異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

VS グレゴリー・スキャナー3


 一方、その頃。 
 洗脳兵を用いた『起爆札』による攻撃を仕掛けたグレゴリーは表情をしかめていた。


(何故だ……? 何故避けん……?)


 グレゴリーにとって不可解だったのは、悠斗が明らかに『起爆札』の存在に気付きながらも、あえて攻撃を受け止めたことである。

 爆発に巻き込まれた悠斗の装備品、『冒険者の服』はボロボロになり、見るも無残な状態となっていた。


(ノーダメージ……? まさかオレ様にそれを知らせるためだけに……?)


 体内の魔力を網目状に張り巡らせて、自らの体を鋼のように強固にする《幻鋼流》の技術をタイミング良く使用すれば、『起爆札』によるダメージを最小限に抑えることが可能である。
 
 今回の爆発によって損傷を負ったのは身に着けていた装備品のみであり、戦闘に支障をきたすような肉体的ダメージを確認することはできなかった。


「あ~あ~あ~。なんだかんだお前は……根っこの部分でオレ様と同族だと思っていたんだけどな。ガッカリだぜ……」


 遅れて悠斗の意図するところに気付いたグレゴリーは大きく溜息を吐く。

 悠斗がグレゴリーの攻撃を避けなかった理由――。
 それはこれ以上の無用な犠牲者を増やさないためであった。

 もしも攻撃を回避すればグレゴリーは攻撃を当てようと躍起になって、更なる犠牲者を増やし続けていただろう。

 余計な死者を出さないためには、ここで『起爆札』による攻撃が無意味であることを示しておく必要があったのである。

 だがしかし。
 悠斗の目論見は、頭の回転の速いグレゴリーを前に看過されることになる。

 
「そんなに死にたければ殺してやるよ!」


 グレゴリーが高らかに叫んだその直後。

 先程までとは比較にならない数の洗脳兵が悠斗の周りを取り囲んだ。

 悠斗が『余計な犠牲者を出したくない』と思っているのであれば、その心理を利用するだけである。
 威力を上げた起爆札による攻撃が目前にまで迫っていた。


 ~~~~~~~~~~~~ 


 それは今から約5年前。
 悠斗がまだ僅か齢10歳の頃の話である。

 大人たちから『千年に1人の逸材』と呼ばれる才能を持った悠斗は、当時からその才覚を遺憾なく発揮していた。


「あ、ありえん……! 強すぎる……!」


 悠斗の前に跪く青年は、かつて『近衛流道場』において最強の門下生と呼ばれていた男だった。

 誰よりも貪欲に『強さ』を求めていたその男は、次期近衛流当主の最有力候補とまで呼ばれていた。

 だがしかし。
 圧倒的な才能というのは時として、他者に対して底知れない絶望を与えるものである。 

 人生の全てを投げ打って近衛流體術の取得に励んでいたその男は、僅か10歳の悠斗に手も足も出ずに完敗を喫していたのである。


(う~ん。我が孫ながらこの才能……どうしたものか……)


 2人の試合を目にしていた老齢の男は、顎の下から伸びた白髭に触れながらも溜息を吐いていた。

 男の名前は近衛鉄郎。
 近衛流道場の総師範であり、今年で還暦を迎える老人である。

 乾いたスポンジのように技術を吸収していく悠斗の『強さ』は、青天井であり、留まることを知らない。
 何時しか悠斗の『強さ』は、他者の人生にまで大きな影響を与えるようになっていたのである。


 ~~~~~~~~~~~~ 
 

 波乱の試合から数日が過ぎた頃。
 後の悠斗の人格に多大な影響を与えるその事件は起こった。


「お前さえ……。お前さえいなければ、オレが最強だったんだああああぁぁぁ!」


 その日、ランドセルを背負って下校中の悠斗を1人の男が襲った。
 何を隠そうこの男は,先日の試合で悠斗に完敗を喫した近衛流道場の門下生であった。


「死ね! コノエ・ユウト!」


 武器を持った状態で不意を突けば負けることはない。
 男が抱いていたそんな甘い幻想は、悠斗の持つ底なしの『強さ』を前にして脆くも崩れ去ることになる。


「弱い……。弱すぎる……」


 悠斗に返り討ちにされた男はその後、意識不明の重体。 
 二度と襲ってこられないよう痛めつけられことになり、1カ月にも渡り、生死の境を彷徨うことになった。


 ~~~~~~~~~~~~


 それから数日のこと。
 悠斗は祖父の鉄郎に連れられて、男の見舞いに訪れることにした。


「……のう。悠斗。ここまでする必要があったと思うか?」


 重体の男を前にしても特に罪悪感を抱く様子のない悠斗に向かって鉄郎は問いかける。
 悠斗に全身の骨を砕かれたその男は、肺に折れた骨が突き刺さり、自力で呼吸することが困難な状態にあった。


「……? ジッチャン。何を言っているんだ? コイツは俺を殺そうとした。本来ならば俺に殺されても文句は言えない立場じゃないか?」


 命を取らなかったのは、当時の悠斗なりの最大限の『慈悲』であった。
 悠斗にとって今回の事件は、同情されることはあっても、責められる要素は何一つとして見出すことのできないものだったのである。


「この男にも家族がいる。男が死ねばその家族、周りにいる大勢の人間が悲しむことになるとしてもか?」

「……関係ないだろ。コイツの家族が悲しんだところで別に俺の人生には何の影響もないし」


 どんなに綺麗事を並べたところで、結局のところ自分の人生は自分1人のものである。

 無関係な第三者が傷ついたところで何も悲しむ必要がない。

 奇しくもこの時の悠斗の価値観は、同時期のグレゴリー・スキャナーと全く同一のものだったのである。


「のう。悠斗。本当に自分の幸せを願うなら、まずは、他人の幸せを願いなさい」

「他人の幸せ……?」

「そうじゃ。この言葉の意味が分かった時、お前はきっと更に強くなれる。ワシはその日が訪れるのをずっと楽しみにしておるからのう」

「…………」


 今にして思うと悠斗が人としての道を踏み外さずにいることは、この時の祖父の言葉があったからなのだろう。

 この世の中に悪の栄えた試しなし。
 他人を顧みずに自己の利益だけを追求していけば、その先に待っているのは必然的に破滅の道である。

 つまるところ『真の利己主義者』とは自分だけではなく、他人の幸せにまでも配慮するものなのである。

 少なくとも悠斗はこの日の出来事を契機にして、自身の中にそんな価値観を抱くようになっていた。

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