天才軍師は俄か仕込の生兵法
第一部 完
翌日、織田本国より使者が到着する。
魔の軍勢に動きありと感知した本国は、援軍を送る用意を完了。
すぐに送るので、それまで耐えてほしいとの内容だったが……
使者は既に戦が終わっていた事に驚いた。
それも勝利していた事が何よりも使者を驚かせた。
援軍という事で、この地の守護大名であるマルコが援軍要請に本国へ向かった事について聞いたみたが、使者は知らないと言う。
行き違いにであったのだろうか? 数千を引き連れた軍勢なら、すぐにわかりそうなものだが……
「なら、送られていく援軍はキキ姫様を本国までお送りさせていただくため護衛という形をお願いします」
俺は使者に頼んだ。
まさか、500の兵で10倍もの敵を退いた姫を1人の従者だけで帰国させるわけにはいかないだろう。
勝利の英雄凱旋だ。
織田信長の死は織田本国を根底から揺るがし、崩壊させかねない……いや、崩壊して当然の大敗北だ。
後を任せられている者も気が気ではないはず・・・・・・
そこを利用する。
大局的に見れば、魔の軍勢との戦いは、敗戦も敗戦。大敗戦だ。
それに比べれば、今回の戦いでの勝利は、雀の涙ほどの勝利に違いない。
だからだ。 だからこそ、内政を司る者は、この勝利を大々的に宣伝する。
民に、戦いを勝利したと錯角させるほどに大規模な凱旋が行われるだろう。
そうすれば、姫が次期後継者として認めざる得ない。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
城壁には、織田本国からの援軍が到着する。
正規兵が一糸乱れぬ動きで行進。
「では、行きましょうか? 姫様」
「うむ」と姫は軍勢の前に立った。
そして、短く、こう言った。
「父上亡きあと、お前らには苦労をかける。だが、私は父上から全てを引き継ぐ。安心しろ」
訓練された彼らは、どんな言葉にも微動だにしない。
しかし、この日だけは、頬から流れ落ちるものが見えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
————ここではないどこか————
「御目覚めください」
暗闇の中、男の声がする。
男の手にはランタン。その光が男の顔を照らした。
男は明智光秀。そして、彼の前方には水槽?
ガラス張りの物の中、何かが浮かんでいた。
それは首だ。
織田信長の首が逆さにされ、浮かんでいた。
この光景は奇妙としか言いようがない。 しかし、奇妙と言うなら……
明智光秀は誰に話しかけていたのか?
「誰だ?」
声がした。 男の声だ。
明智光秀の声ではない。
では誰の? 決まっている。
ここには明智光秀と織田信長しかいないのだ。
そして、その声は明智光秀の物ではない。
だから、その声の主は―———
首だけで浮かんでいた織田信長の目が開く。
爛々として、生命力に満ちた鋭い眼光。
「おぉ、きんかん頭か。よくもぬけぬけと姿を見せれたものよ。なぜ、裏切った?」
言葉とは裏腹に信長は愉快そうに笑っていた。
裏切られた事が楽しくでたまらないように見えた。
一方での光秀はというと……
「さて、裏切りとはいつの事でしょうか?」
「むっ? 貴様は裏切ってないと言うのか?」
「いいえ、違います。私が聞いているのは、いつの裏切りの事かとお尋ねしているのです」
「・・・・・・いつだと」
「殿は、先の大戦の裏切りは覚えているでしょうが、例えば最初の裏切り、本能寺の変の事か?
それとも、次の世界での裏切りでしょうか? それとも次の・・・・・・あるいは前々回の裏切りでしょうか?」
その言葉に、流石の信長も怪訝な表情に変わる。
「貴様は既に何度も裏切っていると言うのか?」
「さすが、殿。察しが早い。 こことは異なる世界で私は殿を259回、裏切っています」
「・・・・・・」と信長が無言になったのも一瞬
「なるほど、ここは道理が異なる世界という事であるか」
「はい、だから人はここを異世界と呼びます」
「して、なぜだ?
「はい?」
「なぜ、俺を生かしている? 首だけにして辱めるつもりか?」
「まさか、でしょう。殿には思い出していただきたくて・・・・・・」
「思い出す? 何をだ」
「殿は、元々・・・・・・魔に属する者ではございます」
「魔に属す・・・者?」
「はい、この明智光秀が仕える者は、いつだって天に属す者か・・・・・・天に仇名す者と相場が決まっています」
この日、現魔王すら脅かす存在が―———
新たな魔人が生まれた事に、魔も、人も、知る由がなかった。
第一部 完
魔の軍勢に動きありと感知した本国は、援軍を送る用意を完了。
すぐに送るので、それまで耐えてほしいとの内容だったが……
使者は既に戦が終わっていた事に驚いた。
それも勝利していた事が何よりも使者を驚かせた。
援軍という事で、この地の守護大名であるマルコが援軍要請に本国へ向かった事について聞いたみたが、使者は知らないと言う。
行き違いにであったのだろうか? 数千を引き連れた軍勢なら、すぐにわかりそうなものだが……
「なら、送られていく援軍はキキ姫様を本国までお送りさせていただくため護衛という形をお願いします」
俺は使者に頼んだ。
まさか、500の兵で10倍もの敵を退いた姫を1人の従者だけで帰国させるわけにはいかないだろう。
勝利の英雄凱旋だ。
織田信長の死は織田本国を根底から揺るがし、崩壊させかねない……いや、崩壊して当然の大敗北だ。
後を任せられている者も気が気ではないはず・・・・・・
そこを利用する。
大局的に見れば、魔の軍勢との戦いは、敗戦も敗戦。大敗戦だ。
それに比べれば、今回の戦いでの勝利は、雀の涙ほどの勝利に違いない。
だからだ。 だからこそ、内政を司る者は、この勝利を大々的に宣伝する。
民に、戦いを勝利したと錯角させるほどに大規模な凱旋が行われるだろう。
そうすれば、姫が次期後継者として認めざる得ない。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
城壁には、織田本国からの援軍が到着する。
正規兵が一糸乱れぬ動きで行進。
「では、行きましょうか? 姫様」
「うむ」と姫は軍勢の前に立った。
そして、短く、こう言った。
「父上亡きあと、お前らには苦労をかける。だが、私は父上から全てを引き継ぐ。安心しろ」
訓練された彼らは、どんな言葉にも微動だにしない。
しかし、この日だけは、頬から流れ落ちるものが見えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
————ここではないどこか————
「御目覚めください」
暗闇の中、男の声がする。
男の手にはランタン。その光が男の顔を照らした。
男は明智光秀。そして、彼の前方には水槽?
ガラス張りの物の中、何かが浮かんでいた。
それは首だ。
織田信長の首が逆さにされ、浮かんでいた。
この光景は奇妙としか言いようがない。 しかし、奇妙と言うなら……
明智光秀は誰に話しかけていたのか?
「誰だ?」
声がした。 男の声だ。
明智光秀の声ではない。
では誰の? 決まっている。
ここには明智光秀と織田信長しかいないのだ。
そして、その声は明智光秀の物ではない。
だから、その声の主は―———
首だけで浮かんでいた織田信長の目が開く。
爛々として、生命力に満ちた鋭い眼光。
「おぉ、きんかん頭か。よくもぬけぬけと姿を見せれたものよ。なぜ、裏切った?」
言葉とは裏腹に信長は愉快そうに笑っていた。
裏切られた事が楽しくでたまらないように見えた。
一方での光秀はというと……
「さて、裏切りとはいつの事でしょうか?」
「むっ? 貴様は裏切ってないと言うのか?」
「いいえ、違います。私が聞いているのは、いつの裏切りの事かとお尋ねしているのです」
「・・・・・・いつだと」
「殿は、先の大戦の裏切りは覚えているでしょうが、例えば最初の裏切り、本能寺の変の事か?
それとも、次の世界での裏切りでしょうか? それとも次の・・・・・・あるいは前々回の裏切りでしょうか?」
その言葉に、流石の信長も怪訝な表情に変わる。
「貴様は既に何度も裏切っていると言うのか?」
「さすが、殿。察しが早い。 こことは異なる世界で私は殿を259回、裏切っています」
「・・・・・・」と信長が無言になったのも一瞬
「なるほど、ここは道理が異なる世界という事であるか」
「はい、だから人はここを異世界と呼びます」
「して、なぜだ?
「はい?」
「なぜ、俺を生かしている? 首だけにして辱めるつもりか?」
「まさか、でしょう。殿には思い出していただきたくて・・・・・・」
「思い出す? 何をだ」
「殿は、元々・・・・・・魔に属する者ではございます」
「魔に属す・・・者?」
「はい、この明智光秀が仕える者は、いつだって天に属す者か・・・・・・天に仇名す者と相場が決まっています」
この日、現魔王すら脅かす存在が―———
新たな魔人が生まれた事に、魔も、人も、知る由がなかった。
第一部 完
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