天才軍師は俄か仕込の生兵法 

チョーカー

転生 新たな名前は服部タケル

 タケルが目をあけると若い女性がいた。
 整っている顔立ちだが、目を引くのは炎の様に真っ赤な髪だった。

 誰ですか? 

 声を出したつもりが口から出てたのは意味不明の音だけだった。
 頭は靄がかかったようにハッキリとしない。視界もぼやけている。
 事故の後遺症か? トラック事故だから…… それでも体は自由に動かせるみたい……
 そう思って、タケルは自身の手足を見る。 だが・・・・・・ 
 なんだ? これは? 奇妙に短い手足。 
 もしかしてips細胞が実用化されて再生した手足なのではないか?

 (きっと、現代医学では治せないダメージを負った俺はコールドスリーピングされて、未来で治療されたのだ!)

 そんな非現実的な考えに逃げていたタケルだったが、ある事実に気づいた。
 目の前にいる赤髪の女性。 彼女は自分を軽々と持ち上げて移動し始めた。

 (いやいや、デカすぎない!?)

 いくら、なんでも大人の俺を持ち上げて————あれ?
 タケルの視界に入った物。それは鏡だった。
 そこに映った自身の姿は赤子のソレだったのだ。
 ようやくタケルは自身の身に起きた現象を把握した。

 (これ、もしかして…・・・異世界転生!)

 ここではない遠いどこかの異なる世界。
 剣と魔法の世界に新たなる英雄が産声をあげたのだった。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 タケルは11歳になっていた。
 異なる世界に生まれ変わったタケルの名前は、服部タケル。
 生前と同じ名前なのは必然なのか、偶然なのか? 
 しかし、中世ヨーロッパ風の世界なのに名字は日本風のため奇妙な感覚があった。

 「おい、タケル! 降りて来いよ。お母さんが呼んでいるぞ」

 父親の服部ローウェンの声がした。
 柿の木に登っていたタケルからも、父親の金髪が見えた。
 服部ローウェンは、赤髪だらけの里では珍しい金髪だ。 
 どうやら、養子らしい。 母親同様に整った顔立ちをしている。
 かつては優れた騎士だったそうだ。今でも腰には剣を刺している。
 どうも、この里には、他所から優れた人材を取り入れる風習があるみたいだ。

 「はい! 父上」

 とローウェンに返事をする。
 柿の枝に捕まり鉄棒のように大車輪。体を回転しながら飛び降りる。
 タケルは小さな声で

 「エア」

 と呟く。

 短詠唱で発動する魔法。簡易魔法と言われているソレは空気の壁を何層か作り出し、タケルの落下速度を減少させた。
 ローウェンはタケルの父親であると同時に剣と魔法の師匠でもあった。
 突然、落下してきた息子に驚いた様子はない。 
 タケルの頭を軽く撫で「稽古の時間だぞ。遅くなるとお母さんが怖いからな」とタケルを抱きかかえると―――

 「エア」

 タケルと同じ魔法を使った。しかし、その威力は別物だ。
 風を操る魔法は、2人の体は宙に浮かばせる。次に地面を蹴るような動作をすると高速で前進を開始した。
 まるでマウンテンバイクで山を下る競技のように山道を進み、あっという間に里まで到着した。

 「遅いでしょ!」

 里の入り口。
 母親の服部カオリが仁王立ちしていた。
 手を引っ張ってタケルを修練場に連れて行く。

 「行ってらっしゃい。怪我にだけは気を付けてな」

 残されたローウェンは手を振りながら、再び山に向かっていく。
 夕食の材料を求めて、狩りに行くみたいだ。

 ―――修練所―――

 床は板張りの道場のような場所。
 先に来ていた同世代の2人は、器械体操のように側転、バク転、バク宙と飛び跳ねている。
 タケルに気づいた2人は修練を止めて駆け寄ってきた。

 「遅かったじゃねぇか」

 そう言ったのはアキラだ。 
 タケルよりも2歳年上の13歳。服部一族の証として真っ赤な髪をしている。
 そして、彼の後ろについて妹のアイが「・・・・・・」と隠れている。
 彼女は修練場で見せるダイナミックな動きを見せている姿とは結びつかない内気な性格としていて、普段から兄の後ろに隠れるような少女だ。

 「こらっ!慣れ合わないの」

 カオリの怒声で3人はバラバラに離れた。

 (よし、やるか)

 タケルは目をつぶり、意識を集中させる。
 僅か、11歳の少年少女たちが常識離れした身体能力を見せれるのには秘密がある。
 この隠れ里に伝わる秘術の1つ・・・・・・

 軽気功

 魔法とは異なる技術形態。 
 気と言われる体内に流れる力をコントロールして身体能力を跳ね上げるのだ。

 タケルは垂直に2メートルほど飛び上がる。
 更に壁を蹴り、上へ。
 天井までたどり着くと体を反転させてると、張り付いた。

 (問題は、ここから)

 四つん這いの状態。 手は放出している気を遮断する。
 天井に留まるため足に流す気を増やした。
 そこからタケルは―———

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 叫び声を上げて走り出した。
 気の精密コントロールの連続。
 体内から、生命力が気と一緒に失われていく感覚がしていく。
 それでも維持し続ける。 修練場の端から端へ一気に————

 ガッ

 踏み込んだ足への気の注入が足りない。滑るように足が離れ、両足が天井から離れた。

 「にゃろ!」

 体の落下より早く、天井に手をつく。
 体勢を直して、再び駆け出した。
 修練場の端にたどり着き、地面へ着地した。

 「どうでした? 母上!」
 「危うい所もあったけど、まぁ軽気功初級編は合格をあげましょう」

 タケルは「よっしゃ!」と叫んだ。タケルだけではなく、アキラとアイも自分の事のように喜んでいた。
 その直後である。 カオリの表情が厳しい物に代わり、入り口をにらみ付ける。
 ドンドンと後れて、扉をたたく音がした。


   

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