天才軍師は俄か仕込の生兵法 

チョーカー

決断前 推測

 ―――軒下―――

 タケルは混乱していた。
 人類と魔族が戦い、人類が敗北した。……それはまだいい。理解できる。
 でも――――

 織田信長? 明智光秀? 戦国武将じゃん。
 征夷大将軍が織田信長ってなんだ? 
 鎌倉幕府や江戸幕府は、誰だって学校の授業で習う。でも、織田信長が幕府を開いたなんて聞いたこともない。 尾張幕府なんて教科書のどこ読んでも書いてないはずだ。
 てか、本能寺の変じゃなくて、合戦中に明智光秀が裏切って織田信長を殺す?
 なんだそりゃ?そんな歴史はないはずだ。
 いや、そもそも――――

 「なんで異世界にいるの?」

 タケルは少し考える。

 「うん、逆転の発想だ」

 織田信長と明智光秀が本物である場合。
 漫画で言えば『ドリフターズ』のパターン。
 死んだと思われていた織田信長と明智光秀がこの異世界に飛ばされたパターンだ。
 しかし、この説には欠点がある。
 この場合だと、本能寺で謀反を起こした明智光秀を織田信長が許した事になる。
 そんなことがあり得るだろうか?

 「――――いや、織田信長なら、あり得るな」

 例えば松永弾正久秀だ。
 彼は織田信長に対して3回の謀反を起こしている。
 3度目の謀反では降伏勧告を拒否して、最後は自害によってその生涯を終えている。
 逆に言えば――――

 組織のナンバー2だった明智光秀がたった1度、本能寺の変で命を奪おうとした程度の事で織田信長が許さないという事があるだろうか?

 案外、異世界で再開した2人が簡単に和解した可能性もある。

 歴史のミステリーとして

 『どうして明智光秀は本能寺の変を起こしたのか?』

 と言われる。だが、俺個人の考えでは

 『誰が、何故、謀反を起こしたのか?』

 と言うのは、重要ではなく

 『織田配下は比較的、誰でも簡単で気楽に謀反を起こしやすい雰囲気があったのではない?』

 そう考えてる。無論、あくまで個人的な意見だが……


 いや、話を戻そう。
 あるいは、フィクションでよく見る本能寺の変では、織田信長が、あるいは森蘭丸が本能寺を取り囲む軍勢の旗に書かれた家紋、桔梗紋によって明智光秀の謀反と理解するが……
 逆に言えば、それさえなければ夜襲で敵軍の正体を確かめる術が織田陣営にあっただろうか?
 もしかしたら、織田信長本人は本能寺の犯人を知らないパターン。

 ほかの可能性は……なんだろう?

 たまたま、偶然……あるいは必然。
 世界の因果関係で織田信長的な人物と明智光秀的な人物が生まれたパターン。
 ラノベでいうと『織田信奈の野望』よりも『境界線上のホライゾン』が、このパターンに当てはまるかな?

 俺と同じように転生者が織田信長や明智光秀を自称してるパターン。
 例えば、『戦国自衛隊』は、何度となく漫画化、実写化されている。
 その中には織田信長と敵対する話。米軍と戦国時代で敵対する話。
 様々なバリエーションがある。
 しかし、主人公が気づかないまま織田信長の役割を果たしているのが原作の流れだったはず。

 どれもあり得そうな話だが、決定力に欠けている。
 ……と言うか、この隠れ里は世界情勢に疎すぎる。 織田信長が最後に頼ってくる傭兵集団の隠れ里とは思えないほどだ。

 普通、人類と魔族の最終決戦的な出来事があれば、情報が伝わってくるだろうし……
 総大将の織田信長や摩下の明智光秀についての情報も……
 そう思うのはインターネッツに毒された現代人(?)の俺だからだろうか?

 「そう言えば、江戸時代の農民は徳川家康なんて聞いた事がない的な話もあるから、案外、この世界では普通なのかもしれないなぁ」

 タケルは独り言を止め、軒下から移動する。
 先ほど、父とキキの話ではタケル自身に大きな選択をしなければならないという話だ。
 ならば、両親は自分を探している頃だと判断したのだ。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「タケル、ここに座りなさい」

 予測通り、タケルは母親に呼ばれた。
 部屋の中心に母親。父親は部屋の隅に腰かけていた。
 この里で一番偉いのは母親である服部カオリだ。
 タケルは頭領と言っても11歳。名目上の立場に過ぎない。
 だが、タケルが座っても「……」とカオリは両目を閉じたまま沈黙を続けた。
 どのくらいの時間が経過しただろうか? 重い空気の中――――
 「これから重要な話があります」と切り出してきた。

 

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