怠惰の主

足立韋護

リスタートキャンパスライフ

────雑談を交わしながら郡山に連れられたのは、学園内にある一教室であった。

 自動ドアで開け放たれた教室には三十から四十ほどの生徒達がおり、一斉にこちらを向いた。皆同様に俺や郡山と同じ制服を身に纏い、特別個性的でも没個性でもない面々が目を丸くしていた。

「へ、編入生……?」

 誰かが呟いた途端、教室は静まり返った。郡山は俺の背中をぱしぱしと叩いてから教壇に向かった。小さな身長に合わせて足場が用意されており、そこに登壇した郡山は落ち着いた声で皆に言い放った。

「皆さんの期待通り、今日は編入生を連れてきました。創ちゃん、自己紹介できる?」

「あー。えっと、御影創一です。訳あって編入することになりました。よろしくお願いします」

「はい、みんな拍手ー!」

 ぱらぱらと拍手されたあと、郡山が続けて生徒らに案内した。

「今日は午後から特殊戦技をするからね。午前中はその練習時間にしておくから、頑張るんだよー」

 静まり返っていた生徒らの顔が更に強張った。それが何を意味するか知る由もないが、とにかく、普通ではないことだけはわかる。

「よし、じゃあ創ちゃんの席は、あそこ!」

 指差された先は、教室の最奥右手窓際であった。空席がいくつかあったが、そこに詰めて座るよう郡山から指示された。
 授業も決まっているし、席も決まっている。俺のいた大学とは形態が異なるようで、どちらかといえば高等学校の形態に似通っているようだ。

「他に連絡事項はないよ。創ちゃん、昼まで学園内を自由に見回っていいからね。昼ご飯食べ終わったら、ここの教室に来るように。良いね?」

 郡山は「では」と教室を後にした。
 待て、野に放つのが早くはないか。周囲の視線が絡みつくようにして俺へと向けられている。この状況……非常に面倒な事になったと感じる。

「よっす!」

 そんな状況を打開したのが、じっとりとしたクラスの中でも若干砕けた雰囲気であり、俺の前席に座る、金髪を立たせた男であった。
 軽快な挨拶と八重歯を備えた白い歯を見せ、爽やかさで押し潰されそうになるほどのオーラを放っている。

「ああ、よろしく」

「俺の名前は堂前奏太どうまえそうた。ソーちゃん同士、仲良くしような!」

 正直に言おう。苦手なタイプである。馴れ馴れしいし、爽やかすぎるし、近いし、眩しい。こういう奴らは知らんのだろう。日差しが強いほど影はより濃くなるのだ。苦しい、爽やかさで圧死してしまいそうだ。
 だが堂前がこの空間に馴染ませてくれたおかげで、皆からの視線もだいぶ少なくなった。

「一つ聞きたいんだが、編入生というのはそんなに珍しいものなのか」

 堂前はそれを聞き、手足をせわしなくバタつかせながら笑って見せた。
 せっかく馴染んだ空間も、俺の一言でまたピリついた空気に変化した、気がした。

「だってここは、全国でも粒揃いのエリートだけが通える学園なんだよ。小学部に入るのだって、中学部や高等部に上がるのだって血の滲む努力が必要になるわけだ」

 堂前は瞳を輝かせながら得意げに話しを続けた。

「それが、ただでさえ編入が日本最難関とされてる学園の、最高学府の大学部に転入ともなれば、そりゃみんなスゲーってなるに決まってるって!」

 俺は深々とため息をついた。よりにもよって日本一厄介な学園に来てしまっているではないか。

「何より、毎期の学科と特殊戦技の総合評価で最下位になった人は、退学になる校則がある。だからライバルが増えた、なんて思う奴も多いんだろうな。ま、何はともあれ、これからよろしく頼むな」

 かくして、俺のキャンパスライフは不覚にも再スタートしてしまったのである。

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