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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

2話: 遠ざかる死

 キーン

「…えっ?」

 短剣が何かに当たる感覚がしたけれど、それがあまりにも硬く、私は短剣を取り落としてしまった。耳に痛い高い音が響く中、剣が床に落ちて音を立てる。

 びっくりして目を開けると、私の胸の少し前に半透明の光る魔法陣が浮いていた。

「な、なんだあれは!?」「防御魔法では無いか!?」「それでも、誰がどうして!?」

 周りの人が驚いて、口々に疑問を呟いたり叫んだりしているが、そうしたいのは私の方だ。
 しばらく魔法陣を見つめていると、だんだん光を失っていく。しばらくすると、私の命を守った魔法陣は消えてしまった。
 呆然と立ち尽くす私に、王子が怒声をぶつける。

「何をしている!!さっさと死んでしまえ、この売女が!!!」

 思わず、死にゆく身だというのに、カチンときた。私は今まで、公爵令嬢として誇りを持って生きてきたというのに。
 王子の言葉に、周りの貴族達も気を害したようだ。彼の方を見ては、ひそひそと囁いている。

「そうですわ!!サーストン様の前から早く消えてくださいませんこと!!!」

 そこに、ヒロインの甲高い声が響いた。さっきまで押し黙ったままだったのに、急に叫んだのはなぜなんだろう。

「サーストン様はあなたのせいで、すごくお疲れなのです!まったく、そんなこともお気付きになられないなんて、哀れみを覚えますわ。」

 私は内心眉を顰めた。いくら王子の婚約者といえど、公爵令嬢に子爵令嬢が言っていい言葉ではない。
 しかも、私は次期公爵では無いものの、一応伯爵を名乗っているのだ。
 不敬罪に問おうと思えば、簡単に問えてしまう。

「全くだ。さぁ、短剣でその腐った心臓を刺すんだな!今度は小細工など許さないぞ!」

 どうやら王子は、私があの防御魔法を使ったと考えているようだ。そんな事ないのに。

 この場合はどうするのだろう。約二人分の人生経験で考えてみる。
 だが、いくら私が自決しようと、なんだかまたあの光り輝く魔法陣が出てくる気がした。

 何も出来ずに立ち尽くしていると、しびれを切らした王子が舌打ちをすると、自身の帯刀する剣を抜いた。

 シャッ、と冷たい音が響き渡る。

「お前が自分で死ねぬというのなら、俺が殺してやろうではないか。」

 あぁ、私は愚かだった。どうしてこんな人を好きになったんだろう。

 今更、後悔の波が押し寄せるがもう遅い。

 王子が加速魔法を使い、私に動く隙を与えず迫ってくる。王子の、眩しいほどの金髪が宙を舞った。
 思わず目を瞑ってしまう。

  キーン

 さっきと同じ、金属同士をぶつけたような高い音が響いた。そして、やはりそこにはあの魔法陣がある。

「な、ふ、ふざけるな!!」

 怒りと羞恥に顔を真っ赤にし、王子が私に剣を向けた。彼の澄んだ青い瞳には、私の姿が映っている。

 もはや白、とほど思えるくらい色の薄い銀髪。夜の闇ほど暗い黒の瞳。

 今見ると、私の黒い目はなんだか前世を思い出させてくれるようで少し嬉しい。
 だが、悪魔の黒い瞳孔を連想させる瞳に、小さい頃はとやかく言われたものだ。

 そう言えば、王子はこの瞳に対して悪口を言ってこなかったな…
 それは優しさだったのか、それともただ私に関心が無かったのか。今となってはきっともう分からないだろう。

「ま、魔女が!!その黒い瞳こそ、その証拠!!」

 そんな事を考えていた時だったから、その言葉のショックはすごいものだった。
 何も言い返せずに佇んでいると、温かいものが頬を伝う。
 泣いているのか、と気付いた。

『まったく。まじで信じられないよねー。日本に行ってみろっての。……だから泣くなって。』

 急に、頭の中で声が響く。その声の主に正体を尋ねる前に、私の眼前には王子が生み出した風の刃が迫っていた。

 今度は目を閉じない。王子は、王国きっての風の魔法の使い手だ。きっと私は今度こそ死ぬだろう……

 キーン

「えっ!?」

 今度は、私の目の前には魔法陣は無かった。代わりにそこにいたのは。

「……大丈夫か、アマリリス嬢。」

 黒いローブを羽織った、見知らぬ人だった。
 声からして青年、しかも私と同じくらいの年齢だということはわかる。また、その佇まいから彼は高貴な身分の方なんだろう、ともわかった。

「な、ぜ?」

 わからないのは、彼が私を助けた理由だ。今も断罪されている悪役令嬢を助けることに、なんの利点があるんだろう。

「それが、僕のすべき事だったから、だね。」

 そうとだけ彼は言い、王子の方へ向く。彼の背は、私をひどく安心させてくれた。

「だ、誰だ貴様は!無礼だぞ、ここをどこだとわきまえる!ここには俺だけでなく、王妃もおられるのだぞ!!」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらう。」

 黒ローブの彼の凛とした言葉に、会場の人々がどよめく。
 このパーティーにおいて、第三王子であるサーストン王子の身分は、王妃殿下を除いて一番高い。そんな彼にぞんざいな口をきくなど、普通ならあり得ないことだ。

 興奮と困惑が入り混じった会場の異様な雰囲気にも、黒ローブの彼は全く動じずに、美しい―――男性に対して使うかはわからないけれど―――声で、言葉を紡ぐ。

「ここは王妃殿下がいらっしゃる。その御前にて血を流そうとするなど、それこそ非礼にあたるだろう。」

「くっ……」

「その上、このアマリリス嬢が罪を犯した証拠は、今ここにあるのか?それも無しにこんなことをするなど、許されることでは無い。王族にあるまじき行為だ。」

 王子が悔しそうに、黒ローブの彼を睨む。その眼光に、私は震えそうになる。こんなにも王子が怒るなど、初めて見た。

「偉そうに、ふざけるな!お前は一体何者なのだ!!」

 王子の質問に、彼は無言で首を振るとフードを取った。

 その瞬間、彼の艶のある黒髪がふわっと広がる。肩より少し上まで伸ばした髪は、まるでそれ自体に命があるかのように美しい。
 ほぉ、と次々に観衆から声が漏れる。

 言葉を失った私の耳に、王子の困惑したような声が届いた。

「あ、兄上?」

 一体、何が私の周りで起きているんだろう。

 もうすでにパンクしそうな頭で、私は必死に考えた。

 どうやら、私は弟王子に殺されかけているところを兄王子に助けられたらしい。
 しかも、彼のことを私が知らないことから考えられる、彼の正体は。

 ウィンドール王国第二王子、ラインハルト・ウィンドール。自らの持つ魔力の負荷に耐えられず、体調を崩して療養中と言われるその人だ。

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