天才軍師は俄か仕込の生兵法 

チョーカー

マルコ城の戦い


 敵兵力 5000 
 構成 オークとトロールの混合軍 攻城戦仕様

 対して————

 味方兵力 500 
 構成 学生

 この兵力差に対して、勝つための策があると言ったタケルは———俺はと言うと……馬を見ていた。

 ———馬舎———

 「良い馬ですね、どのくらいの速度が出ますか?」

 俺は責任者が答えてくれた速度を脳内でキロ表示に直す。
 競馬などで使われる馬、競走馬サラブレットは、確か時速80キロ。
 しかし、それは血統による品種改良を加えた馬だ。 さらに加えると騎手ジャッキーの体重は、馬の走りに負担にならない様に驚くほど軽い。
 いくら良い馬と言っても、軍馬が競走馬サラブレット同等の速度で走れるわけはない。
 しかし、この軍馬の速度は悪い数字ではなかった。

 (コイツは使えるな)

 俺はニヤリと笑みを浮かべた。
 しかし、その笑みをどう捉えたのか責任者は————
 「織田の姫様は学生たちを馬に乗せるつもりで?」と聞いてきた。

 「う~ん、一応はね」と俺は答える。
 すると「ソイツは良くない」と返ってきた。

 「それはどうしてですか?」
 「馬上で剣を槍を振るう。さらに馬上で魔法を使う魔法騎兵隊なんて部隊もあるらしいが……そいつは熟練の練度と必要ですよ。学生なんて馬を操れる者が何人いるか……」

 しかし、タケルは笑顔で責任者の心配ごとを笑い飛ばした。

 「大丈夫大丈夫。織田の姫さまに任せとけ大丈夫ですよ。なんでも、すぐに初めて馬に乗る者を猛将に変える秘策があるそうです」
 「そ、そんな方法が……って姫様!」

 いきなり責任者は驚いた表情で平伏した。
 何事か!? と俺は背後を振り返ると……

 「何をしているタケル!」

 姫は怒りの表情をお見せだった。――――いや、表情だけではなく憤怒のあまり、長い黒髪が逆立っている。怒髪天って奴だ。 

 「なにと言われましても、戦の準備ですよ」
 「そうではない! 兵士たちに何をやらせているのだ!」

 そこでようやく俺は姫が怒っている原因がわかった。

 「何って……穴掘りですよ」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 翌日、魔の軍勢は小高い丘で全軍を停止させた。
 目前には大名マルコが統治していた城が見える。
 そのマルコ達はオークに食べられ、優秀な兵站と化しているのだが……
 魔の軍勢の司令官 カルゴは副官に告げる。

 「オーク&トロール混合部隊を前進 目的は目前の城を」

 その言葉を聞いて、副官は大声を上げる。

 「全軍前進! 攻撃を開始する!」

 獣性を帯びたオークとトロールの咆哮が一斉に湧き上がる。

 一方で城壁の上。
 「来たか」と呟く小柄な影が揺れている。
 城壁の正面にはタケルが陣取っていた。
 その横で「今更ながら、本当に500の学生で5000に勝てるのか?」とキキが聞いてきた。

 「そうですね。攻城戦の場合は攻める側は守る側の2~3倍の兵力が必要と言いますからね」
 「全然、足りてないじゃないか!」
 「まぁ、そうなんですが……後世だと鉄砲の発達で、2~3倍どころか10倍の兵力が必要なんて言われてますから」
 「うむ? 鉄砲と言うと父上から話は聞いているが……鉄の塊が遠くの敵を殺すと言うアレか?」
 「ソレですよ?」
 「しかし、この世界に鉄砲なんてないぞ?」
 「そこは、まぁ魔法を代用すれば良いでしょ」

 「なるほど」とキキは納得した。
 やがて―――
 学生のビルの声が上がった。

 「見てください。作戦通りに敵が進行を止めました」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 魔の軍勢は、攻城部隊であるオーク&トロール混合部隊の中心に副官がいて、用兵の指示を飛ばす。
 大将であるカルゴは、その後方で待機している。
 前記した通り、この世界の戦では軍の後衛には魔法部隊がいて、集団で1つの巨大魔法の詠唱を行い敵軍に大打撃を与えるのが戦術の基本となっていて、カルゴの軍後方にも例に漏れず少数の魔法部隊がいる。
 大将であるカルゴは、その巨大魔法の詠唱が完成したならば、その発動のタイミングを見極めなければならないからである。

 「何かあったか?」

 カルゴは電波を利用した魔法で、離れた副官と連絡を取る。
 彼のの目には自軍の進軍速度が落ちたのが見て取れたからだ。

 「はい、自軍前方に穴が掘られてます」
 「穴だと……よし、部隊を止めて、可能な限り詳細を話せ」
 「これは、穴と言うより溝です。オークの下半身までなら埋まりそうな高さまで地面が掘り返されている」
 「ふむ、塹壕か? 溝に敵兵が隠れている可能性は高いな」
 「それが……」
 「むっ? どうした?」
 「塹壕ではありません。城門から真っ直ぐの道のように均されています」
 「……」

 カルゴは顔を上げ、空を眺めるように考えだす。
 横に掘られる塹壕ではなく、縦に真っ直ぐ彫られている?
 それも道のように……か。
 道のように何かが、そこを通るのか?

 「続けて報告します」
 「よし、話せ」
 「周囲を偵察した所、塹壕は1つではなく3つでした。城の端に沿って左右に2つ発見しました」
 「・・・・・・」

 さらにカルゴは考える。

 可能性が高いのは従来の塹壕のように伏兵の配置か……
 あるいは火計。穴は火の通り道か?
 最近、東で発見されたという燃える水とやらを塹壕にながせば・・・・・・一気に我が軍を崩壊する事もできるだろう。

 「副官へ伝令。その塹壕には伏兵か火計の恐れがある。全軍の警戒を強めろ。ゆっくりでいい。2つの可能性を想定しながら安全を確認しながら前進だ」  

 カルゴは、そう命令した。

 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品