異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
VS 黒の剣士3
「変身――ロスト・トリザルティ」
「なんの真似だ……?」
俺がロストの姿に変身したその直後。
クロウの魔剣が寸前のところでピタリと止まる。
「ああ。やっぱりそうだったのか」
どうやら俺の推測は完全に当たっていたらしい。
やつの弱点が見えてきた……!
考えてみれば最初から色々と不自然な点はあった。
いくら異世界に召喚されてチート能力を授かったとしても、俺と同じ日本人がいきなり殺人鬼になったりするだろうか?
答えは否。
人間はそう簡単に変わることはできない。
ならどうしてクロウは躊躇なく人を殺すことができるのだろうか?
そのヒントはクロウのことを観察していれば自ずと見えてくる。
まず、聖剣と魔剣の二刀流という装備。
中二病過ぎるでしょ!
普通の良識ある人間なら恥ずかしくて装備できないわ!
これだけなら実利を取った可能性もあるが、更にそこでカラスの羽を模した黒色のマント。
そして極めつけは本名が『クロス』なのに『クロウ』と名乗ってしまうネーミングセンスである。
そう。
つまりクロウは、非情な戦闘狂なんかじゃない……!
単なるオタク!
ゲーム廃人だったのだ!
訓練されたゲーム廃人がゲームの中で『戦闘狂キャラ』に『ロールプレイング』することは、よくあることだろう。
何を隠そう俺も……中学生くらいの時は似たようなことをした経験があるからな!
「どうした? 早く俺のことを斬ってみろよ」
「もちろんそうさせてもらう。我が魔剣のサビとなるがいい――!」
俺の予想が正しければクロウに女の姿をした俺を斬ることができない。
アニメのキャラクターのような童顔&ナイスバディのロストは、俺たちオタクにとって尊い存在である。
そもそもにしてクロウが本当に魔族を憎んでいるのならば、キャロライナのことを殺しているはずだからな。
おそらくクロウは……日本に住んでいたころは女の子に縁がない引きこもりのゲームオタクだったんだろう。
戦闘狂キャラにロールプレイングすることでサイコパスを演じているが、根っこの部分で女性に対する苦手意識が抜け切れていないのである。
「落ち着けよ。おっぱいを触らせてやるからさ」
クロウの左手を奪って、胸の上に置いてやる。
女の体になって男におっぱいを揉ませるなんて気色悪いが……そこはロストとの一件で経験済みである。
こっちは命がかかっているので背に腹は代えられない。
もみもみ。
もみもみ。もみもみ。
おっぱいを揉ませる度にクロウの顔色が赤くなっていくのが分かった。
「き、貴様……頭がおかしいのか!?」
「んん~? そんなこと言って、実は嬉しいんじゃないのか~?」
「バババッ、バカなことを言うな! 貴様の正体は分かっている! 男の胸なんか揉んで誰が喜ぶと言うのだ!?」
「鼻血、出ているみたいだけど?」
「~~~~っ!」
こりゃビックリ。
興奮して鼻血とか出すやつとかリアルで初めて見てわ!
海の中で鼻血を出すと、赤い線のようなものが空に向かって立ち上っていくから面白い。
「――ふんっ。興が削がれた。き、今日のところはこの辺で勘弁してやろう」
格好良いセリフを吐いているように見えるが、クロウの顔色はトマトのように赤くなっている。
間違いない。
こいつ……俺と同じ童貞だわ(確信)。
まぁ、どんな形であれ勝ちは勝ちだからね?
かくして最強の勇者との戦闘は、最高に格好悪い形で幕を下ろすことになるのだった。
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