怠惰の主

足立韋護

裁判院

 治療院から外に出た俺達は、マリガンに連れられるまま歩き続けた。改めて周囲を見るが、リースや俺達のいた世界とは全く異なる光景だ。頭上に張り巡らされたように行き交う道路、どこか無機質な人々、試しに太陽のように日差しを放つ恒星を見てみるが、不思議なことに若干の黄緑っぽい光を放っている。
 マリガンが辿り着いた場所は、治療院から数分程度のところに建つ別の施設であった。

「ここは、なんだ」

「裁判院」とマリガンは一言呟くと、裁判院へと入っていた。俺達三人もそれについて行く。
 実に、嫌な予感しかしないのだが。山田と響子に視線を向けるが二人とも諦めたようにして首を振った。式谷を治療院に預けてしまった今、人質を取られたようなもの。下手な真似をしては危険にさらしてしまうだけである。

「マリガン、俺達を即座に殺すこともできるはずだ。俺達は何らかの形で生かされるんだな?」

 俺の発言に、初めてマリガンは肩を僅かにぴくりと反応させた。

「……勘の良い男だ」

 マリガンは立ち止まり、こちらへ顔を向ける。

「問いに対する答えに制限はかかっていない。お前達は生かされる。治療院にいる女も同様」

 山田は心底安心したようにため息をついた。

「ここから先は裁判院の管理官から話を聞け」

 マリガンはそう言うと一つの扉に手をかけた。部屋の中は、乳白色の地面と壁に覆われ、部屋の中央には陶器のようにつるつるとした円卓が置かれていた。スツールのような椅子も人数分設置されている。入り口と反対側には、一人の長髪の若い女がこちらを見て立っていた。

「よく来られました。座って下さい」

「お、おう……」

 にこやかに声をかけてきた女だったが、マリガンとの対応の差に口ごもりながら座った。それを見た女も対面に座る。

「私はマリギス・ドール。裁判院最高管理官を務めています。マリガンの無礼は許してあげて下さいね。不器用な子だけれど、良い子だから。ああ、あなたの名前は既に知っていますよ、御影創一さん」

 随分と話のわかりそうな女だが、油断してはならない。なにせ、兵団長たるマリガンの上層部にあたる者達の使いだ。経験から、ロクなことにならないことだけは知っている。

「まずは結論から伝えます。あなた方を、国外追放とします」

 まあ、死刑や拷問に比べれば大したことではない。生きていればどうにかなるさ。

「……というのは上の判断で指示なのだけど、どう思います?」とマリギスは笑いかけてきた。どうとはなんだ。俺の意見を聞いたことで何か変わるのか。

「この裁判院は情報漏洩防止から上層の監視外なのでぶっちゃけてしまうと、上層は、腐っているのですよ。誰が見てもイレギュラーなあなた方を大して調べもせず、国外追放などとほざくのです」

「すまん、意図が読めないんだが」

「このコーキアン共和国には死刑制度はありません。だから人を殺すことはない。この国は外郭から上空千メートルまでの半円形のバリアを張っています。それは何者も通さない、絶対防衛の防壁です。何から守るためのバリアなのか。兵団は何と戦う組織なのか」

「……国外には、何があるんです」と山田。

「────それはルードと言います。粗悪素体をごみとして捨て続けた我々の罪です」

 マリギスは饒舌に語り出した。
 コーキアン共和国がかつて人間が造り出した人造人間によって形成されていること。人造人間の失敗作を何もない荒野同様の国外へ追放し続けたこと。それらの体が変容し、化け物となって外に追放された者を喰らうこと。そして、当の人間は増長した人造人間達に追放されており、それからは都合の悪い者は追放されてしまう国に成り下がったということ。
 どれだけ俺のいた世界が平和だったか、思い知らされる。どこの世も腐りきっていやがるのだ。

「長く語ってしまいましたね。では、本題」

 マリギスは突然、真顔になった。

「私はあなた方がこの世界に来る瞬間の映像を見ています。何もない空間に歪みが発生し、そこから姿を現した。イレギュラーどころではない。そんな技術、おとぎ話でしか聞きません」

 やはり監視機能はそこまで及んでいたか。

「そこからの言動を分析しました。御影創一さん、あなたはその力をコントロールができませんね? 何が起因して発現するのか、運任せということ。しかし発現するのはいつもあなたの望んだことだと」

「そこまでわかっているんだ。お前の望みを言え」

「裁判院での拘留申請の承認は降りています。あなた方を死地へは行かせない。その力をコントロールできるよう手伝います。もしコントロールできるようになったら、だから私の願いを一つだけ叶えてほしいのです」

 マリギスは視線を落としながら、そのまま言葉を放った。

「この国を、壊して下さい」

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