怠惰の主

足立韋護

学内大会③

 第一試合を白星に終えた俺であったが、他人の戦いなど見る気にもなれず、イクリプスの整備の最中もコックピットでぼけーっとしていた。格納庫内は数多くの技術者たちが慌ただしく動き回っている。

「お前さん、どうやってこいつを動かしてる」

 イクリプスを担当している整備士のオヤジがコックピット外から声をかけてきた。その立派なひげには朝に食べたのだろう、カピカピに乾ききった米粒がついていた。情けない印象にしてしまっている米粒であるが、オヤジの眼光は鋭かった。

「どうした、何かおかしかったか」

「イクリプスのな、ガソリンが減ってねえんだよ」

 ガソリンで動いてたのかこれ。俺が数秒固まっているとオヤジは何を察したのか頭を掻きながら苦笑いして見せた。

「ああ、いやぁ悪い、別の液体で動いてるのはわかっちゃいるんだが、呼びにくいもんでガソリンって呼んじまうんだよ。それで、お前のイクリプスは一歩も動かなかった、なんてこたねえよな?」

 日頃の練習は準備や後処理を整備士たちがやっていたから、何も言われなかったのか。今日については公平性を期すため、朝一で完全整備状態、そのうえ会場から格納庫まですべて俺が動かしていた。摩訶不思議パワーの原動力は不明だが、この機体を原理通りに動かしているわけではないということなのだろう。

「よく知らん。エコモードだったんじゃないか?」

「エ、エコ~?」

「ああ、だって俺動かしたもん」

 力士もびっくりな力押しである。困ったら知らぬ存ぜぬを貫けばどうとでもなるのだ。その代わり、何故か信用は落ちる。何故かはわからん。
 オヤジからの質問を華麗にかわ……せないので、ぶつかり稽古のように弾き飛ばしているうちに、二回戦のアナウンスが鳴った。


────結論から言おう。二回戦、三回戦と特に苦戦することなく勝ち進んだ。うん、控えめに言っても楽勝であった。初戦のあの女が一番に苦戦していたと確信するほどあっさり終わったのである。

 さすがに何戦もしていると少なからず疲労が溜まるものだ。しかもこの行事は年末の真夜中まで続けられる。出場者らは自分を鼓舞しながら戦っていることだろう。そんな中、夜間まで開放されている食堂でうどんを啜っていると何者かの影がテーブルに映りこんだ。

「おお御影! ようやく見つけたぜ」

「むお」

 堂前か。俺は振り返りもせずにうどんを啜り続けた。一本が長いな。なかなか途切れない。

「俺も三回戦突破だぜ、次の相手はお前だ。よろしくな!」

「む」

「そういやさ、次はエキシビションマッチやるらしいんだけど、一緒に見に行かないか」

「いやだ」

「そこだけハッキリ! いやそれがよ、なんと郡山先生が戦うらしいのよ! 興味湧かねえか?」

「あいつが……?」

 結局、誘われるまま会場へと足を運んでしまった。興味を優先してしまったことに悔しさすら感じるが、文句を言っても仕方がない。会場を見ると、すでに郡山のグロリアと何者かのマキナが対立していた。果たしてどんな戦い方をするのか、口笛吹くより簡単だと言い切るその実力、見せてもらおうか。

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