召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜
第25話 懐かしい相手
「いけ! 女どもは捕らえろ! 男は殺して構わん!!」
ギルドマスターの声に、兵士や冒険者たちは剣を抜く。
冒険者の中には、ギルドホールで見かけた奴もいた。
多分、知ってる奴もきっといるだろう……。出来れば出てきて欲しくなかったーー。
「……三人とも、――出来れば冒険者はなるべく殺したくない。でも――ジェネレート王国の兵士たちは別だ。思いっきりやってやれ」
俺の言葉に三人が頷き、身構える。
俺は両手剣を肩に乗せたまま。
シャルは杖を持ち、魔法を唱える準備を。
その前で庇うようにアルは盾と剣を構える。
ナタリーは杖を構え魔法を放つ気満々でいる。
俺は左手だけ上げると、そこから頭の大きさの火の玉を二十ほど浮かび上がらせる。
その火は青白く燃え上がっている高温度の火の玉だ。
一人でいる時に化学の応用を試したところ、すぐに出来たものだった。
見たことも無い色の見た兵士は、驚きの声を上げ思わず後ずさる。
本当は拳大の大きさが一般的であるが、賢者である俺に出来ないことではない。
冒険者たちも火の大きさを見て、少し慎重になったようだ。
「戦うつもりなら……わかっているよな? 本気で相手させてもらう」
俺は全開で殺気を放つ。
「うぐっ……。相手はたった四人だっ! 行けっ!」
殺気で怯んだギルドマスターだったが、一声を上げ兵士たちが剣と盾を持ち前に出て来た。
俺は残念だと思いつつも火の玉を兵士たちに放つ。
火の玉は螺旋状に回転したまま、勢い良く兵士たちの構えている盾に向かって一直線に向かい、そのまま――――全てを破壊し燃やし尽くした。
俺の魔法を受けた盾はそのまま砕かれ、鎧も意味をなさない程の威力で燃え上がる。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」」
一度の魔法で十人以上の兵士たちは地に伏せる。そして火が消えても人間の焦げた匂いがこの場を支配した。
直撃を免れた兵士たちは、次は我が身かと考え生唾を飲み込む。
ーーそして、シャルとナタリーが魔法を放つ。
『風の精霊よ、我が身に力を宿し、目の前の敵を切り裂け! 真空刃』
『炎よ、我の意のままに暴れろ。目の前の彼のものを流せ! 炎津波』
風の刃がいくつも現れ、兵士たちを切り裂いていく。そして高さ三メートルにも及ぶ炎の壁が出来上がり、津波のように兵士たちを襲っていく。
魔法が消えた時には、立っている兵士はすでに半分もいなかった。
特に集中的にジェネレート王国の兵士を狙ったお陰で、殆どの兵士は地に伏している。
元々ナタリーはルネット帝国にいた時の国一番の高レベルであり、シャルも俺との修行で高レベルになっている。
そこらの兵士たちになど負ける訳もない。
想像以上の威力に、残った者たちは後ずさりする。誰もが魔法の威力に畏怖の念を抱いたのだろう。
「……も、もしや、お前はあの憎っくき魔女かっ!! 我が国との戦いに現れては甚大なる被害を与えていた……」
ジェネレート王国の男が叫ぶ。思わず視線をナタリーに送って尋ねる。
「ナタリー、お前、魔女って呼ばれてるのか? あそこで叫んでる男がそう言ってるけど」
「うーむ。そういえば昔、そんな事を言われた気がするのじゃ。戦場で魔法を放ちまくっておったからのぉ」
ナタリーの言葉に思わず俺は苦笑する。そして、前に向き直る。
「まだ追ってくるつもりか……? 来るならそれなりの覚悟をしてこいよ。次は本気だ」
その言葉と同時に、また火の玉を俺の周りに浮かべる。しかも今度は五十を超えていた。
ナタリーもその数を見て思わず「おぉ、凄いのじゃ」と、声を上げるが聞き流す。
その時、後ろで控えている冒険者の中から――一人出てきた。
官能的なスタイルをこれでもかと見せ、大事な部分だけに防具をつけた女戦士ーールミーナだった。
「――ルミーナ……」
思わず俺は声に出す。
「なんじゃ……知り合いか? トーヤ、お主、ああいうボインなのが……好き……なのか?」
ナタリーの言葉に思わず吹き出す。
「前に護衛依頼を一緒にやったことがあるだけだ……」
ナタリーは俺の近くに一人でやってきた。
「トーヤ、久しぶりだな。どうしても街の高ランク冒険者として、強制招集されたから参加したが、お前だとは思わなかったぞ……」
「ルミーナ、久しぶりだな。お前も俺たちを捕らえるつもりか? ……それなら戦わないといけないが」
「出来れば……戦いたくない。……しかし、後ろにいる冒険者達の手前、誰も戦わずに見ているだけにはいかないんだ。さっきの戦いを見ればわかる。私たちじゃ勝てない事くらい……な」
「それなら――」
「それでも、誰かが戦わないといけないんだよ」
その言葉を最後に、ルミーナは剣を構え、剣先を俺に向ける。
「わかった……。相手をしよう」
俺は、持っていた剣を地面に突き刺し、そして次元収納からもう一本の両手剣を取り出す。
先程まで持っていた剣と、見比べれば一目瞭然なほどに光り輝き、美しい剣である。
これは倉庫に保管してあった、レベル300位の時に使っていた両手剣、アダマンタイト製でドラゴンでも簡単に切り裂ける。
俺は片手で軽く剣を振ってから、剣先をルミーナに向ける。
「そんな見たことも無い国宝と間違える程の剣を持っているとはな……」
「あぁ、色々と秘密があるんだよ。……言えないけどな」
ルミーナは一瞬だけ頬を緩ませたが、すぐに表情を引き締めた。
剣先を向き合わせたまま、動かない時間が過ぎていく。
緊張の時間が過ぎていくと、ジェネレート王国の男が叫ぶ。
「いつまで遊んでるつもりだっ!」
同時に俺に向かって拳大の火の玉が向かってきた。
俺は剣で軽く斬り飛ばす。
――それがタイミングだった。
ルミーナが剣を振り上げ一気に迫ってきた。
しかし、ルミーナといえど、所詮少し強いだけの冒険者のスピードである。
俺は一瞬で、剣を横に振り切り、そのままルミーナの剣に合わせ――そのまま剣を切断する。
斬り飛ばされた剣先は宙を舞い、少し離れた場所に刺さった。
「悪いな。壊しちまって」
「仕方ない。これも定めだろう。あの時の料理――美味かったぞ」
俺はルミーナの言葉を聞き、頷いた後、そのまま剣を横薙ぎに払う。
斬ればそのまま上半身と下半身が別れることになるが、剣の腹で叩いたことで、ルミーナは十メートルほど吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。
そして、地面に刺してあったもう一本の両手剣を持ち兵士たちに視線を送る。
「――次は誰だ……」
その言葉に誰も動く事はなかった。
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