怠惰の主

足立韋護

冒険者ギルド

 冒険者ギルドの扉を開けると、夜中にもかかわらず屈強な男どもが肩を並べて談笑していた。
 皆、剣やら斧やら物騒なものを携え、鎧に身を包んでいた。そんな場所にヒョロヒョロの2人が迷い込んだのだから、どうしたって注目を集めてしまう。

「なんだぁ? ガキの来るところじゃねぇぞ」

「デートスポット間違えちゃったかなー?」

 こういうのは心底嫌いだ。なぜ何もしていないのに煽られなければならない。不良に突然絡まれる不愉快さに似ている。無視を決め込んでも、対応しても面倒なことこの上ない。

「冒険者になりにきたんだが……」

「ぼーけんしゃぁー? アーッハッハ! やめとけやめとけ、お前らみたいなのがなったってすぐ死んじまうだけだ」

 さっきからなんなんだ。なに、この町治安悪いの? こんなんばっかいるのかい?
 小馬鹿にし続ける馬鹿どもを押しのけて前に出てきたのは、冒険者風ではない、メイド服のような風貌の長髪の女性であった。

「こらこら、皆さんダメじゃないですか。冒険者になりたいんですよね? 私達冒険者ギルドはいつでも誰でも歓迎しています。登録、します?」

「ああ、頼む」

「御影さん、食い扶持ぶち稼げそうで良かったですね」

 お前に喰われるくらいなら泥啜ってでも稼ぐしかないだろう。

「では奥へお越しください。冒険者登録を致します」

 それから登録は簡単であった。通行手形を石板のような場所に乗せる。あとは軽く会話を交わす、面談のようなものをしてから終了。
 特にならず者兵士のように、俺達の情報をジロジロと見るわけもなく、ああ通行手形があれば簡単ね、くらいの感じだ。式谷の乳と引き換えにこの通行手形が手に入ったのは、格別の取引であったと言えよう。まあ、消滅した本人達にそのつもりはなかったようだが。

「────あまり怒らないで下さいね。ギルドの皆さんも、仲間をたくさん失っているからこその、不器用ですけど……優しさなんですよ。私も、心が痛いんです」

「あんた天使か」

「ええっ! そんな私なんかが」

 女は頬を赤らめた。うむ、実に可愛らしい。保護欲が掻き立てられる。

「ああ、自己紹介が遅れました。私はニルトルシェ。ニールとお呼び下さい。あなた達のお名前は通行手形で把握しています。御影様に式谷様ですね。よろしくお願いします」

「よろしく。ところで、宿屋の女将にここで金を稼げと言われたんだが、どんなことをするんだ?」

 ニールは暫し口をつぐみ、やがて一つの問いを投げかけて来た。

「『冒険』という言葉の意味をご存知でしょうか?」

「なんか、旅とかするイメージはあるが」

「私達の世界では、危険なことを自ら進んで行うこと、です。すなわち冒険者とは、危険に身を置く死と隣り合わせの方々のことを指します」

 あれ、そんな危険な職業だったのか。知らなかった。

「『仕事』とは人ができないこと、やりたくないことを代行することで成り立ちます。冒険者ギルドで言うそれは、多くの人々を食い殺したモンスターの討伐や、盗賊団の捕縛、遺跡内に隠された宝の回収など多岐に渡ります」

 眉をハの字にしたニールは、俺へと向き直った。

「そのご様子では本当に何もご存知なかったのですね。改めてお伝えしますがこれは危険な職業です。侮っているわけでなく、あなた達は冒険や旅に慣れているようにも見えません。一個人として、引き留めさせていただきますが、いかがでしょう?」

 親以外の他人に心配されるなど、俺がこの世に生を受けてから初めてのことではなかろうか。なんだろう、この胸の高鳴りは。この感覚、もしかして────

「御影さん、きっと恋ではないですよそれ」

 心を読むな。

「睨みつけるあたり、正解だったようですね」

「式谷、お前は良いのか。死ぬらしいぞ」

「問題ありません」

 式谷は即答した。相手は昼間の暴漢や、魑魅魍魎だというのに、随分と命知らずだ。『強い刺激と飽きない事象』、それがこいつの希望にして念願だというのなら、確かに願ってもない状況なのだろうな。

「────ということだ。俺達なら問題ない。さっさと金になる依頼をもらおうか」

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