異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

転移者



 それから翌日のこと
 ついにやってきたアフロディーテとのデートの当日。


(おーい。ディー。まだ着替えは終わらないのかー?)

(まだ! まだだからっ! 覗いたらタダじゃおかないんだからねっ!)

(はいはい……)


 どうやらアフロディーテは水着から外出用の衣服に着替えている最中らしい。

 気のせいかな。
 以前にもたしか、同じようなやり取りをしたような覚えがあるぞ。


(……もういいわよ)


 コンタクトのスキルで了承を得たのでアフロディーテを召喚する。


「ど、どうよ?」


 心なしか緊張した声音でアフロディーテは口を開く。
 アフロディーテが身に着けていたのは、白色のブラウスと黒色のスカートを合わせた服であった。

 その構造は複雑の一言に尽きる。

 魅力的なデザインをしたいることは間違いないのだが、上と下がどうやって繋がっているのか全く分からないぞ!


「あれ? そんな服持っていたのか?」


 これは意外な展開である。
 てっきり俺は以前に買った『踊り子の妖装』の方を着てくると思っていたんだけどな。


「ふふふ。この服はアタシがロストちゃんに頼んで作ってもらったのよ。屋敷に良い生地が余っていたから何か作れないかと思って」

「えっ。ロストがっ!?」


 またまた意外な展開である。

 知らなかった。
 アフロディーテとロストって、何時の間にそんなに仲良くなっていたのだろうか。


「う、うん。まぁ、フツーに良い感じなんじゃないか?」


 ロストの作った服は店で購入するのと比べても何ら遜色のないクオリティを誇っている。

 料理と家事に加えて裁縫まで得意だったのか。

 ロストの女子力が留まることを知らない!


「え~! そんだけ~!?」 


 俺のリアクションが不満だったのか、アフロディーテは俺の表情を窺うようにして顔を近づけてくる。

 お、おかしいぞ。
 どうしてオレ……アフロディーテを見てドキドキしているんだ!?


「んん? もしかしてソータ、普段と違う雰囲気のアタシにドキドキしているわけ?」

「べべべ、別にそんなんじゃねーし」


 分かったぞ。
 どうやら俺がドキドキする原因は、アフロディーテが着ている服にあったらしい。


 さしずめこれは『童貞を殺す服』とでも命名しようか。


 ロストのやつ……!
 とんでもない服を作ってくれたな。

 身に着けた女子の清純オーラを倍増させるこの服は、女性経験の少ない男子のハートをピンポイントで射貫く破壊力があった。


「うふふ。照れちゃって可愛い。ほらっ。今日はアタシがエスコートしてあげるからっ」


 アフロディーテは俺の腕を取ると、小悪魔スマイルを浮かべる。

 ぐぬっ。
 ぐぬぬぬぬっ!

 アフロディーテのくせに! アフロディーテのくせに!

 普段はアホ面ばかり晒している女の子に主導権を握られると、なんだか負けた気分になる。


 ~~~~~~~~~~~~


 予定していた道具屋での用事は、思っていたより早くに終わることになった。


 スキルの種 等級A
(食べるとランダムで職業スキルを習得する魔法の種)


 値段は1つ500万コル。

 ダンジョンの深部でしか入手できないとされているアイテムなので、値が張るのは仕方ない。

 これでも常連価格ということでかなり割安ということであった。

 以前までなら間違いなくスルーしていただろうが、今の俺は一味違う。

 なんと言っても以前のクルルのアジトの探索で、2億コルもの大金を手にしているわけだからな。

 なんだか最近は金銭感覚が壊れている気がしないでもないが、今後のことを考えると、500万コルは安い出費といえるだろう。


 ~~~~~~~~~~~~


 用事を済ませた後は、アフロディーテのご機嫌取りの時間である。

 俺はアフロディーテに連れられるがまま、セイントベルにある服屋という服屋に足を運んだ。

 少し勿体ないような気がするが、幸いなことにカネなら売るほど余っている。

 そういうわけで俺は、アフロディーテに言われるがままに服を好きなだけ買ってやることにした。


「うげー、お、重い……」

「も~! 男の子なんだから我慢しなさいよ!」


 そして今現在。
 もれなく俺の両手は、女性用の衣類の入った袋で完全に塞がれることになった。


「あ! そっちのキャミソールはシエルちゃんにピッタリ合うわね! あっちのワンピースはロストちゃん向けって感じ!」


 なるほど。
 自分の服だけでなく他の女の子たちの服も選んでいるのか。

 道理で俺の両手の紙袋が岩のように重くなるはずだ。

 もともとクルルのアジトで手に入れたカネだって俺一人の力で手に入れたものでもないしな。

 自分だけ散財しておいて、仲間には節約を強いるなんて器の小さい真似だけはしたくない。

 今日だけは徹底的にアフロディーテのワガママに付きやってやることにするか。


「ふっふふーん♪ アッタシ~の名前は~アフロディーテー↑↑ プリプリプリティ! 超絶キュート! みんなが振り向く女神なの~♪」


 出た! いつもの変な歌!

 そんなこんなで5件目の服屋を回ったことには、アフロディーテの機嫌が最高潮に達していた。


「どうしたのよ。ソータ。今日はやけに優しいじゃない」

「ん? そうか?」

「こんなに優しくされると何が裏があるんじゃないかって疑いたくなるわね。服は買ってくれるし、荷物は持ってくれるし、ほんとビックリよ」

「別に。俺が優しいのは何時ものことだろうが」

「……ソータの場合、本気でそう思っていそうなところが恐ろしいわね」


 ったく。
 人のことを鬼畜扱いしやがって。失礼なやつだな。

 この御時世に、俺のような清廉潔白な純朴少年は早々いるもんじゃないぞ。


 モロズミ・シンジ
 種族 :ヒューマン
 年齢 :16


 などと考えていると、前の方から俺と同じ純朴そうな少年が歩いてくる。

 ん? モロズミ・シンジ?
 なんだか随分と日本人っぽい名前だな。


「あ、あなたはもしかして……!?」


 15歳という年齢の割に随分と幼く見えるその少年は、アフロディーテの前でピタリと立ち止まる。


「まさか……アフロディーテ様なのですか!?」


 なんだと!?
 こいつ……アフロディーテの知り合いなのか……?


「えーっと……。貴方は一体……?」

「ボクですよ! ボク! 貴方に導かれてアーテルハイドに召喚されたモロズミ・シンジです! その節は本当にお世話になりました!」


 そこでまで聞いたところでピンときた。

 何を隠そう俺にゲットされる前のアフロディーテは、地球と異世界を繋ぐナビケーターとして天界で働いていたのである。

 つまりシンジは、俺と同じように日本から召喚された人間なのだろう。


「あ~。うん。シンジくんね。覚えている。覚えている」


 ウソだ! 
 今こいつ……完全に忘れていたって顔をしていたぞ!?

 まぁ、アフロディーテは俺とかシンジ以外にも沢山の人間を異世界に送っていたらしいし仕方ない部分もあるんだろうけどな。


「ところでアフロディーテ様は一体どうしてアーテルハイドに? アフロディーテ様には、地球と異世界を繋ぐ、ナビゲーターとしての崇高な仕事がありましたよね?」


 うぐっ。いきなり痛いところを突いてきたな。

 アフロディーテが地上で生活するようになったのは、もちろん俺がカプセルボールでゲットしてしまったからである。

 だがしかし。
 バカ正直にそのことを打ち明けると、妙なトラブルに巻き込まれてしまうような気がする。


「そ、それはその……」

「アフロディーテ様が地上に降りてきた目的は? それに……そこにいる男は何者なんですか?」


 シンジからの質問ラッシュが続く。

 頑張れ! アフロディーテ!

 アホの子属性を持っているお前に完璧な言い訳など期待してはいない。

 とにかく、この場をやり過ごせることができれば上出来だろう。


「こ、こいつはその……アタシの下僕よ! アタシは今、天界での仕事が休暇中で、下僕と一緒に異世界観光をしているの!」


 はああああぁぁぁぁん?

 よりにもよって荷物を持っている俺を下僕扱いかよ!?

 クッ……。
 しかし、今は我慢だ。

 アフロディーテだって本気でそう思っているわけではないだろう。

 なんたって俺は優しくて純朴な少年だからな。

 ちょっとやそっとのことでは怒ったりしないのである。


「なるほど。道理で」


 んぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおん?

 おい。シンジ!

 一体どの辺が「道理で」なんだ? コラ!

 舐めてんじゃねぇぞ! 
 後でその辺の話を詳しく聞かせてもらうからな。 


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コメント

  • ウォン

    面白いからよし!

    1
  • Kまる

    あれ?なんか………デジャブ……(二回目)

    2
  • カカミツ

    魔剣とか持ってんのかなぁ

    2
  • オータ

    このすばだなぁ~

    7
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