天才軍師は俄か仕込の生兵法
大名の逃げ
 
 「そうですね。外の世界を知りたかったからですかね」
タケルは生まれ変わってから11年が経過していた。
しかし、隠れ里から出た事がない。
それはタケルだけではなく服部一族の子供は、全員がそうだ。
世間との関わりを絶ち、里内での独立したコミニティで過ごす。
それは、ひょっとするとキキが言う
『普通である事を捨てる』
常軌を逸脱した戦士を作るためなのかもしれない。
だからこそ、タケルは自ら織田家の人質になる道を選んだ。 そうキキに言った。
「ぬぐぐ……」
「うわぁ、何で泣いてるんですか!」
キキは泣いていた。
号泣だった。
「貴様は不憫である事を自覚しろ!」
「え!?」
「自身の実力を低く見積もったり、私相手に必死に戦った理由が里の外に出たかっただと……よし、わかった!」
「えっと? 何がわかったんですか?」とタケルは嫌な予感がしながらも聞いてしまった。
「私と貴様は、主君と家臣ではない! 義理の姉だと思え! 今日から私たち姉弟だ」
「いや、それは……ちょっと…」
「どうした? 早くお姉ちゃんと呼んでみろ」
「さぁ! さぁ!」と馬から飛び降りて迫ってくるキキ。
タケルは、どうやって断るか脳を思考回路をフル回転させるが……答えは出てこなかった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「さて、ここから先は織田領内になるのだが……様子がおかしいな」
キキは険しい表情で道行く人を観察している。
しかし、人の出入りが皆無と言ってもいい隠れ里出身のタケルには、何もかもが目新しい光景だ。
キキが何を訝しがっているのか見当すらつかない。
「織田領内へ向かう商人よりも、外に出ていく商人が多い。普段なら商売を始めるため織田領へ目指す商人が多いのだが……今日は、どうやら逆のようだ」
織田領の商売人が集まる理由に楽市楽座と言うものがある。
本来、土地々々には商売を取り仕切る顔役。商人の重鎮のような人物たちがいて、彼らが商品の独占、外部からの立ち入りの拒否、税金の有無を一任できたため、新たに商売を始めようとしても高いハードルになっていた。
しかし、織田領は重鎮たちの締め出しに成功。 商売の自由化が進んでいる。
「そこで待っているがいい。少し聞いてくる」
そう言うとキキは馬から飛び降り、忙しなく動く商人を捕まえた。
「待たれよ。少々、聞きたいことがある」とキキは言った。しかし―———
「なんでぇ! こっちは急いでるんだぞ!」
商人は荒々しい言葉使いだった。
「うむ、どうやら聞き方を間違えたようだな。私の名前は織田信長が娘、織田キキだ。私の国で何が起きた?」
商人は、たちの笑い冗談とでも思ったのかもしれない。
一瞬、笑い飛ばそうとしたようだが、表情が見る見るうちに変わっていった。
「あんた……本物かい?」
「愚問だ。なぜ、私が私を騙る必要があると思うだ?」
「へぇへい!」と商人は、その場で地に膝をつけたかと思うと「織田の姫様と知らずに、御無礼を!」と大声で叫んだ。
ざわざわと周りの商人たちを足を止めた。
「うむ、構わん。それよりも早く答えるがよい」
「そ、それが……近々、この辺りに魔王軍が攻めてくると噂がありまして……」
商人の話はこうだった。
織田信長討ち死にの知らせは、織田領の町人なら誰もが知っている。
さらに人の連合軍を打ち破った魔の軍勢は、勢いをそのままに領主を失った織田領を廃墟と化すために進軍を開始している。
この付近の守りを任されていた守護大名は織田本国に援軍を求めて、自ら使者となったそうだ。
「そうか……時間を取らせてすまなかったな。そなたにも道中の息災を祈ろう」
「とんでもございません」と商人は逃げるように去って行った。
「くっ……この土地を、城を任されていた者が戦争前に本国へ向かうなど……」
キキの表情は怒りで染まっていた。
この地を任せられた男は、民よりも速く逃げ出していた。
それは、世間知らずのタケルにでもわかった。
 「そうですね。外の世界を知りたかったからですかね」
タケルは生まれ変わってから11年が経過していた。
しかし、隠れ里から出た事がない。
それはタケルだけではなく服部一族の子供は、全員がそうだ。
世間との関わりを絶ち、里内での独立したコミニティで過ごす。
それは、ひょっとするとキキが言う
『普通である事を捨てる』
常軌を逸脱した戦士を作るためなのかもしれない。
だからこそ、タケルは自ら織田家の人質になる道を選んだ。 そうキキに言った。
「ぬぐぐ……」
「うわぁ、何で泣いてるんですか!」
キキは泣いていた。
号泣だった。
「貴様は不憫である事を自覚しろ!」
「え!?」
「自身の実力を低く見積もったり、私相手に必死に戦った理由が里の外に出たかっただと……よし、わかった!」
「えっと? 何がわかったんですか?」とタケルは嫌な予感がしながらも聞いてしまった。
「私と貴様は、主君と家臣ではない! 義理の姉だと思え! 今日から私たち姉弟だ」
「いや、それは……ちょっと…」
「どうした? 早くお姉ちゃんと呼んでみろ」
「さぁ! さぁ!」と馬から飛び降りて迫ってくるキキ。
タケルは、どうやって断るか脳を思考回路をフル回転させるが……答えは出てこなかった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「さて、ここから先は織田領内になるのだが……様子がおかしいな」
キキは険しい表情で道行く人を観察している。
しかし、人の出入りが皆無と言ってもいい隠れ里出身のタケルには、何もかもが目新しい光景だ。
キキが何を訝しがっているのか見当すらつかない。
「織田領内へ向かう商人よりも、外に出ていく商人が多い。普段なら商売を始めるため織田領へ目指す商人が多いのだが……今日は、どうやら逆のようだ」
織田領の商売人が集まる理由に楽市楽座と言うものがある。
本来、土地々々には商売を取り仕切る顔役。商人の重鎮のような人物たちがいて、彼らが商品の独占、外部からの立ち入りの拒否、税金の有無を一任できたため、新たに商売を始めようとしても高いハードルになっていた。
しかし、織田領は重鎮たちの締め出しに成功。 商売の自由化が進んでいる。
「そこで待っているがいい。少し聞いてくる」
そう言うとキキは馬から飛び降り、忙しなく動く商人を捕まえた。
「待たれよ。少々、聞きたいことがある」とキキは言った。しかし―———
「なんでぇ! こっちは急いでるんだぞ!」
商人は荒々しい言葉使いだった。
「うむ、どうやら聞き方を間違えたようだな。私の名前は織田信長が娘、織田キキだ。私の国で何が起きた?」
商人は、たちの笑い冗談とでも思ったのかもしれない。
一瞬、笑い飛ばそうとしたようだが、表情が見る見るうちに変わっていった。
「あんた……本物かい?」
「愚問だ。なぜ、私が私を騙る必要があると思うだ?」
「へぇへい!」と商人は、その場で地に膝をつけたかと思うと「織田の姫様と知らずに、御無礼を!」と大声で叫んだ。
ざわざわと周りの商人たちを足を止めた。
「うむ、構わん。それよりも早く答えるがよい」
「そ、それが……近々、この辺りに魔王軍が攻めてくると噂がありまして……」
商人の話はこうだった。
織田信長討ち死にの知らせは、織田領の町人なら誰もが知っている。
さらに人の連合軍を打ち破った魔の軍勢は、勢いをそのままに領主を失った織田領を廃墟と化すために進軍を開始している。
この付近の守りを任されていた守護大名は織田本国に援軍を求めて、自ら使者となったそうだ。
「そうか……時間を取らせてすまなかったな。そなたにも道中の息災を祈ろう」
「とんでもございません」と商人は逃げるように去って行った。
「くっ……この土地を、城を任されていた者が戦争前に本国へ向かうなど……」
キキの表情は怒りで染まっていた。
この地を任せられた男は、民よりも速く逃げ出していた。
それは、世間知らずのタケルにでもわかった。
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