異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~
VS 彗星世代2
「悪いな。コノエ。3対1は気が進まないが、ギリィとは付き合いが長いのでな」
「お前、生意気なんだよ! 新人の癖に俺っちより目立っているんじゃねぇ! 消えろや! ボケェッ!」
そう。
つまるところ悠斗は、最初からギリィの掌の中で踊らされていたのである。
オーガの討伐数で競うという提案は悠斗の体力を少しでも削って戦いを有利にするためのものに過ぎない。
ギリィの真の狙いは、仲間を雇って3対1の戦闘をすることであった。
「安心しろよ。このままお前が死んでも、囲いの女の面倒は見てやるからよ~。スピカ? シルフィアとか言ったか? オイラが肉便器としてヒィヒィ言わせてやるぜ」
狙って言っているのであれば性質が悪い。
ギリィの言葉は悠斗の神経を逆なでさせるものであった。
「――そこまで言うからには覚悟はできているんだろうな? 悪いが手加減はしねぇぜ!」
悠斗が放つ殺気は、並みの冒険者であれば即座に失神してしまうほどの強烈なものであった。
だがしかし。
彗星世代と呼ばれる百戦錬磨の3人はその程度では怖気づかない。
「手加減? んなもん必要ねぇぜ! 勝負ならもうとっくに着いているからな。キャハハハハハ!」
「――――ッ!」
ジンバーが合図を送った次の瞬間。
瓦礫の中から無数の生物が悠斗に向かって飛びかかる。
「こいつは……!?」
その数は優に10匹を超えているだろう。
気が付くと、悠斗の両足には奇妙な形をした昆虫がビッシリと張り付いていた。
「ククク。そいつは死神サソリと言ってな。1度、刺されたら最後。ターゲットが息絶えるまで毒を注入し続けるぜ! ボケがぁっ!」
1匹1匹、剥がしていたら毒が全身に回ってしまうだろう。
そう考えた悠斗は、水属性魔法のウォーターを使用して地面を氷漬けにすることにした。
「なんだ……何をする気だ……?」
死神サソリを氷漬けにするならともかく地面を凍らせる狙いが分からなかった。
ジンバーは困惑していた。
通常であれば死神サソリに刺された人間は、慌てて引き剥がそうとするものである。
それこそまさにジンバーの仕掛けたワナでもあった。
死神サソリには、無理に引き剥がそうとすればするほど多量の毒を注入する性質が存在していた。
「――いけるっ!」
全ての格闘技の長所を相乗させることをコンセプトとした《近衛流體術》を習得した悠斗は、《フィギュアスケート》に関してもオリンピック出場選手並みの実力を誇っていた。
中でも悠斗が得意としていたのは、持ち前の身体能力を最大限に生かしたジャンプである。
4回転サルコウ+3回転トウループ。
悠斗渾身のコンビネーションジャンプは、強烈な遠心力を発生させて、サソリの毒針を綺麗に引き剥がす。
悠斗の着氷は体の軸に一切の乱れがない完璧なものであった。
「なに――ッ!?」
ジンバーは驚愕していた。
死神サソリの針を抜いたのもそうだが、何により驚いたのは、毒を注入されても悠斗が2本足で立っていることであった。
死神サソリの毒針は、オーガすらも仕留めるほどの強力なものである。
どうして人間である悠斗が毒を受けても平気なのか? ジンバーには理解ができなかった。
結論から言うと、その秘密は悠斗のジャンプの最中に行われていた。
悠斗は空中で回転中している最中、両脚の筋肉を収縮させて、毒素を体外に吐き出していたのである。
(クッ……。流石に全部の毒を取り除くことは出来なかったか……)
頭が痛い。
思考が上手くまとまらずに足元が少し覚束ない。
「なんという怪物! そうでなくては面白くない!」
「気を付けろよ! ドルトル! こいつは……こいつだけは今まで戦ってきたどんなやつとも違う!」
悠斗のジャンプを目の当たりにしたドルトル&ジンバーは一層警戒心を強めていた。
「認めるよ……。間違っていたのは俺の方だった」
その時、悠斗の脳裏に過ったのはラッセンの言葉であった。
『冒険者の仕事はどんなに強くても……いや、強くあるが故に命を落とすことがあるのだよ』
つまるところ今回のピンチは、全て悠斗自身の傲慢が招いた結果なのである。
オーガの討伐数を競うという勝負がブラフで、疲れたところで不意を突いてくるという可能性を考えていないわけではなかった。
だがしかし。
どんなに疲れても他の冒険者との戦闘で負けるはずがないという慢心が、心の何処かにあったのだ。
「――ここから先は全力全霊でいかせてもらう」
啖呵を切った悠斗の戦闘能力は一瞬にして数倍に引き上がることになった。
《鬼拳》
戦闘に不要な《生存本能》というリミッターを意図的に解除するこの技を悠斗はそう呼んでいた。
一歩間違えれば命を失いかねないキケンを伴っている《鬼拳》は、悠斗が全力の時だけ使用すると決めている技であった。
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