異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

VS マグマロック



「……疲れたわ。ソータ。そろそろ休憩にしましょ」

「ん。そうだな」


 どうやら俺たちは飛竜の山脈というエリアを舐めていたらしい。
 結構歩いたつもりだったが、山頂から考えると5分の1の距離も移動していない。

 どう考えてもこれは1日での探索は不可能である。
 次に来る時は野営グッズを持参した方が良さそうだな。


「ご主人さま。食事の準備が整いました」

「ありがとな。キャロ」


 暫くすると、キャロライナが地面にシートを広げて茶を淹れてくれる。
 朝からずっと歩きっぱなしだったから、キャロライナの作ったサンドイッチが一段と美味く感じるな。

 俺たちが束の間のピクニック気分を味わっていた直後であった。


「な、なんだ!? 落石か!?」


 マグマロック 等級G LV4/5

 生命力 2
 筋力値 8
 魔力値 33 
 精神力 2

 スキル
 火属性魔法(初級)


 最初は山崩れでも起きたのかと思ったが、それだけではないらしい。

 顔だ!
 よく見ると岩の表面に顔らしきものがある!

 突如として俺たちの前にゴロゴロと転がってきたのは、直径30センチくらいの岩石モンスターであった。


「ソ、ソータさん! 逃げましょう!」


 この襲撃を受けて真っ先に声を上げたのは鉱石マニアのシエルであった。

 妙だな。
 鉱物好きのシエルなら興味を持ってモンスターに近づいていく場面だと思うのだが。


「どうしたよ急に」

「マグマロックは危険ッス。早くここから離れた方が良いッス」

「ちょっと待てよ。そのマグマロックっていうのはそんなに強いモンスターなのか?」


 敵の数は1体。
 見たところステータスの数値はリザードマン以下のようである。

 体も小さいようだし特に脅威になるようなモンスターには思えない。


「いえ。戦闘能力自体はそれほどでもないのですが……。マグマロックには身の危険を感じると自爆する習性があるんスよ」

「自爆!?」

「だから舐めてかかると痛い目にあうッス! 簡単に倒せるからと言って安易に近づいた冒険者たちは大怪我を負っています」

「…………」


 あるある。
 こういう自爆系モンスターたしかにゲームの世界では定番と言うと定番なんだよな。

 味方にすると使いにくいが、敵に回すと鬱陶しい。
 どんなゲームでも嫌われ者になる運命を背負った悲しき存在である。


「ちょっと待ちなさい! 逃げるなんて勿体ないわよ!」


 お前は一体……何をしているんだよ!?

 俺がサンドイッチを咥えながらも退避を進めようとする傍。
 アフロディーテは大きな胸を張ってマグマロックの前に仁王立ちしていた。


「マグマロックの体から取れる岩石は軽くて丈夫! 常に一定の温度に保たれる性質があるから、湯たんぽの替わりに使えると聞いたことがあるの。寝具マニアのアタシとしてはこんなチャンスは見過ごすことが出来ないわ!」


 流石はアフロディーテ!
 この期に及んでマイペースなやつである。

 今日ばかりはお前のその能天気さを見習いたいよ。


「シュコォォォ!」


 そうこうしている内にマグマロックの攻撃が開始される。
 マグマロックは小さなを活かしてアフロディーテに向かって飛びかかる。

 だがしかし。
 マグマロックの渾身のタックルであったが、アフロディーテの大きな胸をポヨポヨと揺らしただけで特にダメージを与えることはなかったようである。


「ほら! 全然痛くないわ。ソータがビビリ過ぎなのよ」


 おっぱいガード……恐るべし。
 アフロディーテの巨乳を以てすれば、下級モンスターの攻撃など容易に無効化できるということなのだろうか。


「さぁ。アタシが捕まえているからソータは早くボール投げなさい」

「……あ。ああ」


 お前ってやつは……珍しく良い仕事をしてくれるじゃないか!

 アフロディーテはマグマロックの体を強く抱きしめて動きを封じてくれているようであった。
 こうなってしまってはマグマロックは単なる的でしかない。

 後はボールを投げれば一件落着だろう。


「――ば、爆発するッス!? 早くマグマロックを離すッス!」


 だがしかし。
 俺の安易な思考はシエルの一声によって吹き飛ばされることになる。

 ちょっ!?
 こいつは一体どのタイミングで身の危険を感じ取ったのだろうか。

 突如としてマグマロックの体は徐々に赤黒いものに変色していく。


「うぎゃあああああっ!? ソータ! パスよ! パスッ!」


 更にそこで最悪なことが起こった。
 何を思ったのかこの女神さまは手にしたマグマロックを俺に投げ渡したのである。


「はぁぁぁあああ!?」


 この女神さまはアホなのか!?
 咄嗟に掴んじまったけど……俺にどうしろと!?

 カプセルボールで捕まえようにも両手が塞がっていてボールを出すことが出来ない。

 かと言って、マグマロックを手放すことも出来ない。
 何か少しでも刺激を与えると直ぐにでも爆発してしまいそうな雰囲気である。

 お、終わった――。
 これは完全に死んだわ。

 よりにもよってGランクのモンスターに殺されることになるなんて……流石に予想していなかったなぁ。

 ああ。
 せめて童貞だけは卒業しておきたかったぜ……。 

 異世界に召喚されてからは、チャンスも多かっただけに色々と悔いの残る人生になってしまった。


「シュコォォォ!」


 そうこうしている内にマグマロックが自爆を始める。

 そうか。
 死の直前に景色がスローに見えるっていうのは本当だったんだな。

 どういう訳か俺はマグマロックの体が急速に発熱して、粉々に砕けていく瞬間をハッキリと眼で捉えることができた。


「……ご主人さま。お怪我はありませんでしたか?」


 んん? 
 これは一体どういうことだろう。

 周囲の空気が冷たくなったと思うと、俺の腕の中にいるマグマロックは爆発で変形しながらも氷の中に閉じ込められた。


「もしかして……これはキャロがやったのか?」

「ええ。爆発する瞬間のマグマロックの体を魔法を使って氷漬けにしておきました。これで危険はないと思われます」

「…………」


 流石はキャロライナ!
 ピンチを作るのが仲間ならば、ピンチから救ってくれるのもまた仲間ということなのだろうな。

 今回ばかりはマジで生きた心地がしなかった。


「えへへ。ごめんごめん! まさか抱きかかえているだけで爆発するとは思わなかったのよね」

「たしかに不思議ッス。マグマロックは何処で身の危険を感じたのでしょうか」


 今なら分かるよ。
 爆発する直前のマグマロックは、充実感溢れた表情をしていた。

 たぶんだけど……アフロディーテの胸が大きすぎてマグマロックが窒息死寸前にまで追いやられていたんだろうな。

 おっぱいに挟まれての窒息は男なら誰しもが憧れる死因の1つである。




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