怠惰の主

足立韋護

壁上の影

「わかった」

 とは言ってみたものの、式谷といい、こいつらといい、行動原理が理解できない。損得勘定がぶっ壊れてしまっているのではなかろうか。

 ひと通り食糧を腹に入れた俺たちは、イクリプスのコックピットへと入った。意外にもコックピット内部はほぼそのまま残っていたが、マニュアル通りの操作が全く通用しない。郡山の言っていたことは本当だったようだ。俺が恐る恐る念じてみたところ、イクリプスはすんなりと思い通り動いた。
 そういえば、イクリプスは当然の如く念じた通り動き続けているが、どういう原理なのだろうか。俺は試しにイクリプスの掌を空に向け、とあることを念じてみた。

 俺の念に応じて、手のひらからは追手に放ったことのあるビームが飛び出した。段々とこの呪いの使い方がわかってきた気がするが、まだ不可解なことも多い。あまり乱発するのも良くないだろう。

「創一、突然どうしたってんだ」

「いや、試したいことがあっただけだ。気にするな」

 日はまだ高い。このままデルサデルへ行ってしまえば当然の如く目立つだろうが、追手は全て無力化した。この世界の魔法については相変わらずよくはわからんが、トンデモ魔法でも使われない限りはマキナに敵う相手などこの世にいない。
 俺は迷いなく、イクリプスを遠方に見えるデルサデルへ向けて進めた。

「これからどうするの?」

「改めて、あの腐れ軍国を潰しに行く」

「まるで侵略者だねえ」と郡山はにやけた。

「正確には、軍機能を破壊する。暴力ではない力の土俵に立たせれば、自ずと戦い方も変わるだろう」

 決して侵略者でも改革者でもない。まして神に通ずるものでもない。ただ力があり、それをしたいからするだけだ。極めて身勝手な論理である。しかし、デルサデルもその論理を貫いたのだ。文句を言える立場ではあるまい。
 イクリプスに羽根がついたお陰か、ただ浮かびながら進むというより、飛行するという表現に近くなった。各段に移動速度が上がったと実感できる。

────軍国の壁を上から通り抜けると、街並みはアトラヴスフィアと大差はなかった。ただ一つ異なる点があるとすれば、石造りの巨大な要塞のような施設が中央の盆地に建てられている。思い出した。あの場所こそが俺がかつて捕らわれていた場所であり、この国の軍機能の中枢である。

 堂々と要塞の外壁にとりつくと、街の人間達はこちらを茫然と見上げている。それはそうだ。誰が見ても、何が起こったのか、これが何なのか、想像すらできないだろう。

「お、おい、これからどうすんだ?」

「最も効率が良く、軍国が崩れたということがまず皆に分かれば良い。こうする」

 イクリプスの鉄拳で石造りの要塞の壁を破壊した。大衆に見せつけるようにして、片っ端から壁という壁に風穴を開けてやり、仰々しくたなびく旗を手から放つビームで焼き切ってやった。その圧倒的な暴力に、人々は脱兎の如く逃げ出し始めた。要塞内部に侵入すると、そこは牢獄であった。老若男女、様々な人間が捕らわれ、こちらを怯えた視線で見上げている。
 牢獄の扉を一つずつ壊してやり、逃げられるようにしてやった。奴らは礼の一つもなく、わらわらと自由に逃げ始める。

「この化け物め!」

 軍に属しているであろう、杖を持ったローブ姿の男たちが、何か呪文のようなものを唱え始めている。

「あれは火と水の魔導術だ。このからくり人形で喰らって平気なのかよ」

「さあな。だが今さら避けようもない」

 杖から放たれた人ほどの大きさの火球がイクリプスに接触した。しかし、それは延焼するどころか静かに白煙を上げて霧散した。それに続くようにして、突如地面から水しぶきが上がった。
 ただ、それだけだった。

「驚くほど効かないな」

「そりゃマキナは軍で使用されるほどの性能だよ。ただの火の粉や水鉄砲なんかじゃ、この装甲は抜けないよ」

 イクリプスが手のひらをローブの男らに向けると、腰を抜かしながら逃げ出していった。壁を壊しながら進むと、忘れもしない、あの拷問部屋が現れた。
 部屋には黒いフードを被った二人組である、かつて俺を拷問をした男と、洗脳をかけた男を見つけた。状況が飲み込めていない二人を、とっさにイクリプスの両手でつかみ上げる。

 「あの水晶を取り上げたほうがいいぞ。あれを使って洗脳をしやがるんだ」

 フォルクスの助言通り、男らの持っていた水晶と忌々しい鉄の棒を揺さぶって無理やり手放させた。その弾みで、水晶が真っ二つに割れた。
 さて、これで洗脳の心配はないだろう。イクリプスから降りたのち、男らにいくつか問いかけてみた。

「洗脳された人間はどうやれば元に戻る」

「お前ら、何者だ……?」

「俺の問いに答えろ」

「……もう解けている。阿呆め」

 背後から「媒介となってるものを壊せば、呪術は解けんだ」とフォルクスが耳打ちしてきた。それをもっと早く言わないか。赤面ものである。

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