怠惰の主

足立韋護

神々の秘宝:シュトルグス

 俺の意識が遠のく中、式谷は冷静に話を続けた。

「私は御影さんが好きです」

 この状況で誰が信じるか阿呆め。

「普通ならば殺したくはないでしょう。でも殺しても大丈夫なのです。彼は不死なのだから」

「不死……? 創ちゃんが?」

「そう。あなた方を信じさせるにはこの方法が早いと思い、御影さんには少し手伝ってもらいました。私は彼の手足を切断したのち、動脈を何本か切ったこともあります。ですが見ての通り、彼はピンピンしてます」

 あの時、動脈まで切ってたなんて知らなかったぞ。

「て、てめえ、仲間のすることじゃねぇ」

「仲間のすることかどうかはあなたが決めることではありません」

 絶句しているフォルクスを差し置き、式谷は「話が逸れました」と一言置いてから、既に切り傷が回復していた俺を無理やり立ち上がらせた。乱暴にしないでくれ、繊細なんだ。

「まあ……見ての通りだ」と既に塞がった傷口を見せてやる。
 
「発動条件は不明ですが、皆さんから伺った話も加味すると空間移動に時間遡行、性質変化や物理法則への干渉に至るまで様々な超常的能力が使用可能……ということになります」

「そ、創ちゃん、只者じゃないとは思ってたけど……人生で一番驚いてるよ」

「い、いまだに信じらんねぇ」

 式谷は机に置かれていた二枚の紙を手に取り、郡山とフォルクスはそれを注視した。俺も二人の側に回って内容を見ると、式谷が書いたのか、一枚はこの世界で使われている言語、もう一枚は日本で使われている言語がそこには書かれていた。いずれも相当な達筆である。

「二枚とも読めるようになっていますか?」

「う、うん。今にして思えば、この世界の言葉とか文字、初めからわかってたよ」

「見たことねぇ文字だが、何故か意味はわかるぜ。これももしかして……」

「御影さんの力は、周囲の私達にまで影響を及ぼすことがあります。神々の言葉まで理解できることから、言語として確立されたものは全て理解できるものと思います」

 式谷は紙を机に置いて改めて向き直った。

「この話の重要性が理解できましたか? あなた方がついて行こうとしているこの冴えない男は、およそ世界────いや並行世界を含めた全宇宙をも転覆しかねない存在だということです」

 郡山とフォルクスは自分を納得させるように、または話を噛み砕くように、何度か短く頷いた。フォルクスは意外にも、ため息こそついているものの、狼狽えることなく状況を受け入れているように見える。

「混乱しきるかと思えば、さすが御影さんの連れてきたお仲間、冷静ですね。これからどうするかの判断は委ねます。さて、最後の三つ目の話をしましょう。この大荒れした海についてです」

 式谷は二人の頭がパンク寸前だというのに、容赦なく話を続けた。ベラベラとよく口が回るものだ。

「お仲間のお二人には後ほど説明しますが、あの海の荒れ具合はデルさんが関係しています」

「デルが? またどうして」

「正確には、龍神のデルさんが深海にて守っていた神々の秘宝"シュトルグス"が何者かによって奪われたためです」

「神々とはまた大きく出たものだ。そんなお宝一つで、海が荒れるものなのか」

「────シュトルグスは万物全ての異変を抑制できる代物じゃ」

 扉を開けているのは、相変わらず特徴を全て廃したような面構えの女性、デルヘモイ・ケイス・オプニュート、通称デルその人であった。訂正、龍神様だから人ではなかった。

「ご無沙汰、でもなかったか」

「御影よ、経験を積んだようじゃな」

 デルは部屋へ入り、ひとしきり全員の姿を見回すと床に座った。

「それで、そのシュトルグスは異変を抑えるんだったか」

「うむ。異変の原因は関係ない。神々が見守るこの空間や、動植物の存在を揺るがすほどの悪影響を与える事象を抑える働きがある」

 かつて、俺のいた地球では恐竜が闊歩していたとされている。だが、それは隕石の激突によりこの地上から消え去った。同時に地上にいた生物はほぼ死に絶えている。それはデルの言う異変だと思うのだが。

「例えばの話だが、ここ以外の世界には存在しないのか」

「我が知る由もないが、恐らくはないじゃろう。シュトルグスはこの空間の神々が創造したもの。他空間の神々の事情などは知らぬ」

 幼い頃、俺が物をねだった時に母親が口癖のように放っていた言葉を思い出した。よそはよそ、うちはうち。つまりはそういうことである。この空間の神々は平和な世界をお望みということだ。

「そんな大事な秘宝が誰が盗み、どこへ持ち去ったというのだ」

「さっきも話をした通り、その秘宝はこの空間全体に影響を及ぼす代物。秘宝はいつでもその効果を垂れ流している故、何らかの形でこの空間に存在していれば良かったのじゃが、それがなくなった」

 ん? 何やら話の雲行きが怪しくなってきてないか。

「御影さん、ここからが面白い話です」

「我も事実かどうかを諸々と確認してきたところじゃ……まだ可能性の域は出てはおらぬが」

 デルはビシリと音が鳴りそうなほど、腕を伸ばし、ハッキリと俺に向けて指を差した。話をするデルを見守っていた皆の視線が、その指を辿るようにして俺へ向けられ、やがて皆と目が合った。

「────秘宝は別空間へ持ち去られた。つまりは貴様が盗んだとしか思えぬのだ、御影よ」

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