異能バトルの絶対王者が異世界落ち

チョーカー

第八次異能力戦争 終戦

 「……寒いなぁ」

 港近くの倉庫街。
 指定された時間は夜の9時。人の気配は希薄。
 俺は倉庫の前に立ち、鉄の扉に手を触れる。
 ただ、それだけ。
 ただ、それだけで鉄の扉は破壊音だけを残し、内部へ吹き飛んで行った。

 「待ってましたよ」

 シルエットから女性だと分かる。さらによく見て見る。
 なんとかヒルズに住んでいそうなマダムだった。

 「重力使いグラビティクリエイターの能力者か。アイツはどこだ?」
 「ここにはいないわ」

 「……そうか」と俺は黍を返して、出て行こうとする。
 しかし―———

 「待ちなさい」

 呼び止められた。
 振り向けば、彼女は封筒を握っていた。

 「この中に地図が入っています」
 「アイツの居場所が書かれているのか?」
 「私は、あの方から預かっただけ……欲しければ私を倒しなさい『異能殺し』……それとも、『異能力戦争の絶対王者』と呼べば良かったかしら?」

 「その名前で俺を呼んだな」

 心の内側からドロドロとしたものが湧き出てくる。
 つい昨日まで、普通に使い、そして使われていた俺の二つ名 『異能殺し』
 そして、昨日得た二つ名 『異能戦争の絶対王者』
 その意味を知った今は増悪の対象でしかない。

 「……っ! 良い殺気です。ですが、貴方の位置は私の能力範囲内ですよ」
 「————ッッッ!?」

 体が重くなる。 
 『重力使いグラビティクリエイター』 の能力である重力操作だ。

 「貴方が勝ったという先代『重力使い』と同じ能力の使い方をすると思いましたか?」

 彼女は勝ちを確信したのだろう。高笑いをし始めた。

「先代は折角の重力コントロールを移動方法に使ったり、白兵戦にしか使わないという愚策でしたが私は違い……」
 「どうして、先代が、播磨豪馬が、接近戦でしか、その力を使わなかったのかわからないのか?」

 彼女の重力操作を無視して俺は歩き続けていた。

 「なっ! 100倍以上の重力が襲っているはずなのに!」

 驚愕の表情を浮かべる彼女に俺は言ってやった。

 「ただ、体が重くする程度だけじゃ俺たちのレベルでは勝敗を左右するほどの要因にはならない。アイツはそれをわかっていたからだ」
 「笑わせないで、あんな馬鹿がそんな事を……私が…私よりも……だったら……

  『夢幻重力』

 空間が歪む————否。空間に穴が開いたのだ。
 規格外の重力が発生した事で、ブラックホールが生まれてしまったのだ。

 「どう?これでも私が、あんな馬鹿よりも下だというのですか!」

 『重力使い』は全てが吸い込まれていく中で高笑いを続けた。

 「……あぁ、アンタは播磨豪馬より馬鹿だったぜ」

 俺は立っていた。
 ブラックホールなぞ、存在しないかのように————

 「ひっ!」

 『重力使い』は俺のパンチで短い悲鳴を上げ、倒れた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「やれやれ、まさか地図が示していた場所が隣の倉庫だったとは、複雑な暗号にしやがって」

 俺は悪態をつきながら、隣の倉庫に入ろうとした。
 だが、入れなかった。

 「これは……結界か?」
 「そ、そうですよ。この能力はかつて貴方が負けた女性、鈴瀬凛の能力。『螺旋結界ヘリカルフィールド』」

 ソイツは、ぐへぐへと独特の笑い声を続けた。小太りの男だ。
 だから俺は―――

 クッシャ 

 俺は結界の一部を握り潰した

 「……能力は同じでも強度は、まるで紙切れだな」
 「そ、そんな馬鹿な! なんで、なんで?」
 「簡単な事だ。能力の強度はカルマ値……そして、何よりも能力者の精神に比例する。あの子は、アンタと違って他者を排除するための能力として使っていなかった。むしろ、逆だ。誰かと理解するため、気が済むまで分かり合うための武器だったんだよ。だからこそ彼女は気高く強かった」

 俺は結界をちぎり、丸めて能力者に投げつけた。
 殴るまでもなく、それだけの攻撃で小太りの男は倒れた。
 倒して後に俺は気づいてしまった。

「あっ……アイツの居場所を聞き忘れてしまった……」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「螺旋結界のヤツも封筒持っててよかったが……また隣の倉庫か」

 そして内部には―――
 2人の男がいた。

 「俺の名前は風魔左門」
 「俺の名前は風磨右門」

 「「我ら風魔兄弟『炎冷』が相手をしよう」」

 「先代と同じ、兄弟の異能力者コンビか」
 「「先代は、互いにいがみ合いながら貴方と戦ったコンビネーションのコの字もなかった。一緒にしてほ……え?」」

 きっと彼らには俺の姿が消えて見えただろう。

 「いくらコンビネーションが凄くても、お前ら2人が先代1人分よりも弱かったら意味ないだろよ」

 2人の背後に回った俺は、その首筋に手刀を叩き付けて失神させた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「俺は先代と違って岩を鎧にするのではなく、チタンを身につけることで……」
 「じゃ、最初からチタン製の鎧着てから来いよ」

 『無機物鎧』の頭部を掴み、一瞬で左右に振って脳震盪を起こさせた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「ここが最後の倉庫か」

 結局、倉庫街の倉庫の全てを開いたのだ。残る1つを除いて……

 「しかし、ここも外れだったら笑えるな」

 そう自虐的に言ったつもりだった。
 しかし――――

 「安心しろ、私で最後だ。先代『異能殺し』よ」

 老人が立っていた。
 スーツ姿にコートを纏い、帽子にステッキ。
 そして、銃を持っていた。

 「俺をその名前で呼ぶな。じじぃ」

 その老人は俺の唯一の肉親である祖父だった。

 「どうしてだ? アンタが異能力の戦いに俺を導いてくれたはずだったのに……どうして、俺と戦った連中を殺して異能を奪った! それも、あんな連中に与えるなんて……教えてくれよ。死滅計画って何なんだよ」
 「……まず、ワシが持っている。この銃はニューナンブと言われる銃でな」

 祖父は俺の激高なんて聞こえないかのように振るまう。

 「じじぃ! ここにきて誤魔化すのか!」
 「良いから、聞け。重要な事だ。この銃はワシが警官時代から使っていた時の銃と同じ種類だ。そして、同じく警官だったお前の父親も……」

 「————ッ!」

 「ワシはお前の両親を奪った異能が憎い。この異能力戦争が憎い。だから、この銃で異能力者を死滅させる計画を作った。それが死滅計画じゃ」
 「銃による異能力者死滅だと? 馬鹿な! 銃ごときで異能力者が殺せるはずがない」
 「いいや、十分じゃ。なぜなら、この銃こそが、新たなら『異能殺し』となるのだからな」

 祖父は俺に銃を向けた。

 「貴様の今までの戦いは業……すなわちカルマ値を貯めるためのもの、この『異能殺し』の能力は因果律を操作すること。つまり————」

 俺に狙いを定めた銃。
 祖父は引き金に指を供え————

 「最強の異能力者であるお前をこの銃で殺せば、全ての異能力者は殺せる―———いや、全ての異能力者は死ぬという結果だけが残る」

 パンッ

 無慈悲に発射された弾丸。
 俺の強化された視力には止まって見える……はずだった。
 緩やかな速度で俺に向かって来る弾丸は余裕をもって避けられる……はずだった。

 「馬鹿っな!」

 肩に凄まじい熱量を感じ、肉がえぐられた痛みが与えられた。

 「能力が低下していく? 俺のカルマ値を吸い込んでいる……だと?」

 困惑する俺に祖父はため息をついた。

 「折角、説明してやったのに理解できていなかったのか。よくその頭脳で異能力戦争を勝利したものじゃな。貴様のカルマ値が目的なのじゃから、そりゃ吸い込むだろ」

 「うるせぇ」と俺は地面を蹴った。

 「むっ? 勝てぬとわかって玉砕か?」

 続けて、祖父が撃った弾丸が体内に潜り込み、俺を破壊していく。
 だが————

 「アンタは間違っている! 俺が戦ってきた異能力者にはクズみたいな奴もいた……だけどなぁ。いろんなヤツがいたんだよ」

 悲しみから道化を演じるしかなかった奴。 
 悪を統率するために自ら悪に堕ちた奴。
 他人のやさしさに依存するしかなかった奴。
 誰よりも正しく、正義に狂うしかなかった奴。
 巨大な渦に逆らう術を持ってなかった奴。
 そして―――
 俺が好きだった————

 「黙れ黙れ黙れ! どうして、誰よりも異能力者に奪われたお前が、どうして肯定する……いや、肯定できる!」
 「戦ってきたからだ!誰よりも、あいつ等と真っ向勝負で!」

 祖父が放った弾丸は俺の額を打ち抜いた。
 しかし——— その直前で————

 俺の拳は祖父へ―———

 届いていた……


 ―――第八次異能力戦争―———

 結果
 勝者 先代『異能殺し』

 第七次異世界戦争の勝者 絶対王者の防衛成功が認められます。

 なお、先代『異能殺し』の完全消滅が確認されました。
 

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