君と僕と壊れた日常

天野カエル

期末テスト1日目 僕と彼女の7年前

 今日は水曜日。
 そう、期末テストの開始日だ。
 と言っても、僕は全く勉強していない。 いや、できていないと言った方が正しいだろうか。
 ここ最近とてもバタバタしていて勉強どころではなかった。

 「アラタ先輩、なんか顔色悪いですよ」

 そう言ったのは和泉沙奈だ。
 彼女とは、先週末に新奈の紹介に7年ぶりに再会した。
 僕が7年前の記憶が曖昧で、和泉沙奈の記憶があまり無いのが難点だが、今のところ上手くやっていけてると思う。 
 上手くやれているとしてもだ、僕は何故今彼女と一緒に登校しているのだろうか。
 
 「2分遅刻。 あなた達は時間も守れないの?」

 そして目の前には空見華月である。
 空見華月とは例の公園付近で待ち合わせをしていた。
 一体この組み合わせはなんだろう。
 その理由は一昨日の月曜日にある。
 
 過去を明らかにしようの会。 新奈たちには屈しないぞっていう集まりです。

 和泉沙奈の言葉だ。
 下校時に突然言い出し、僕達は半強制的に会員となったのであった。
 そして昨日から朝夕を共にし、結束を固めているというわけだ。

 「華月先輩おはようございます! ちょっと見てほしいんですけど、今日のアラタ先輩顔色悪くないですか?」

 和泉沙奈は空見華月の注意を完全にスルーし、話題を振った。 肝が据わっているのか、はたまたただのアホなのか僕には分からない。

 「そうかしら、私にはいつも通りのパッとしないのほほんとした顔にしか見えないけど」

 なんともリアクションしづらい感想である。
 もちろん褒められてはいないが、空見華月にしては大して貶してもいない。 
 なので僕は、現状を報告した。

 「朝はいつもこんな感じだし、それに今日はテストでしょ? そりゃ陰鬱にもなるよ」

 「そうですね。 私も頑張るので先輩もファイトですよ」

 「そうね、さっさと終わらしてパンナコッタをちゃんと勝ってもらわないとね」

 僕以外の2人はテストに対するやる気を見せた。 
 空見華月のやる気はテストへのやる気というよりパンナコッタを買わなければ殺るぞという気持ちな気がしてならない。
 と言うのも一昨日、昨日と、約束のパンナコッタをすっかり忘れていたのである。
 隣からとてつもないプレッシャーを感じる。

 「私と沙奈ちゃんはやる気満々のようだけど、あなたはどうしたの?」

 どうやらテストへのやる気だったようだ。
 殺る気じゃなくて何よりだ。

 「それが……勉強してないんだよ」

 「あなたバカじゃないの? 2年生が中だるみの時期とはよく言ったものよね」
 
 空見華月はもちろん、和泉沙奈までもが変な者でも見ているような目を向けてくる。

 「な、なんだよ、しょうがないだろ? 最近バタバタしてたし」

 必死に弁明をするも、聞き入れてくれてない気がする。

 「バタバタしていたけれど、時間は会ったわ。 現に私ができていたし」

 そう、空見華月ができたのであれば僕にもテスト勉強はできていたはずなのだ。
 最近のバタバタには全て空見華月が関わっている。 同じ問題に直面した僕達だが、違うとしたら時間の使い方だったのだろう。

 「なんもいえねぇ」

 「その言葉は何かを成し遂げたときに使ってほしいわ」

 僕と空見華月はここ最近、こんな感じだ。
 互いに打ち解けることができたということだろうか。 
 そして、和泉沙奈はその光景を微笑ましそうに見ていた。


 
 ざわざわざわざわ

 学校に着くなり周りがざわついた。
 昨日もそうだった。
 理由は分かっている。
 僕の横をついて来ているこの2人だ。
 空見華月と和泉沙奈は2人とも美人だ。 ジャンルはとても違うが、2人とも2度見するレベルだと思う。
 その2人が仲良く登校しているのだ。 嫌でも目を引くだろう。
 因みに理由はもうひとつある。 そう、僕だ。
 その美人2人を侍らせているのだ。
 嫌でも目に付く。

 「やっぱり揃って登校はやめないか?」

 「そうね、あなたと意見が被るなんてのはすごく嫌だけど、落ち着かないわね」

 一言多い。
 そこは普通に同意見だ、でいいだろう。

 「明日には慣れますよ、保証します」

 自信たっぷりにそう言う和泉沙奈。
 一体その自信はどこから湧いてくるのだろうか。

 「それに多分、そろそろみんなの注目が別のものに移りますよ」

 「え?」

 ざわざわざわざわざわざわ

 途端に、先程よりもすごいざわめきが起こった。
 周りの生徒は一点を見つめていた。 女子生徒が多い。
 何故か険しい顔をしている者もいる。
 僕は皆の視線の先を探し見た。

 「そういうことか」

 そこに居たのは海斗と新奈だった。
 気になるカップルランキングとかあったら余裕で殿堂入りしそうなカップルだ。 ざわめいても仕方ない。

 「今のうちに行きましょう」

 空見華月のその言葉を聞き、僕は生徒玄関へと向かった。

 「へ? あ、ちょっと! む〜、また放課後に!」

 うちの学校は学年で靴箱が分かれている。
 和泉沙奈は僕達を追ってこようとしたが、あきらめたみたいだ。

 「帰りもか……」

 そう言ったものの、僕はどこか楽しみに思うのであった。




 一時限目、数学。
 公式は覚えていたので解けはしたが、流石にノー勉だと応用が効かない。
 高い配点の問題を空欄のまま残し、終了した。


 2時限目、英語。
 これに関しては全く分からない。
 欠点も視野に入れた方がいいだろう。
 途中から試合放棄してぐっすりと寝ていた。


 そして放課後。

 「どうだった?」

 空見華月が僕に話しかけてきた。
 向こうからというのは結構珍しい。

 「壊滅的ですね。 そっちは?」

 「ぼちぼちかな」

 そこで話は終わった。
 あとは和泉沙奈を待つだけである。

 「…………」

 「…………」

 遅い。
 
 「…………」

 「…………」

 遅い。
 流石に遅い。
 僕は試験の日程表を取り出した。

 「……1年生は3限まであるみたいだ」

 「……帰りましょう」

 空見華月は無慈悲だった。
 沙奈ちゃん、と呼ぶほどの仲だと思っていたのだがそうでもないのだろうか。
 帰ろうとしている空見華月を横目に、僕は書き置きを自分の机の上に残し、教室をあとにした。
 そして、成り行きでだが、空見華月と2人で下校することになった。

 「なんか、なにかと2人のこと多いよね」

 僕はふと思ったことを呟いた。

 「なによ気持ち悪い」

 空見華月はそう言う。

 「いや、最近多いじゃん。 CDの時とか、大会とか。 これなんて言うの? 腐れ縁?」

 「違うけど、言いたいことは分かるわ。 そうね、昔から……」

 「昔?」

 昔は会ったことないはずだ。
 どういうことだろう。

 「あ、やっちゃった。。まあいいわ、また今度言うつもりだったし」

 本当にそのつもりだったのだろう。
 やっちゃったという割に焦りがなかった。

 「前に初対面だって言ったでしょ? あれは間違いよ。 まあ、空見華月としては初対面だけど」

 「え? どういうこと?」

 空見華月としては、ということは誰かとすり変わっていたとかそういうことだろうか。

 「私ね、お姉ちゃんが病気にかかった時に代わりにあなたの相手をしていたことがあるの。 1週間くらいだったと思うけど」

 「初耳だ……」

 「でしょうね。 初めて言ったもの」

 正直とても驚いた。
 ずっと初対面だと思っていたせいだろう。
 その話を詳しく聞こうと思った。
 が、しかし叶わなかった。

 「この話はまた時間があって沙奈ちゃんがいる時にするわ。 じゃあまた」

 気づけば空見華月の家の近くまで来ていた。
 空見華月はそう言うと、道を曲がって行った。
 今日のテストはてんでダメだったが、思わぬ収穫があった。
 僕の記憶が戻るのも時間の問題だろう。
 僕は近い将来のことと和泉沙奈が無事に書き置きを見つけて帰ることを願い、歩きだした。

 
 

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