失恋物語《ストラテジー》
第2話 幼なじみの詩織は親友のアンリと再開します。
「詩織······さん?」
突然後ろから声をかけられて、一瞬期待しちゃったけど、あいつはこんな風に私のことを呼ばない。
でも、この声······どこかで聞いたことがある気がする。
「あら? アンリじゃない! それにその制服って······」
「はい。お久しぶりです詩織先輩」
振り返ってみると、そこには一つ年下の友人──アンリ・シャロンがいた。
アンリは中学からの知り合いで、時々相談に乗ってもらったりしていた。
あのときのことは優人を物凄く傷つけたけど、同時に私の心も傷つけた。そんな時にアンリは親身になって話を聞いてくれた。私がいま、優人の隣にいられるのは間違いなくアンリのおかげだ。
「アンリもこの学校なのね。でも、こんな遅い時間までどうしたの? 部活はまだ始まってないはずよ?」
「あっ、そうだ! 詩織さんは知っていますか? 『残念ハーレム王子』って」
「え!?」
それって優人のあだ名よね。
告白はされまくるけど、一度もOKを出さなくて、いつの間にかつけられていたやつ。
「実は私、その人に会いたくてずっと校門で待ってたんですけど、全然会えなくて......」
嘘!? じゃあもしかして、あの手紙ってアンリが出したの!?
アンリと優人は知り合いじゃなかったはずなのに······
いつの間に進展してたのかしら?
「えっと······、もしかしてアンリも優人のことが好きなの?」
「そうですね······。うーん、まだ好きじゃないですね。······あれ? 『も』って、詩織さんはその人のことが好きなんですか?」
「えっ!? いやいやいやいや、ち、違うわよ。私はあいつのことなんて好きじゃないわよ。むしろ、あいつを殺して私も死んじゃいたいレベル」
「えーっと、つまり·········好き?」
わー、何言ってるんだろう私。
これじゃ、好きって言ってるようなものじゃない。
「だ・か・ら、違うっていってるでしょ。 それにあいつはもう──」
優人にとって私は幼なじみ、私も同じ。それ以上でも以下でもない。
私はあの時決めたんだ。
これからはずっと優人の幼なじみでいると。
それ以上は望まないと。
「? まぁ、よかったです。私、これからその人のことを好きになる予定なんで」
「──へ?」
「いや、だから私、これからその人のことを好きになる予定なんです」
「二度も言わなくても聞こえてるわよ!」
「そうですか? よかったです」
「よくないわよ! どうして『予定』なのよ!」
何を言ってるのかしらこの子は?
アンリはこんな不思議ちゃんじゃなかったはずよ。
「私の課題って『失恋』なんですよ」
平然と言い放ったアンリに私は驚きを隠せなかった。
課題とは、魔法使いの素質がある者に課されるもので、例えるなら大学に入るための入試試験のようなもの。
どれ程の素質があろうとも、課題をクリアしなければ魔法使いにはなれない。
逆にいえば、課題さえクリアすれば魔法使いになれる。
「世界は魔法使いが動かしている」と言われている今日、魔法使いというのはそれだけで一生を約束されている。
基本的に、課題を言い渡されるのは、魔法使いになるための学校──日本においては私たちが通っているこの学校─魔法使い育成学校の入学式でだ。
よく知られている課題は『恋愛』に関するもの。
思春期の高校生にはかなりの難題となる。
例えば優人の課題は『ハーレム』、男子なら一度は夢にみるものだけど、優人にとっては苦痛でしかない。
過去を乗り越える、というのも課題の中に含まれているのだ。
それで、アンリの『失恋』はというと、言葉通りに失恋をすればクリアとなる。
自分が本気で恋をした相手に、フラれるまたは自分でフる、などをして、本心でその人のことを諦めることができればクリアとなると言われている。
なかには、簡単に諦めることができる人がいるかもしれない。
そういう人に限って、『失恋』が課題となることはない。
つまり、その人にとって一番クリアすることが難しい課題が選ばれていることになる。
恋愛することを捨てた優人には『ハーレム』、アンリは詳しく知らないけど『失恋』、私は······
いや、今は私のことは関係ない。
とりあえず、アンリの話の続きを聞くとしよう。
「私、まだ恋をしたことがなくてよくわからないんですけど、好きな人に告白してフられたら、それは失恋ですよね?」
確かにそれは間違いじゃない。
それができれば晴れて、魔法使いになれるはず。
けれどアンリはまだ知らない。
失恋ってそんなに簡単なことじゃないってことを。
好きな人を諦めるのがどれ程辛いのかってことを。
「噂に聞きましたよ。残念ハーレム王子さんって、告白してきた女子を全員フってるんですよね? 顔もカッコいいらしいんで、失恋する対象はその人でいいかなと思ってるんですよ」
······なるほど。
それなら納得ができるような気が──
いやいやいやいや、ダメでしょ納得しちゃダメよ私!
他の男ならまだしも、優人はダメよ。
確かにあいつなら、事情を理解して協力してくれるかもしれないけど......
なんか嫌だ。
できるなら、もう優人には恋愛に関わって欲しくない。
嫉妬にも似た感情をアンリに対して抱いてしまう。
この子ならもしかして······
そんなあり得ない期待を抱いてしまうくらい、アンリは魅力的な女の子。
才色兼備とはまさに彼女のために作られた言葉だと思ってしまうくらい、アンリの容姿は端麗。
おまけに、成績は常にトップ。
そして、一番目を引くのは、動く度にたゆん、と揺れる大きな胸!
まだ、発育途中······
そう、まだ、発育途中の私と比べるとその差は歴然。こんな子が年下だなんて信じられないわ!
アンリは海外の名家の生まれで、小さい頃から英才教育を受けているから、その一つ一つの所作は人の目を釘付けにするほどに美しい。
玉にきずなのは、イタズラ好きなところなのだけれど、そのおかげで接し安いからこれもアンリの魅力の一つ。
まさに完璧な女の子と言っても過言ではない。
でも、ちょうどあのときがあった頃に、忽然と姿を消してしまっていて心配だったから、再開できたのは嬉しい。
家の事情ということだったけれど······
そこら辺のことはいまは聞くべきじゃないわね。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
127
-
-
841
-
-
3087
-
-
125
-
-
55
-
-
59
-
-
29
-
-
93
-
-
2813
コメント