劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く ~
制裁
瓦礫の上を進み、バースに近づく。
やはりな。
意識は朦朧としているようだが、大した怪我はないようである。
「ど、どうしてボクが……。貴様のような平民に……」
おっと。
そう言えば忘れるところだった。
今回の決闘の条件は、相手を戦闘不能にさせることではなかったはずだよな。
「どうだ? 参ったと言う気になったか?」
「薄汚い……劣等眼のガキが……! 誰がお前なんかに……!」
やれやれ。
そのプライドの高さをもう少し別のところに回してやれないものだろうか。
己の築いたものではなく、他者から与えられたものにプライドを持ってしまっては、人間終わりである。
とはいえ俺も鬼ではない。
これ以上の追い打ちを仕掛けても仕方がないし、この辺りで決闘ごっこは中止することにしよう。
などと俺が慈悲を加えようと思っていた矢先であった。
「ふべらっ!」
瓦礫が崩れる音と一緒にバースの悲鳴(二度目)が響き渡る。
転がるバースを蹴り飛ばしたのは俺にとっても見知った人物であった。
「えーっと……。リリス。何をやっているの?」
「申し訳ございません。アベル様。近くにゴミが転がっていたもので」
俺が聞きたいのはそういうことではなくてだな。
お前は一応、ボンボン貴族の家で働いているハウスメイドなんだろ?
雇い主に対して暴力を振るうのは流石にまずいような気がする。
「ぐぼえっ……。リリス……! 一体何を……!?」
「黙れ。二度と喋るな。これ以上、アベル様を侮辱することは許さない」
「ひっ――!?」
リリスに殺気を向けられたバースは完全に怯えている様子だった。
あ~あ~。
バースって少し前までリリスに告白するくらい好意を寄せていたのだろ?
これは一生もののトラウマとして残るような気がするぞ。
「アベル様。申し訳ございませんでした。今回の不始末はワタシの監督不行き届きです」
「いや。別にいいよ。気にしていないから」
「……しかし、この様子ですと、ワタシの見ていないところで、あの者から相当に無礼な発言を受けたのでは?」
「ああ。眼のことなら良いんだ。昔から言われ慣れているからな。バースのことは許してやってくれ」
今回のバースの発言など200年前と比べると生易しいものである。
昔の世界では《琥珀眼》を持っているだけで人間扱いをされないことが多くあった。
この世界の人間たちは、そりゃ、琥珀眼の人間を蔑みこそはするが、それ以上のことはしてこないからな。
「おい。そこのお前」
「ひっ」
「アベル様の寛大な措置に感謝をしなさい。今回だけは特別にお前の罪を水に流すことにします」
「…………」
分かる。分かるぞ。
バースの考えていることが手に取るように分かる。
おそらく今お前が口に出そうと思っていた言葉は、『どうして貴族のボクが許される立場なんだ! 普通は逆じゃないか!?』だ。
しかし、そんなことを言ったら最後。
次こそはリリスに殺さることが分かっているから何も言えないでいるのだろう。
「うわあああっ! あああああああああああああああっ!」
悲しいかな。
万策尽きたバースにできることは何もない。
プライドを完全に打ち砕かれたバースは、ただただ、惨めに泣き叫びながらも地面に突っ伏すのだった。
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