天才軍師は俄か仕込の生兵法
攻城戦において最強。しかし、巨体でありながら短足で鈍足
元日本人のタケルは城と言われて想像する建物は―———
天守閣に殿さまが住んで、部下の侍がいて……
そんなイメージだ。だが、これは城と言っても、城砦と言われる種類らしい。
逆に、壁に町が囲まれている状態も城を言われる。
城壁都市と言うらしい。
この場所は後者、つまり城壁都市という事になる。
前世では海外旅行の経験もないタケルにとって、城壁都市を歩き回るの初めて事だ。
どこに、何があるのか見当がつかない。
馬を預けて、足早に進むキキの後ろ姿を見失うと、即迷子になってしまいそうだった。
タケルの見た目は11歳だ。しかし、流石に精神年齢47歳で迷子になるのは勘弁してほしいと、キキに必死になって後ろをついていっているのだが……
周囲から見れば、幼い子供が必死に姉の後ろをついて歩いている微笑ましい光景に映っていた。
キキから義理の弟になれと宣言されたタケルにとっては、嬉しくない勘違いだが……
知らぬが仏というやつだ。
そしてたどり着いたのが作戦本部。
(しかし、明らかに名前負けだ)
それが、タケルが作戦本部に対しての第一印象だった。
門番が言っていた通り、正規兵は0人。いるのは学生のみだった。
キキはその面子の中から、1人を指差して―———
「君がここの責任者か?」
「は、はい。ビル・ロビンソンと言います。まだ、学生ではありますが臨時代理としてマルコ様の代わりを任せられています」
おそらく、マルコと言うのが逃げた大名の名前らしい。
「私は織田信長が娘、織田キキだ。ただいまから、この指揮系統を総括させて貰う。この連れの少年は、私の従者で義姉弟でもある服部タケル。早速だが、状況を報告してくれ」
キキは、素早く作戦本部を掌握した。
いきなり、現れた少女。 それも学生の自分達よりも年下に見える少女に指揮系統を寄こせと言われても普通は、渡さない。
しかし、それが当然と言わんばかりのキキの振る舞い。織田の名前の効果。何よりも有無を言わさない武人の威圧感が学生たちから正常な判断を奪ったのだ。
僅か30分後には、彼女が織田家の後継者である織田キキ本人である事に疑う者をいなくなった。
これが織田家のカリスマ性が成す技なのだろうか?
「……我が勢力は、新人より、見習いよりも劣る軍事学校の学生が500人か」
「はい……予想されている敵勢力は5000の10倍。それもオークやトロールで構成された部隊だと斥候が情報を持ち帰ったのが3日前です」
「その日の内に大名のマルコは正規兵の2000人を連れて逃げ出したという事か。頭が痛いな」
「いえ、マルコさまが言うには本国へ援軍を求めに……」
「お前たちはそれを信じて戦い、死ねると?」
「…いえ、それは……」
「やれやれだな。どうだ?」とキキはタケルの方を向いて、こう続ける。
「服部一族のお前なら、敵将を事前に暗殺して進軍を止めれるか?」
服部一族の名前も知れ渡っているのか、作戦本部が一斉に騒めき始めた。
11歳の俺に、皆が期待の眼差しを向けている。
だが————
「無理ですね。過大評価し過ぎですよ」
俺が言うと、途端に落胆のため息が建物の中に響いた。
だから俺はこう続けた。
「けどまぁ、勝つための策なら思い浮かびますけど」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
タケルたちから離れた場所。
魔の軍勢 5000に近づく軍勢がいた。
その数は2000。 城から消えた正規兵の数と一致する。
「止まれ!」
魔の軍勢からの声で両軍は停止した。
停止した軍から1人が前に出た。
「私は魔の軍勢を率いる将、カルゴと言う。貴方たちはマルコ殿の部隊か?」
カルゴの呼びかけに軍から1人の男が現れた。
禿げあがった頭部。前方に突き出た腹。ヘラヘラとした笑顔。
彼がマルコなのだろう。
しかし、城を放置して逃げ出したと思われた彼が、なぜここに?
もしかしたら、民に犠牲が出ないように、不安を煽らないように、嘘をついたのだろうか?
城から離れた場所で魔の軍勢を打ち払う猛将であり、民想いの男なのだろうか?
————いや、それは違う。
「はい、私がマルコです。事前のお約束通りに城から正規兵を連れだしました。このまま軍勢に加えてください」
ヘラヘラと浮かべた笑みは媚を売るためのものだったのだ。
そもそも、大名であるマルコが正規兵の全員を連れだして、援軍を呼ぶというウソをついて逃げ出した……これには無理がある。
いくらなんでも、守るべき城を空にして援軍を求めるのはあり得ない。
そんな言い訳では、戦時中の一時期は命を延命できても、戦いが終われば処刑相当の罪が待っているのだ。
そんな道理が分らぬほどマヌケな男が織田領内の出入口の守護を任せられるはずがない。
大名たるマルコ失踪の真相は、裏切りであった。
「そう言う約束でしたね。それでは軍の後ろにつきなさい。我々は歓迎します」
「は、はい。ありがとうございます」
マルコ軍は、魔の軍勢の背後へ進んいった。
それを見届けるとカルゴの横にいた若い副官は不満げに言った。
「あのような者を本気で加えるつもりですか?カルゴさま」
「はっはっは……まさかでしょう。有利不利で裏切る者は、また裏切ります。朝を迎える頃にはオーク達に食べられて骨にでもなっているでしょね」
カルゴの言葉に副官は驚きと同時に恐怖の色を見せた。
そして「やはり、カルゴさまは恐ろしい方だ」と誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
それは、敵の投降者に対する扱いだけの話ではない。
攻城戦を見越したオークとトロールの混合部隊。
力が強く、建物の破壊工作に優れた部隊であるが……
オークとトロールの混合部隊は、こう表現される。
『オーク&トロール混合部隊は、攻城戦において最強。しかし、巨体でありながら短足で鈍足』
つまり、通常の部隊よりも進軍速度がかなり遅い。
それは決して、足が遅いからとか、短足というわけではなく比喩によるものだ。
この混合部隊は、忠誠心の低さから統率性が難しいため、長時間拘束しての遠征では準備や進軍中のトラブルを想定しなければいけないと言う意味である。
しかし、カルゴの進軍速度は予定通りよりも少し遅い程度だった。
それも通常部隊の進軍速度と同等の予定だったにも関わらず……だ。
(最初の計画と聞いた時、通常部隊の進軍速度と同等で進むなんて、正気を疑ったが……)
副官は、畏怖と敬意を込めた視線をカルゴへ送った。
すると背後で人の叫び声が聞こえてきた。
「さて、どうやら食事が始まったみたいですね。しかし、困りましたね。早く食べて貰わないと、予定より遅れてしまいます。 余裕を持って立てた計画だったのですが……オークとトロールは短足で鈍足でしたかな? 結局、私の予想より進みませんでしたね」
その言葉に副官は、震えを隠さずにいられなかった。
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