皇女伝説

天月 ゆめの

一難去ってまた一難

「あの人が私のお母さん...」

お母様を知った私はこの目に姿を焼き付けようとジッと見つめた。

アルテミス王国女王、ユーリエ。
セレーネと同じ白銀の髪と、翡翠色の瞳をもつとても美しい女性だ。

私がジッと見つめていると、ユーリエは呪文を唱え始めた。

いにしえの王。闇の王、ヘイアン。今、私に力を与えたまえ。私達を多い隠したまえ。我が名はリリアン!』

五大妖精王の1人、闇の王ヘイアンに祈り、ユーリエは闇の王の力を借りた。

ユーリエが手を上へかざすと、厳かな波動が私達がいる部屋を囲んだように感じた。

「これでよし...」
「母上様、凄いです!!私もこんな力が使えるようになりますか?」
「いつも、妖精王様達に祈りなさい。そうすれば、いつか使えるようになるわよ。」

ユーリエの力を見たシエルは興奮している。
私はどうだろうと、覗き込むと、赤ちゃんの私は...お母様の腕の中でグッスリ眠っている。

「呑気だなぁ...」

思わず呟いてしまった。
それから、ユーリエとシエルは静かに部屋の中で過ごしていた。すると、外から

「陛下!女王陛下!!どこに居られますか!?」

と騒がしい声が聞こえてきた。

「終わったのね...」

そう言うと、ユーリエは手をかざし

『闇の王ヘイアン。力をお返しします。貸してくれた事、感謝いたします。』

そう言った。すると、

『言うに及ばず。これは我が友セレーネのため。セレーネを守るために貸したまで。』

と低い、男性の声が返ってきた。

「母上様!!今のは!!」
「闇の王、ヘイアン様ね。私の祈りは要らないみたい。セレーネの事を友と仰ってくださったわ。」
「やはり、セレーネは凄いですね。」

シエルは闇の王の声を聞き、とても興奮しているようだ。

「五大妖精王...祈り...よく分からないなぁ...明日、シエル皇子様に聞いてみよう...」

私にはイマイチ話が分からなかったが、とにかく明日シエル皇子に聞いてみようと思った。

それから、ユーリエは入ってきた騎士に状況確認をして部屋から出ていった。
騎士が血だらけだった事に私は息を飲んだ。
「この人は怪我してないから...侵入者とかの返り血かな?酷い...」
血を見慣れていない私は、騎士の姿だけで状況の悲惨さが充分に感じ取れた。

私がそんな状況にも関わらず、赤子のセレーネはベットですやすやと寝ている。
シエルはメイドと思わしき女性に連れて行かれ、違う部屋に行ってしまった。

「とりあえず、お母様の方に行ってみよう。詳しい状況が知りたいし...」

そう考えて、私はユーリエがいる部屋に入った。
部屋には長机が置いてあり、1番上座にユーリエ。そして、貴族と思われる豪華な服を着た男性や女性が座っていた。
ユーリエは先程とは違い、女王と一目で分かるような豪華なドレスと王冠を着けていた。

私はとりあえず、部屋の端っこで様子を見ていた。

「さて、何か話のある者はいるか?」

そうユーリエが切り出すと、

「私からよろしいでしょうか?」

少し太った、男の人が声を上げた。上座から3つ程しか離れていないため、それなりの身分があるのだろう。

「何だ?」
「女王陛下。恐れながら私は以前より、セレーネ皇女殿下をノイス塔に住んで頂くのはどうかと考えておりました。」
「何だと?」

まだ幼いセレーネをノイス塔に住まわせればという意見に、座っている貴族からは反対の意見がこぼれた。

ノイス塔とは、高さ100mの高い塔である。長い階段を登り、一番上にこじんまりとした部屋があるのみだ。
そして、ノイス塔は先々代の王が闇の王、ヘイアンの力で門を封じ、30年に1度しか開かないようになっている。
そこに住まわせるというのは即ち、幽閉という事になる。

「皇女様を幽閉するべきと仰るのですか!?シーム侯爵様!!」
「幽閉では無い。住んで頂くだけだ。それに、兵達への被害が多過ぎる。亡くなった者もいるのだぞ。これ以上被害は広げられん。」
「確かに、侯爵様の仰る通りですな」
「なんだって!?」

最初に発言をしたフェムス・シーム侯爵とその一派対、その他の貴族という形で会議は荒れだした。

貴族の最上位、公爵の位に着くセルフレム・マークと女王ユーリエは黙ったままだ。

「幼い頃、幽閉するまでに狙われてたんだ私...」
私は、どこか他人事で会議の様子を端で見ていた。

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