その……」

「あぁ、了解です。」

 ちょっと意外な話だった。まったく、本当に恋愛に対する免疫が無いのか。まぁ、からかいがいがあって面白いけど。

「二つ目は、その、だな。言い難いことなんだが。」

 やけに歯切れが悪い。私のからかいセンサーが反応した。
 笑顔を作って見せると、ラインハルト様は更にしどろもどろになる。

「アマリリス嬢の、僕に対する考え、というか、印象についてなんだが。」

「あ、なんだぁ。」

 可愛い人だ。同じく恋愛が下手なアマリリスとは、きっとお似合いのカップルになるだろう。

「さっきも言った通り、好印象です。ただ、今回の件で、王族…というか、第三王子さんに対する恐怖心がありますね。だから逆に、助けてくれた第二王子さんに対する信頼がありますよ。」

「そう、か。」

 ラインハルト様は、そう言って笑った。この人は、本当にアマリリスが好きなんだろう。
 今まで見守ってきたアマリリスが、こんないい人とくっついてくれるのは、すごく嬉しい。

 アマリリスは知らないだろうけど、私はこの子が生まれた時から、ずっとそばにいた。時には助けられる範囲で助けたり、この子を加護する精霊達と話したりしていた。
 だから、今回は本当に焦ったのだ。私は魔法を使えないし、勝手に動いてはこの子を傷付けるかもしれない。精霊達も、怒り狂っていたけれど、手出しを躊躇っていた。彼らは、何よりもこの子の意思を優先させるから。
 そんな事情があるから、アマリリスを助けたラインハルト様に、私達は猛烈に感謝している。彼はきっとしばらくしたら、新しく受けた精霊の加護に驚くだろう。

「と、ともかくだ。」

 ラインハルト様が咳払いをして話し始める。まだ耳は赤いけど。

「愚弟の…サーストンの事や、アマリリス嬢のこれからの事なんだが。」

 その後、私とラインハルト様はしばらく話した後に別れた。疲れきった私は、ラインハルト様の計らいで王城で泊まる事になった。


 
「さて。」

 通された部屋で、私はランプを点け、持ち歩いているノートを取り出した。そこに文字を書いていく。

 どう伝えればいいのだろう。誰よりも大事な、誰よりも近い彼女に、この大きな秘密を、どうやって。

『もう一人の私、アマリリスへ────』

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