怠惰の主

足立韋護

デザイナーズチルドレン

 郡山は珍しく余裕ぶった表情ではなく、真剣に考えこむような表情を見せた。大人びて見えるのだが、学内大会の優勝者であったのなら、こいつは少なくとも俺と歳が近いか、もしくは歳上ということになる。

「上層部に報告でもするか?」

「実は今まで創ちゃんとの会話は、すべて筒抜けだったんだ。でも今はそのマイクを切ってる。個人的興味のためにね」

 郡山は悪戯な笑みを浮かべた。こいつはまた式谷のようなこと言いだしたな。

「このことは上層部へ報告はしない。恐らく……いやほぼ確実に今日のことを報告してしまえば、学校生活どころではなくなるから」

「報告したら、どうなる」

「創ちゃんの話が全て本当なのかを人道的ではない方法も含めて、あらゆる手段を用いて確認するだろうね」

 こいつは俺がまだ不死ではないことを知らないはずだが、そのうえで非人道的手段を取ろうというのだ。ひどくはた迷惑な話だが、確かに頭の良い優秀な連中が何年も研究したであろうマキナが、たった一日で摩訶不思議パワーによって操縦されてしまうだ。それが本当であれば、喉から手が出るどころか足まで出るほどに欲しいのだろう。

 そんなことは容易に想像できたが、さてそれに反旗を翻すこの郡山という女の考えていることが逆に分からなくなった。バレるリスクを考えれば、報告しないという選択肢はないはずである。

 俺の心情を知ってか知らずか、郡山はイスに腰かけて床につかない足をぶらぶらと振って、こう話を切り出した。

「創ちゃん、僕の願いを一つ叶えてほしいんだ。それが僕の望みであり、報告をしないであげる条件だよ」

 こいつはつくづく式谷みたいなことを言い出す。そういえばあいつら、どこにいるのだろうか。至極どうでもいいが、一応見知った仲だ。気にはなる。

「僕をここから連れ出して」

「ふざけているのか」

 郡山は眉尻を下げて乾いた声で笑った。両手の指を絡ませ、俯き加減にぽつりぽつりと話だした。

「僕はね、マキナに乗るためだけに生まれさせられたんだ」

「どういうことだ」

「デザイナーズチルドレン。人体の能力をパラメータ化させ、その通りの子供を人間の精子と卵に手を加えて人工的に作り出す、そんな技術さ。国の上層部の人間しか利用できない特別かつ秘密裏のシステムなんだよ」

 SF作品にありがちな設定だが、それが本物としてこの世界に存在している。受け入れ難いだろうが、もはや俺の体は非現実を受け入れないキレイなものではなくなっていた。

「おかげさまでマキナの操縦なんてのは口笛を吹くより簡単なんだ。その代償として、身体的な成長は止まり、感情の起伏すらなくなった。つまりは、人間として欠陥品なんだよ」

 あまりふざけた返答はできずにいた。郡山の顔は笑ってはいたものの、そこには皮肉のふた文字がふんだんに盛り込まれていた。

「そして僕は、軍の命令がなければ、一生涯この国から出ることができない」

「国の勝手で国家機密を背負わせて、その流出を恐れてこの国に縛り付ける。随分な対応だ」

「僕だって人生を捧げるほど従順なわけじゃない。創ちゃんは、時代を行き来できる力があるんだろう? 僕もその力でここじゃないところへ飛ばしてほしいんだ」

 至って真剣な依頼であった。ところがどっこい、俺もその目的は共通しているのだが、不本意ながらこの身にまとわりつく摩訶不思議パワーは使いこなせないのである。

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