怠惰の主

足立韋護

学内大会①

特殊戦技とくしゅせんぎ実戦式じっせんしき学内大会がくないたいかい
 学内大会と大幅に簡略化され呼称されるそれは、堂前の言っていた通り、年末の大騒ぎにはうってつけのイベントのようであった。俺がこちらの世界に来た時の駅前での人だかりは、いわゆる練習試合のようなものだという。たかだか練習ごときであれだけ人気なのだ。本番ともなれば、それは紅白歌合戦が霞みがかって消えかけてしまうほどの人気を誇るに違いない。参加者側であるこちらからすれば、年末くらい休ませてよ、という心持ちでいっぱいである。
 しかしながら、学内大会の優勝賞品は毎年途方もなく豪華なものなのだという。昨年大会の優勝賞品は、特別に個人使用の許可されたマキナ、すなわち郡山の持つグロリアがそれなのだった。

 実はこの数ヶ月間で俺のグロリア操縦技術は格段に向上していた。それはもはや他の追随を許さない次元であり、例えるならブリキのおもちゃと新体操のお姉さんほどの差がそこにはあった。
 だからこそ、俺は本気で優勝を狙いに行っていたのである。

「さ、創ちゃんの出番だよ」

「やるだけやるさ」

 なんて言ってはいるが、負ける気などさらさらない。
 コロシアムに入場すると、爆発するように歓声が沸き起こった。まだマキナを操縦できない高等部のエリート学生や、高い金を払った一般人、果ては政界のVIPまでもが足を運んでいるらしい。
 そんな晴れ舞台を前に、俺は緊張と不安と焦燥で目が回り始めた。コロシアムの向こうからは、やけに小柄な朱色のマキナが現れた。

「こ、こんにちは!」

 どうやら試合開始前にワントーク挟み、相手の顔を写したまま戦うのが習わしらしい。コックピットに映ったそいつは、長髪の地味めな女性であった。

「よろしく」

 短く答えると、それを待っていたかのようにコロシアムの観客席より内側の形状がみるみるうちに変形していく。それはまるで森林エリアとでも言いたげに、木々が青々と茂っていた。葉によって視界は大幅に遮られる。
 やがてアラートのような轟音が鳴り響くと、歓声もさらに大きくなった。始まりの合図である。

 草木をうまくかき分け、足下に張り巡らされている根もうまく回避しつつ、相手のマキナを探した。しかし、くまなく探したつもりでも姿がいっこうに見えない状況に焦りが募る。
 この状況、相手も俺を探しているなんてことはあり得ない。こうして見つけられない以上、相手が俺に何かを仕掛けていると考えるのが普通だ。

 そんな折、周囲の歓声とも悲鳴ともとれる声が上がったと思えば、イクリプスが轟音と衝撃を伴って前のめりに倒れた。

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