怠惰の主

足立韋護

オーバーキル

────この状況だけを見れば、勝敗など一目瞭然であった。

 威圧感だけはある俺のイクリプスは、敵の蟹のような気色悪いマキナにあっけなく地面へと押さえつけられていた。不甲斐ない結果ではあるが、当然であろう。
 前進と旋回で突撃して、無為にわちゃわちゃとしていただけなのだから。相手の五条も「な、なんだ、何がしたいんだ!」と困惑しきりの様子だった。そのまま倒れたが起き上がれず、壊れたブリキのように足をバタバタと動かすことしかできなかった。

 五条と郡山のマキナに起こされ、まるで病人のような扱いで慎重に立たされた。クラスメイトの視線が痛い。

「まーまー、気にしない気にしない」

 他のクラスメイトが対戦をしている中、郡山は苦笑いしながらそう慰めてきた。クラスメイトらは拙いところはあれど、一端の乗り手として、攻防を繰り広げている。特に堂前のマキナの動きは洗練されたものがあり、まるで人間が動き回っているように滑らかだ。

 数百ページもあるマニュアルをあと何回読めば、堂前のようにマスターできるのだろうか。
────どう考えても、面倒なことこの上ない。自分の体のように考えただけで自由自在動かすことはできないものか。

「それじゃあ時間もないから、最後は練習がてら、創ちゃんと堂前君で対戦をして。みんなも初心に帰ってしっかり復習しておくように。良いね」

 対戦相手の顔しか見えないものだから皆の表情はわからないが、呆れられているようにしか見えない。貴重な授業を俺なんかに割いてもらって、若干居心地の悪さを感じる。
 郡山の「両者前へ」の掛け声が聞こえた。ひとまずマニュアル通りに、前進、前進……。

「よっ、編入生」

 対戦相手の堂前の顔面が俺の操縦席に映し出された。堂前は俺を確認すると手を挙げ、歯を見せて笑った。
 堂前のマキナは俺や郡山と同様人型のマキナであった。装甲が厚いのか、彼の存在感を表現しているのか、ふた回りほど巨大な印象だ。だがこの巨躯からは想像もできない滑らかで無駄のない動きをして見せる。あらかじめ動きを見ておかねば虚を突かれるほどだ。

「御影だ。編入生と呼ぶんじゃない」

 一瞬の沈黙から、郡山の掛け声とともに堂前のマキナが駆け出した。
 対する俺はと言えば素直に前進を続けみた。それしかできないのだから仕方がない。

「いくぜぇ!」

 威勢の良い言葉とともに、堂前は俺の突撃を機体を逸らして避けた。俺の真横に位置した堂前は、その重腕を俺の背中へと振りかぶった。操縦席に全身を揺さぶるほどの振動が伝わった。コックピットの映像にはアスファルトとコンクリートの地面しか映っていなかった。イクリプスはうつ伏せに倒されてしまっていたようだ。

 旋回、旋回。そう意識しながら、うつ伏せの状態から仰向けへと転がった矢先、視界には俺を踏みつけにしようとしている堂前のマキナの姿があった。巨大な足が視界一杯に降り注いだ瞬間、金属が破裂するような音に加え、コックピットが激しく前後に揺れる。

 誰が見ても勝敗はついていた。起き上がることすらままならないマキナに、それを踏みつけ壊すマキナ。だが堂前の破壊行為は収まることがなかった。幾度も幾度も、まるで俺自身の心までも壊しにかかっているかのように、執拗に、それはそれはねちっこく同じ動作を繰り返す。

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