怠惰の主

足立韋護

公平なる不公平

 強い刺激と飽きない事象、そんなものが俺にあるとは思えない。この不死の力に期待しているのだとしても、ただ傷の再生が早いだけだ。他に何もない。
 だが俺が倒れたところから、この縛り付けの状況まで、計画的に作り出したこの女ならばそんなことはわかった上で、目を輝かせているのだろう。

「確かに不死によって、人間のおよそできない芸当はいくつかできるようにはなっただろう。しかしだ、どんな創意工夫をしようとそれにもいずれ限界がくる。そこいらのマジシャンがマジックを作り続けることとなんの違いがある」

「私は不死の力にも惚れ込みましたが、何よりもあなたに惚れ込んだのです」

 人生初の愛の告白がこんな状況じゃ笑えないぞ、ちくしょうめ。

「その年齢で餓死するなんて、並の人間では経験できません。あなたには普通とは違う、常軌を逸した何かが秘められているのだと、私は確信しています」

「お前の気持ちは十分わかった。これからの話をしよう。このままじゃラチが開かない」

「拉致だけに。あはは」

「こら」

「ふふ。あなたが逃げなければ、解放することも考えています。普通の恋人のようにして生活することも可能ではあります。しかしそれを証明する手立てはありません。私も思いついてはいない。で、あれば────」



「あなたを一生、ここで飼い続けることも選択肢に入っています」



 この女、とうとう一生とか飼うとか言い出したぞ。父さん、母さん、あなた達の子供はペットとして余生を過ごすことになりそうだよ。
 もともと死んだような身だが、というより何度か死んだ身だが、余生くらい自由を謳歌させてほしいものだ。

 まあどちらにせよ、この世界にいる限りは、実質の自由などないのかもしれないが。

「あれ、御影さーん? もっと驚くと思ったんですがー、おーい? 聞いてます?」

 そうだ、俺が餓死をしたのも、元はと言えばこの世界のせいではなかろうか。学生時代は窮屈な選択肢しか選ばせず、右に倣えの教育、何もかもを強制。いざ社会人手前にもなれば、なぜ飛び抜けた才能、経験、特技がないのかと数々の会社からまくし立てられる。
 おかしいではないか。むしろ全ての数値が中央値と近しく位置し、犯罪もしない、おかしな言動もしない、俺のような凡夫こそが、現代教育の輝かしい成果なのではないか。それが、求められたことなのではないのか。

 おかしいだろうが。ふざけるな。なんで俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ。全ての面倒ごとの原因はこの世界に他ならないではないか。

「宙空を見つめてブツブツ話す……何かが起きる予兆ですかね?」

 もう……面倒だ。こんな世界……。



【こんな面倒な世界より、違う世界に行きたい】

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