階層ボスだけど暇なんで冒険してもいいですか?

つくつく

冒険者になってもいいですか?

人がかれこれダンジョンを攻略してきてかなりの年月が経った。しかし、未だに100層まであるダンジョンを10層までしか攻略できずにいた。
「暇だー!!!」
ちょっとした気分で全力の声を出す。
反響した声が地鳴りのように鳴り響いている。
しかし、その声に対して、何かリアクションをしてくれる者は誰もいなかった。
それもそのはず。何せ今いる場所はー
「100層のラスボスがこんなにも暇だとは」
と、愚痴をこぼす。
ここはダンジョンの一室。しかし、門は一つしかない。自分がこのダンジョンの最後の砦なのだ。自分が死ぬようなことがあれば、このダンジョンは崩壊するようにできている。言わば、このダンジョンのコアとも言える。そんな自分が一番安全な場所にいるのは当たり前のことだ。
それだけに、一番退屈なのだ。
寝転がり空を仰ぐ。一番最上階にあるため、空に一番近い場所にある。
天気は晴れだ。澄み渡るような青色の空だ。
そんな空を見上げながら、ぼーっとしていた。
上体を起こし、門を見つめる。
そして、静かに立ち上がり、その大きな門をゆっくりと開けた。
階段を降りていき、99階層のボス部屋まで降りる。するとそーっと門が開く音が聞こえた。99階層の二つある門の出口からドアを開ける。すると年若い青髪の少女が入り口のドアをゆっくりと開けている最中だった。そんな時、思いもしなかった反対側のドアから角を生やした黒髪の男が入ってきたのに驚きの表情を浮かべていた。
そして、それは自分にとって嬉しいことだった。何せ、はじめての会話の相手だ。それも初めての人型で反応があったのは初めてだった。
「だ、だれ?」
と首を傾げながら問うと
「私はやましいことなどしてない」
と胸を張りながら抑揚のない声が返ってきた。
どうやら相手は自分を警戒しているようだった。
胸を張ってふんぞり返っている少女に近づき
「俺と冒険しないか?」
と、尋ねた。
少女は一瞬、驚いてか沈黙していたが、やがて少し、ほんの少し、口元が笑ったように見えた。

それから少しの時間が経過した。
街はとても賑わいを見せていた。辺りには今まで一度も見たことがないような食べ物や、物が置かれていた。沢山の人や亜人種がこれでもかと言うほどいた。
しかし、そんな賑わいとは正反対に緊張が走っていた。場所はギルドと言われる冒険者組合だ。そんな場所でなぜ?答えは簡単だ。
「え、えっと〜」
と困ったように受付の女性が困ったように頬を人差し指で掻いていた。
「あ、あの〜。名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
名前。相手を呼び合う名称のことだ。しかし、今までそんな相手はおらず、名前などありはしなかった。
そんなことを相手は知る由もなく、名前が分からないなんてある訳がない。言葉が伝わってないのでは?と思っている始末で。30分が経過した。
「な、名前、、だと?」
助けを求める目で横にいる青髪の少女を見ると、少女も驚きを隠せないと言った表情をしながら
「な、なまえ!?美味しいの?」
と意味不明なことを言っていた。きっとそれほどまでに動揺しているのだろう。
何かないかと辺りを見渡していると、横にあった鏡が見に入った。そこには全身黒色の服を着た角の生えた男が立っていた。
「く、クロ、クロだ」
咄嗟に言った。そして、それに受付の女性は
「は、はい!クロですね!クロさんですね!?」
と嬉しそうに紙に名前を書いていた。
そして、横にいる目をキラキラさせながら紙を眺めている少女を見つめ、その髪の色がいつも自分が眺めている空に似ていると思った。
だが、ソラは少し安直か。まぁ。クロもなんだが。と思い、視線と記憶を巡らす。
すると、視線にボードが映った。そこには紙が貼られていた。
「こいつは、、、レヴィ」
その紙に書かれていた湖の名称からとった、安直なものに結局なってしまったが、いいだろう。
「これで冒険者の手続きは人通り終わりました。最後にお二方の魔力の属性とその総量を調べたいと思います」
と言いながら水晶のようなものを取り出した。
「ねぇねぇ」
と言いながら裾を引っ張ってきたレヴィを見るとかぶりつくように紙を見ていた。
「これ食べられる?」
「こ、これは食べ物でないので食べれませんよ!」
と自分が答えるより早く、受付の女性が焦ったように言ってきた。
「そう。残念」
としゅんとなり落ち込んだ様子を見せた。
「では、ここに手をかざしてください」
するとソラがその水晶に手を伸ばすと、水晶が灰色に眩しく光った。
その光に周りにいた冒険者たちが驚いて一斉にこちらに注目した。
「な、な!?」
と受付の女性が一番驚いた様子を見せた。
「ど、どうすれば?ギルドマスター?マスター!」
と慌てているのを無視して、水晶に手を伸ばした。
その瞬間。水晶から真っ黒な煙が湧き出てきた。
これ以上はまずい。と判断し、急いで手を引っ込めたが手をくれだった。水晶がパリンと言う音を立てて割れた。
「え、えっと〜。魔力量は、どちらもS?です。属性は、今までに見たことがないので、、なんとも言えません。マスターがいる時にまたう、伺ってください」
と、驚きすぎてか、視点が全くあっておらず、覇気のない声が返ってきた。
だが、やっとこれで冒険者になることが出来た。
ギルドを出るなり、横にいたレヴィが裾を握りながら
「どうして、冒険者になったの?」
と聞いてきた。それにフッと笑い
「決まってるだろう。冒険をするためだよ」
「階層ボスなのに?」
「階層ボスでも冒険者になれたんだ。今や俺らはただの冒険者だ。冒険者の冒険を邪魔する権利はどこにもない」
そう言って今まで自分がいた、そびえ立つような驚くほど大きいタワーを見た。
「さぁ。階層ボスの冒険の始まりだ」

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