雫の想像主

ポテト男爵

第1章 再誕の想像主(6)

6話  前世と闇神龍

風呂から上がって装備も元に戻して、用意されている服を着た後、僕はドアを開けた。

「湯加減は如何でしたか?」

目の前には龍人族の女性、ヴィリネスさんが立っていた。

「うん、とても気持ちよかったです……それとこれは?」

そう言って用意されていた服を見下ろした。

「それは私がご用意したものでございます……お気に召しませんでしたか?」

心配そうに聞いてくる彼女に、僕は首を振った。

「ううんサイズもぴったりだし、生地も好きなのだからびっくりしたよ」
「それは何よりでございます」

少し安心した様な感じがして、ふと僕は聞いてみた。

「ヴィリネスさんは、前世の僕と親しかったんですか?」
「そうですね、親しいとは思っておりますが……良かったら私の過去を聞きますか?少し長くなりますが」
「うん、お願いします」

彼女は一息ついてから言葉を紡いだ。

「実は私は、元々前世の貴方とは敵対関係だったんです」
「敵?」
「はい、私は前世の貴方、想像主と敵対した創造主に作られた生物兵器なんです」

生物兵器を聞いて驚き、そして嫌な事を思い出して顔を歪めた。

「その時の私は感情などなかったとはいえ、創造主の命令された通りに行動し、その度に何度もこの手で握り潰し、この爪で切り裂き、この牙で噛み砕き、この足で踏み潰し、この尻尾で叩き潰し……そうして私は老若男女問わず、只々殺して殺して殺し続けていました」
「でもある日、私はいつもの様に国を滅ぼしに兵を引き連れて向かっていた時、私は貴方と戦い……傷を一つも与える事も出来ず完敗しました」
「そしてその時に、何もない空っぽの兵器だった私に心を与えて下さったのです……今でも思い出せます、何もないものに色がついた瞬間を、そして罪を自覚した時の苦しみを一緒に乗り越えて下さった事も」

最初の暗さなどなく、最後に純粋な微笑みを浮かべた彼女をみて、羨ましく思ってしまった。

「そうですか……じゃあ、前世の記憶がない僕をどう思ってる?」

つい素っ気なく聞いてしまった。

「何もないわけではありませんが……こうなってしまったのも私の力が及ばなかったからなので、今度こそは貴方を守り通してみせます」
「……それは僕が『想像主』だから?」

視線を合わせてそう答えると、彼女は申し訳なさそうに俯いた。

「勿論そうですね……ですが、たとえ記憶がなくても、きっと私が、私達が思い出させてみせます」

そんな薄い希望を抱いたヴィリネスさんに、複雑な気持ちが湧いたので、話をそこで終わらせた。

「………なるほどね、じゃあ聞けることも聞けたから、今日はもう寝るね」

逃げる様にベッドに潜り込んで目を瞑った。

「かしこまりました、おやすみなさいませ」

ふかふかのベッドに内心感動しながらも、僕は返事をして目を瞑った。

「うん、おやすみなさい」

しかし、それを言って数分くらい、ヴィリネスさんがドアの横辺りに直立しているのに気付き、僕は居心地が悪くなってまた聞いた。

「……ねえ、ヴィリネスさん」
「はい、如何致しましたか?」
「……もしかして、ずっとそこに立ってるの?」
「はい、それが私の使命ですので」

まるでそれが何ですか?という様に首を傾げるヴィリネスさんに頭を抱え、このままじゃ気になって眠れなくなるので、大胆な打開策を閃いた。

「ねえ、ヴィリネスさん……一緒に寝ない?」

正直、綺麗な女性と寝ることに抵抗もあるが、そもそも相手がどんな反応をするのか横目でちらりとみたが。

「な!そ、そそそれは困ります、私が想像主様と添い寝なんてっ!?」

脈アリだったらしく、涼しい表情はどこにいったのか顔を真っ赤に染めて激しく狼狽していた。

「………だって、僕だけ寝てる感じがとても嫌だし、罪悪感で心が痛むから、それに」
「……それに?」

ヴィリネスさんがなぜかゴクリと唾を飲む音が聞こえたが、僕は気にせずに最もらしい理由を言った。

「僕を守るんだったら、そこにいるより近くにいた方がさらに守りやすいんじゃないの?」
「そうではございますが…………」

しばらく悶々と考えていると、意を決した様に上目遣いで聞いてきた。

「……………よ、よろしいので?」

普通の人ならギャップ萌えとかで倒れてるのかなぁとか考えながら僕は頷いた。

「うん」
「か、かしこまりました、これは私の使命ですので仕方ないのです、そう仕方ないのです」

なんだか自分に言い聞かせる様にぶつぶつ言いながらベッドの隣に立って深呼吸をすると。

「……しっ失礼いたしましゅっ!」

盛大にかみ、ヴィリネスさんはそれに気付かず、僕の隣に潜り込んできた。
最初こそ息が荒くなっている様ではあったものの、僕が寝たフリをした後も何かしてくる気配はなかったので、久しぶりの安眠に心躍らせながら眠りについた。

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