怠惰の主

足立韋護

グッドプランナー山へゆく

 式谷は人差し指を立てて俺に振り向いてきた。そこにはいつものニヤケ面のおまけ付きだ。

「では、上を目指しましょう」

「上?」

「あそこです」

 式谷は立てた人差し指を、そのまま湖とは反対に位置する小高い山へと向けた。誇張を一切しないことで有名な俺だが、あの山はまあまあ遠い距離にある。徒歩で行けば半日はかかってしまいそうだ。面倒なことこの上ない。

「どうして山の上を目指すんだ?」

「まず、高いところへ登ればこの地域周辺を俯瞰して見れます。森の終わりが見えるかもしれないし、運が良ければ集落など見つけられるかもしれない」

 なるほど、それもそうか。

「次に、目指す場所が高ければ土地勘のない森の中でも目標を見失わずに済みます。食糧もない私達は余計な時間を使っているヒマはありません」

 迷わないのも悪くはないな。平坦な森からも見失わなさそうだ。

「最後に、山から川は流れていきます。川の近くでは田畑がよく育ち、そこには自然と集落もできる。川があれば水分と食糧確保も期待できます。山を目指しつつ、川も探す作戦です」

「状況判断の鬼か!」

「ま、食糧については、最悪は御影さんがいますから大丈夫ですね。さ、行きますか」

 おい冗談に聞こえないぞ。俺は非常食か。
 しかし、提示されたプランには反論の一つも思い浮かばず、グッドプランナー式谷に従い、小高い山を目指して歩みを進めた。
────進めること体感三十分は経ったろうか。道なき道を突き進むせいか、くたびれた。くたびれたよ俺は。

「な、なあ、あの山いっこうに近づいている気配がないんだが……」

「大きな目標物なんてそんなものではないですか」

「はあ〜。一体全体なんだってこんなことに……」

 式谷はナイフで木に目印をつけながら、顔をこちらに向けた。

「私は元いたあんな世界より、ここの世界の方が今のところ好きですよ。あの巨大な星を見つけた時は、それはもう嬉しすぎて危うく失禁するところでした」

「漏らすな」

「何もかもあなたのお陰です。ありがとうございます」

 何もしていない。何が起こっているのか、俺にもわからんのだ。どちらかといえば、俺も巻き込まれてしまっている側であって、そんな純粋な、眩しい笑顔を向けられる筋合いなどない。五秒前まで失禁などと言い放っていた女の笑顔とは思えんな。

────歩みを決して止めない式谷について行くにも、そろそろ足腰に限界が来ていた。

 幸い動物に襲われるハプニングに見舞われたりはしていないが、景色も同じだとそろそろ、メンタル的にも疲労が蓄積されてしまっている。
 そのうちに我慢できず、俺は足を止めてしまった。

「休憩されますか?」

「少しだけ、休もう」

 若干、山に近づきつつあるがまだまだ距離はありそうだ。俺の半日という計算は、あくまで舗装された道での話だ。このままでは、半日どころか丸一日は優にかかってしまう。あの湖でひたすらにキャンプするわけにもいかなかったし、式谷の判断は今でも正しいと思っている。だが、少々難易度の高い選択肢だったのだ。

 代替案はないのか、それかどうにかしてあの山に移動できないものか。周囲を見渡すが、もう湖すら見えなくなっていた。集落や川もなく、樹海のようにひたすら木々が続いていた。

 もう……動きたくない。




【面倒だし、いっそあの山にパッと移動できたらな】

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