怠惰の主

足立韋護

軍国:デルサデル

 イクリプスは地面へと着地したが、そこが立ち入ってはならない場所だということは、誰が見ても明らかであった。だだっ広い荒野で、今まさに闇夜の紛争を繰り広げている真っ最中だったのである。それも、対面している二勢力のちょうど真ん中あたりに降り立ってしまっていた。
 下にいる者たちは唖然とした様子でイクリプスを見上げてから、ついでと言わんばかりに赤色や青色に輝く丸い何かを放ってきた。俺は急ぎ、再度浮上してその場から離れようとするが、信じられない光景を見てしまった。

「嘘だろ……」

 それは紛れもなく、俺達を取り囲んでいたマキナの追手らであった。お前達はお呼びじゃあなかったが、来てしまったものは仕方がない。幸い奴等も困惑しているようで、しきりに周囲を見回している。

「郡山、イクリプスからあいつらに話しかけられないか」

「わかった、ちょっと待ってね」

 郡山はコックピットの画面を手早く叩くと、やがてマイクのようなマークが表示された。

「オープン回線だよ。彼らは常にオープン回線も聞いているはず。パネルのマイクを押しながら話してみて」

 俺は言われるままマイクを押しながら、「おい、軍の追手ども」と乱暴に話しかけた。相手のマキナらがこちらへ向き直った。確かに聞こえている様子だ。

「ここはお前達のいた世界じゃない。その証拠に、空には見たこともない星が浮かんでいるだろう。俺の能力で移動してきたわけだが、何故かお前達も巻き込まれてしまった。どうだ、協力してくれるなら、お前達を元の世界に帰してやってもいい」

 我ながら賢い取引だ。右も左もわからない状況下では、奴らは何もできやしない。そこで事情を知っている風の俺が主導権を握ってやるわけだ。

「断る」

 ただ一言、それだけ言い終えてから奴らはまたしても俺に銃口を向けてきた。

「郡山、お前の同僚は戦闘民族なのか、それとも猿人類なのか」

「ごめん、あの人らは軍の中でも精鋭組織でね。よっぽどのことがない限りは、任務の遂行しか頭にないんだよ」

 そうこう話しているうちに、奴らは容赦なくイクリプスを銃撃し始めた。暗闇の中、光が放たれたと思えば、コックピットに大きな衝撃が走る。前後感覚が失われた。その瞬間、二度目の衝撃に襲われた。どうやら、地面に落下してしまったらしい。隣の郡山を見るが、既に倒れており意識はなさそうであった。そう考えている俺も、徐々に頭が回らなくなり、目の前が暗くなった。


────気が付くと、そこは牢屋のような場所であった。部屋は石に囲まれており、入り口は黒い金属のようなもので固く閉ざされている。

「よう、起きたかよ」

 若い男の声だった。声のするほうに顔を向けると、茶色いローブを身に纏った金髪の男が鋭い目でこちらを見つめていた。目が合うと男は不敵に笑いながら、何かを放ってきた。それを地面でワンバウンドさせてからキャッチすると、恐らくパンであった。

「それでも食っとけ。じき呼ばれんだ」

「あ、ああ」

 でも汚い地面にワンバウンドさせてしまったものだから、食う気が起きない。腹が減っていることは事実なので、適当に服で拭ってから貪った。口の水分がほとんど持っていかれたせいで、腹は満たされたが代わりに喉が渇いてしまった。

「食い物は、ありがとう。俺は御影創一。あんた、名前は」

「フォールレイキスガスドマークス・テルアキだ」

「ふぉ、え? フォークガスマスクてるあき?」

「フォルクスでいいぜ」

「てるあきじゃダメか」

「そっちは家名だ、呼ぶなら普通は名前だっての」

 テルアキって家名だったのか。わかりづらい。

「じき呼ばれるというのは、どういうことなんだ。ここはどこだ」

「起きるなり質問攻めかよ。まあいい。ここはデルサデルの軍内部さ。あの軍国デルサデルの懐だ」

 軍事強国のデルサデル……たしか、俺らのいた国シュッツガルドの地方都市アトラヴスフィアを強襲した国だったか。そうか、追手に撃墜された俺は下で戦っていたあいつらに掴まったわけだ。

「呼ばれるってのは、ここの捕虜になった奴ら漏れなく誰であろうが魔法で洗脳されちまう。それがデルサデルのやり方」

「洗脳、だと」

「俺は冒険者だが他国の密偵だとか言いがかりつけられてここにいるってわけよ。不幸中の幸い、他国の密偵ってのは意外と扱いづらいらしくてな。ここでお前みたいな奴を何人も見送ったぜ」

「まじか」

 脱出方法はないのか、と模索を始めようとしたところで、牢が開けられた。そして、あっという間に、なすすべなく俺は看守に連れていかれるのであった。

「怠惰の主」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く