怠惰の主

足立韋護

八丁味噌とキャンパスライフ

「郡山、お前の希望は叶えられない」

 郡山は相づちを打つようにふふと鼻で笑う。

「だがその力がないわけでも、俺が個人的にお前が嫌いなわけでもない。この力の発動条件がわからないから確約はできない」

「じゃあ、僕はどうすればいい」

「どこにも行くな、そうすればいずれどこへでも行ける。生憎、指名制じゃあない」

 郡山はいかにも、面白い、といった様子で手を叩いて笑っている。そんなにさっきの小粋なジョークがお気に入りだったのかと悦に浸っていたが、郡山の「そんな顔でキザなこと」という言葉に俺は赤面しながらしょんぼりした。
 まるで発情期の猿のようにひぃひぃ喚き散らす憎き郡山は、笑いすぎて潤んでいる目をこすりながら、とびきりの笑みをこちらに向けてきた。

「ついていくよ」

────次の日、教室で出会った郡山も、ついでに言うなら堂前も至っていつも通りであった。昨日の郡山のカミングアウトも、ついでに言うなら堂前の狂乱も、まるでなかったようになっていた。

「編入生……じゃなかった、御影! 昨日は悪かったな取り乱しちまって!」

 堂前はいつもの調子で小突いてきた。何が、悪かったな、だ。どの口が言う。こいつがこんなに人懐こいのに誰も寄り付かない理由が分かった。周囲はやはりピリついた様子で俺らの様子を見守っていた。今にして思えば、あの実技でトップランカーであった堂前を倒してしまったのだ。成績至上主義のここでは、ただ事では済まされない。

 それから数時間後、俺の脳内の回転数は秒速二十回転を超え、溶解し、八丁味噌になってしまっていた。もちろん冗談であるが、冗談ではなかった。全国粒揃いのエリートだけが通える学園の、最高学府の学科など、最底辺大学に通っていた俺に到底理解などできるはずもなかった。しかしなぜか、外国語の授業だけは文字や発音を理解できた。紛争ファンタジー世界の魔法にでもかかったのだろうか。

 休み時間であろうと周囲を見渡せば、皆が皆、蝉が如く机にかじりついていた。その先の未来には、何が待っているのか。甚だ疑問である。結局今日は実技の授業はなく、まるでちんぷんかんぷんな学科をひたすら垂れ流されただけであった。

 こんな退屈な日々が毎日続くのか、そんなことを考えていたのも二か月前の話である。時は過ぎ、式谷やデルを見つけることもなく、学科と実技を繰り返し授業を受け続けてもう二か月が過ぎていた。相変わらず、俺のイクリプスは念じるだけで動かせたため、実技においてはもはやクラスでトップの成績になっていた。それと比例して、クラスメイトらの冷たい視線はすでに絶対零度をも下回ったのである。

 飯を食い、勉学に励み、時には級友(堂前のみ)と話し、時には先生(郡山のみ)と戯れた。そんなキャンパスライフを満喫していたのだが、気が付いた頃には、かの有名な学内大会当日となってしまっていた。

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