たぶん、死んでいる。

シロ紅葉

たぶん、死んでいる。

 成長期が過ぎ去って。
 反抗期が過ぎ去って。
 厨二病が過ぎ去って。
 気になる人にちょっかいを掛けていた羞恥心が過ぎ去って。
 コンビニの前で仲間と過ごした深夜が過ぎ去って。

 様々な思い出を連れて、どうしようもなく馬鹿で無知な青春と別れを告げる。日々の名残を懐かしむあまりに流れそうになる涙。そんな気持ちと一緒に一つの決心に立ち向かった。振り返るべき過去を武器にして。


 作家になりたくて。
 クリエーターになりたくて。
 職人になりたくて。
 寄り添う人を支えられる立派な大人になりたくて。
 何度でも立ち向かっていくカッコいい物語の主人公のようになりたくて。

 ただ一つの目標を叶えるためにありとあらゆる手を尽くした。これまでとは違う、新しい何かになるために致し方なかった。誰もが他人を追い抜こうと必死になって獣のような様相で闘っていたから。それは最早、生存競争と呼んでも差支えない醜さだった。
 応援もあるにはあったが、大抵は現実を見ろと嘲る奴らばかり。だが、あいにくと聞く耳を持ち合わせていなかった。だって見返してやりたかったから。


 労働者から無職者へ。
 夢追い人から挫折者へ。
 善人から悪人へ。
 上手くいっていた恋人から突然愛想を尽かされて元恋人へ。
 集団の輪の中心から存在しているだけの一人ぼっちへ。

 屈辱と苛立ちにまみれた日々に報復を誓うこともあった。妬んで恨んで、上手くいかない人生を神のせいにして、唾を吐きかけた。だが、それは虚しさを増幅させただけだった。
 気付けば年だけ重ねていた。勝ち残った者共は笑顔を振りまきながら生きているが、何者にもなれなかった人たちは、空いたスペースで抜け殻のように堕落してしまった。

 傷を負い、死人同然のように無感動な日々を送る毎日。生きている実感が湧いてこないのなら、たぶん死んでいる。
 社会に殺されたって何もかも諦めて悟った風に虚ろに生きているだけ。もし無気力に生きているって思えてしまったなら、たぶん、死んでいる。
 たぶん、死んでいる。たぶん、死んでいる。たぶん、死んでいる。
 いい加減に気づいて。
 たぶん、死んでいる。なんて気持ちは、あなたが生きていることに疲れているだけだから。
 ちょっと休めばまた立ち上がれるから、それまで新しい自分を空想して待っていよう。
 たぶん、死んでいる。なんて思わなくていい。それは、次へと繋がる名誉ある失敗でもあるからさ。

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