天才軍師は俄か仕込の生兵法
城内
———城———
それはタケルのイメージとは大きく違っていた。
大きな城があって、その周りには城下町として、多くの人が住んでいる。
そう想像していたのだ。 しかし、この城は巨大な壁に覆われいた。
タケルが連想したのは中国の三国志の城。
城の内部と外部を繋ぐ門には門兵が2人づつ待機している。
いや、2人だけではない。 城壁の上に何人もの兵士が殺伐とした気配を隠せずにいる。
タケルは城壁を観察する。
どうやら、城を取り囲むような壁だが、正方形の形ではないみたいだ。
左右に大きな出っ張りのようなものがあり、おそらく城門に敵を集中させて左右のスペースから弓で射抜くための造りだろう。 ドローンでもを飛ばして、上空から撮影してみると凹のように見えるだろう。
(戦うための城だ。それでも城主が逃げたという事は、それほどの敵が迫ってくるのか……)
不安に駆られる。
この場所が戦地となるのが始めからわかっているなら、立ち寄る必要はないのではないか?
そう、思うかもしれないが……
織田家の後継者が城に戻るまで、俺1人が従者と言うわけにはいかない。
少数でも護衛を借りて、急いで自身の支配圏まで戻る必要が……
「だから、どうして私が中に入ってはいけないのだ!」
キキの怒声が聞こえてきた。
どうやら、揉めているみたいだ。
「そ、それが、上司から誰も通すと言われてまして……」
「織田の姫と知っても命令を順守するのは立派だが、時と場合を考えろ。素早く上司を呼べ」
「その、上司はいません!」
「いない? とうい事か?」
「はい、この城の本来の正規兵は織田本国へ援軍を求めに行かれた御当主さまをお守りするため、全員が……」
「なに! この城に正規兵はいないと言っているのか?」
「はい、この城に残っている私たちは見習いとして軍隊学校から勉強のために兵役についた者たちだけでして……」
「が、学徒兵しかしないのか!?」
「……はい」
「この城に敵が向かっているという話だが……事実か?」
「……はい」
「はぁ」とキキはため息をついた。
「上司の命令は守るが、そのような重要な軍事機密は簡単に口を割るのだな……門を開け。 お主等だけなら死ぬぞ」
「———ッ!? か、開門!」
キキの一喝で扉は開いた。
「うむ、入るぞ。しかし……私が本物の織田キキだから良かった。もし、私の正体が敵の間者だったならば、お前は城内の民を殺した戦犯だぞ。以後、励みなさい」
ポカーンとした門番を後にキキと俺は城内へ入った。
城壁の内部には町が広がっている。
山を降りて初めて踏み入れた、この世界での町。
タケルは湧き出てくる興奮を抑えながらも町並みを観察する。
織田信長の支配下という事もあってか、町民は着物が多い。
「しかし、町民の多くは金髪碧眼だから違和感が大きいなぁ」
皆、地毛なのだろうか?
成人しても髪質が変わらず金髪と言うのは、珍しいという話をタケルは思い出した。
もちろん、元いた世界での話だ。
幼少期は金髪でも、金髪まま成人を迎える人間は世界でも1割ほどで、大抵は染めているらしい。
そんな豆知識を思い出した。
「おい、そんな所で止まってるんじゃない」
足を止めて、キョロキョロしていたのがわるかったのだろう。
後ろから来た人に怒鳴られた。
いや、彼だけではない。
すれ違う町民からはピリピリとした緊張感が漂っている。
彼らには戦争の足音が聞こえているのかもしてない。
だが、おそらくは半信半疑なのだろう。
この城が戦火に見舞われると知っていれば、道中に出会った商人のように他国へ移り住む人が多く出てもおかしくない。 商人の情報網が一般人と比べても精度が高いということか?
「それも胡散臭い話だけどなぁ」
「何が一体、胡散臭いのだ?」俺の前を先行して歩いていたキキが振り返って聞いてきた。
「情報が速過ぎると思いませんか?」
「なにがだ?」
「織田信長の死を知っている」
「————ッッッ!?」
タケルはキキの変化に気づいた。
それまで父である織田信長の死に悲しむ様子をみせなかったキキだったが、父親が目の前で殺されて心に負う物がないはずはない。
彼女は、弱みを隠していた。その事を俺は失念していたのだ。
「すいません、つい……」
「いや、構わない。父には戦のたび、今生の別れと思えと言われていたのに、私の心構えが拙かっただけだ……話しの続きを聞かせてみろ」
「では、失礼ながら……」と俺は少しだけ背を正して、続けた。
「姫が服部の里にたどり着いたのは、馬を飛ばして戦が終わった即日。それから山を降りて……どうも2~3日で織田信長死亡が町民まで知っているのは、いくら何でも早過ぎると思いませんか?」
「……なるほど。それは、つまり、どういうことだ?」
「おそらく、敵の意図的に情報を流したのではないかと俺は考えます」
「むむむ、敵は戦う前から不安を煽っているという事か?」
「えぇ、情報戦が得意なのかもしれません。だとしたら……」
「だとしたら、なんだ?」
「敵の進軍は、想像より速いかもしれません。もしかしたら、明日にも城前で陣を広げている可能性も……」
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