君と僕と壊れた日常

天野カエル

期末テスト2日目 得たものは母の許しと寝不足でした

 テスト二日目。
 今日は化学と古典だ。
 化学は物理分野が中心らしく、公式がやたらと多い。 覚えることに必死で、半徹夜状態だ。

 「テストはどうなの? なんか眠たそうだけど」

 母の雪江が台所から声をかけてきた。

 「昨日のは壊滅的かな、今日のは夜に勉強したんだけど寝不足で全部飛んだから……壊滅的だよ」

 「そう……」

 雪江は呆れているようで、それ以上何も言わなかった。
 
 「まあしょうがないよね、美人2人に囲まれて学校行ってるお兄ちゃんは勉強どころじゃないもんね」

 「おい、その言い方は誤解を生むだろ」

 「え!? アラタくんにもついにアオハルが訪れたの?」

 「ほら……」

 性悪妹のせいで母さんが興味を持ってしまった。
 別に母さんの望んでいるような展開は起こってはいないし、新奈の言う美人の内1人は母さんも知っている空見華月だ。
 それが分かっていて言い出したのだとしたら新奈の性格は最悪だ。

 「で、その美人2人って誰なの?」

 「あ……」

 母さんが尋ねた瞬間、新奈がなにかに気づいたような声をあげた。
 そしてどこか気まずそうな顔で僕を見ている気がする。
 どうやら分かっていなかったらしい。
 新奈は性格が最悪なのではなく、天然ドジっ娘だったようだ。

 「はぁ……空見さんと和泉沙奈って子だよ」

 別に隠すような事ではないのではっきりと言った。
 幸いにも、今朝少し寝坊したおかげで家には父の耕一の姿はない。

 「そう……」

 今度のは呆れではなく、悲しさのような、嘆きのような、戸惑いのようなものだった。

 「この際だから言っておくけど、僕のことは僕が1番分かってる。 だから僕の好きにさせてほしい」

 僕は母さんに向かって言った。
 
 「……分かった。 でも、無理なことはしないでね、約束よ。 あの人は多分認めてくれないけどお母さんは見守っててあげる」

 「ありがとう」

 僕は母さんを説得することに成功した。
 父さんはアレだが、これでひと段落するだろう。
 そう思っていた時だった。

 ピーンポーン

 インターホンが鳴った。
 現在時刻は7時55分。
 いつもなら5分前に家を出ている。
 と言ってもまだ朝だ。
 こんな時間に訪ねてくる輩は一体どんなやつだろうか。

 「お兄ちゃん出れば?」

 「なんで」

 「多分沙奈だと思うんだけど」

 その根拠が知りたかった。
 僕と空見華月、そして和泉沙奈という異色の3人で登校することになっているが、わざわざ僕の家にくる必要はないと思う。
 
 「そんなわけないだろ」

 僕はそう言ったが、否定する根拠もないので可能性として考慮しつつ、玄関へ向かった。

 ガチャ

 「おはようございます! 遅刻しますよ!」

 開けた瞬間に響き渡る元気な声、そして目の前の和泉沙奈が放っている無邪気な笑顔。
 どうしてこんな朝っぱらからハイテンションなのだろうか。
 これが若さか……。
 一つ下の和泉沙奈の新奈を実感した。

 「ほんとだ、迎えに来て……」

 僕は新奈の推理を褒めようと振り返った。
 しかし、賞賛の言葉は途中で止まった。
 新奈が固まっていたからだ。
 見てはいけないものを見たような……違う、これは蛇睨みだ。 蛇に怯える小動物のようになっている。
 不思議に思い、僕は新奈の視線の先を見る。
 まあ、誰がいるかは分かりきってはいるが、一応確認だ。
 そこに居たのは案の定空見華月。
 向かいの家の塀にもたれ、新奈を睨んでいた。

 「おはよう。 わざわざ来たんだから早く準備してよね」

 「分かった、分かったから睨んでやるな」

 「はぁ。 あと5秒ね、ヨーイドン」

 「は!? マジかよ……」

 僕は空見華月に急かされ、急いで身支度を整えて玄関に戻った。

 「5分オーバー、それになんで登校前から汗だくなの?」

 こいつは鬼だ。 人の皮を被った鬼である。

 「……ムカつく。 まあいいや、行ってきます」
 
 僕は家の中にいる母さんにそう告げ、家を出た。 新奈はというと硬直が解けたようで、家に迎えに来てくれる海斗を待つらしい。
 
 「行ってらっしゃい」

 母さんは僕にそう返した。
 多分、さっきまでのやり取りは筒抜けだったのだろう。
 空見華月と僕が話しているときに母さんがどう思ったのかはわからない。
 ただ、今は見守っていてくれると信じて進んでいこうと思う。



 

 登校中は僕が寝坊した件について説教を喰らっていた。
 きついことも言われた気がしたが、眠たくてあまり覚えていない。
 そしてなんと言ってもパンナコッタである。
 なんだかんだで、月火水と、約束のパンナコッタを忘れていた。
 昼になる頃には棚にあまり置かれていないとかで、登校途中にコンビニに立ち寄って4日分の約束のパンナコッタを買った。
 店員の目が変な人を見るような目だったので、寝不足の僕にさらなる不快感が与えられた。
 そんなこんなで学校に着くと、時刻は8時20分。
 いつもよりだいぶ遅い時間に、少し焦りつつ教室へと向かった。

 「間に合った……」

 「おはよう2人とも。 今日は遅かったね」

 教室に着くなり、海斗が声をかけてきた。
 僕達より後ろにいるはずだったのにいつの間にか抜かれていた。

 「まあね、ちょっとドタバタしてて……」

 キーンコーンカーンコーン

 予鈴がなった。

 「ごめん、戻るね」 

 チャイムが鳴るなり海斗は自分の席へとついた。
 なんと忙しい1日だろうか。

 



 朝のホームルームが終わり、一時限目前の休み時間に突入した。
 トイレを済ませるもの、教科書を読むもの、はたまた僕みたいに机に突っ伏すもの。
 もう既に諦めモードである。

 「はあぁぁ……」

 深いため息をついて突っ伏している。
 
 キーンコーンカーンコーン

 そして運命の時が来た。
 一時限目は化学。
 公式がとてもめんどくさい。
 そひて、僕は問題用紙を見て悟った。
 無理だ、と。


 そして結局半分の空欄を残したまんま提出した。
 欠点はほぼ確実である。
 ブルーな気持ちになっていると休み時間が終了した。
 2時限目は古典。
 これも正直むりである。
 僕は化学同様に、半分はなんとか記入したが、これも多分欠点だ。
 今回のテストは終わりだ。
 あと明日と来週月火にあるが、ここからの巻き返しはないだろう。

 「はぁ、帰ろ」

 放課後を迎えた僕は1人帰ろうとしていた。
 後ろを空見華月と和泉沙奈がついて来ている。
 
 「ちょっと、何先帰ってるのよ」

 「そうですよ、まだ朝のことと昨日の放課後のこと話し終わってませんよ」

 「いや、昨日のはもういいんじゃない?」

 どうしても昨日の放課後のことを話したい和泉沙奈。
 多分書き置きのことだろう。
 あれは空見華月の無慈悲さ故のものだ。 僕は悪くない。
 話しながら帰るのは楽しそうだが、寝不足のせいかとても疲れた僕はすぐにでも家に帰りたかった。

 「すまん、今日は先帰る。 また明日」
 
 「え? あ、はい……わかりました」

 和泉沙奈はどこか元気がなくなった。
 それほどまでに一緒に帰りたかったのだろう。
 しかし、とてつもなく疲れた僕ではまともに話し相手もできない。
 僕は2人を背に、1人帰っていった。
 


 帰宅した僕は、昼ごはんも食べずに布団の中で横になっていた。
 異様にしんどい。
 悪化しないうちに寝よう、そう思い僕は寝た。


 そして、まさか僕が明日のテストが受けれなくなるとは誰も思っていなかったのだった。

 

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