君と僕と壊れた日常
夢 夢 恋
「うーーん……」
登校を終えた僕は、机に突っ伏して唸っていた。
唸っているからだろうか、周りからの視線が熱い。
周りなんて今はどうでもいいのだ。今問題にしているのは僕が昨晩の見た夢である。
初めこそ、その夢は昨晩の新奈の話のせいで見た追体験かと思っていた。しかし、それではおかしいのである。
新奈の話には大型トラックと少女の事故なんて物騒なものはなかった。それに、その直後に僕を襲ったあの感覚。それはとてもリアルで、実際のことのような気がしてならなかった。まあ、僕にそんな記憶は全くないので多分実際のことではない。いや、そう信じたい。
「唸るな、うるさい」
そう言われ、僕は顔を上げて声のするほうを見た。
「あーなんだ、空見さんか」
そこに居たのは空見華月。
彼女はとても不快そうな顔をしていた。
「なんだって何よ。失礼ね」
「失礼なのは空見さんの方だ。朝から挨拶もなしにうるさいとかよく言え……あっ」
言っている途中で気づいた。
空見華月は転校初日、僕との会話で開口一番に嫌いだの許さないだの言ったのである。今更注意しても無駄である。
それに加え、今回のことに関して言えば唸っていた僕に非がある。
「なによ」
空見華月は不機嫌そうに言ってくる。
それに、圧がすごい。少し前の僕なら敬語で話しながら頭をペコペコ下げていたであろう。初日こそ敬語を使ったが、もう慣れた。
「いや、なんでもない」
「そう、ならいいわ」
僕は引っかかっていた。
度々夢に出てくる黒髪の少女。今までそれが誰かなんてさほど気にしていなかったのだが、昨晩の夢のせいで嫌でも気にしてしまう。
昨晩見た夢は最後こそ残酷な、とても悲劇的なものだったが、それまではずっと少女と楽しく遊んでいる夢だった。謎の少女と、夢の中の僕はとても親しげな様子で遊んでいた。その一時はとても楽しく感じられた。そう、実際のことかのように。
何度も言うが、それは事実ではないと思う。その少女は幼いが、とても整った顔立ちをしている。黒髪もとても似合っている。美少女だ。そんな人と親しかったら忘れるなんてことはまずないだろう。
夢の中の少女が成長したらどんな感じだろうか。
ふとそんな疑問が頭をよぎった。
黒髪でとても綺麗な容姿……
「あっ!」
「今度はなによ……」
空見華月が不機嫌そうに聞いてきた。
僕はそこでふと我に返る。
さっき僕は何を言おうとしたのだろう。空見華月が夢に出てきた謎の少女なわけない。なぜなら彼女は転校初日に初対面だと僕に言ったのである。可能性は限りなくゼロに近い。いや、もうゼロでいいだろう。
「ごめん、なんでもない」
「そう」
なんでもないと言ったものの、僕はまだ引っかかっている。可能性としてはゼロだ。しかし、よくよく考えると、謎の少女と空見華月は結構似ている。例えると、マユ○ドとカ○サリスくらい。
しかし、この例えだと進化前は同じ芋虫だから同一人物とも捉えることが出来るし、進化後は全く違う見た目をしているから別人だとも捉えることができる。余計わからなくなったが、わかる人には分かるだろう。
考えれば考えるほど謎は深まるばかりである。
そう思っていたとき、教室の入口から海斗が入ってくるのが見えた。
「あっ!」
「…………」
呆れているのか、単に無視しているだけなのか、空見華月は反応しなかった。
別に空見華月の反応が見たいから声を発したわけではない。海斗が来たから発したのだ。
いつもより少し教室に入ってくるのが遅い海斗。僕は新奈と何かあったのではと余計な詮索をしてしまう。
海斗を見た途端に、夢のことなど忘れて二人の恋物語に考えは切り替わっていた。話し合い云々のことを聞くために立ち上がったときだった。
キーンコーンカーンコーン
「HR始めるぞー」
朝のHR開始のチャイムとともにクラスの担任のりっちゃんが入ってきた。
僕は仕方なく席についた。
HRが終わり、一時限目の授業の準備時間に入った。僕は海斗を探したが、見つけた時には教室から出ようとしていた。トイレにでも行くのだろうか。僕にも次の授業の準備などがあるため、あまり時間が無い。
僕は諦め、準備を始めた。
一時限目は国語だった。
担当のりっちゃんは始まるなり、僕達生徒にとって一番大切なことを言い出した。
「さっき言い忘れてたけど、今日はテスト発表だから。それに伴って、部活動は大会控えてる部活を除いた全ての部活が時間短縮か休みだ。きちんとテストに向けて勉強するように」
テスト。それは進学、進路に大きく関係するものであり、日々の授業の集大成を発揮する場。一部の者からはゲームの日と呼ばれている。
部活動に所属していない僕は普段から好きなことを思う存分やっている。なのでテスト週間になると人並みには勉強をする。
人並みにしかしないので大体いつも全体の真ん中くらいだ。その結果が出る度に次こそはと燃えるのだが、次のテスト週間になるとその火も消えている。
「はい、じゃあ授業進めるぞ」
一時限目が終わった。
全く集中できなかった。
夢のこと、新奈と海斗のことが頭の中にずっとあって授業に集中できなかった。
「授業の最初にテストの事言われたのにすぐに集中切れてたわね。大丈夫なの?  そんなんじゃテストまともに解けないわよ」
空見華月が僕を心配してきた。熱でもあるのではないだろうか。
「私ね、隣に集中してない奴がいたら気になって仕方ないの。私の邪魔しないで」
心配してくれたわけではないらしい。
僕としても、空見華月の体調不良の心配がなくなり安心した。
「あっ!」
「ほんとにあなた何なのよ……」
空見華月と話してしまったために、海斗に聞きに行く時間がなくなってしまった。
次の授業も集中できないことが確定した瞬間だった。
その後、昼休みまで海斗のところには行けないでいた。もちろん、授業も集中できていない。
昼休み、僕は教室を出ようとした海斗を捕まえて聞いた。
「おい、海斗。あれから新奈と話せたか?」
僕は率直に問いかけた。
「まだきちんとは話せてないね。でもね、新奈ちゃんとは登下校とかできちんと話す約束はしたから、報告待ってて」
海斗は昨日、僕に謝ったときとは打って変わって、元気に、そしてとても自信に満ちた声でそう言った。
海斗の意思は固まっているようだ。
「そうか、分かった」
僕はそれを聞くと少し満足し、自分の席へと戻っていった。
昼休みにひとつ肩の荷がおりたのだが、やはり集中できない。
そんなこんなで午後の授業が終わった。
「ねえ、ほんとにあなたなんなの?  私言ったよね、邪魔するなって」
空見華月はとても怒っていた。
眉間に少しシワがよっている。
「ごめんなさい」
「はぁ……あなたは一回警察官の邪魔することをオススメするわ。罪の重さが分かる」
謝っても許してはくれない。世界はそれほど優しくなかった。
「ほんとすまん。明日からは善処する」
「明日があなたの命日にならないといいわね」
サラッと物騒なことを言われた気がする。
「というか、何考えてたの?」
空見華月は聞いてきた。
夢のことです。これだけだと空見華月に殺されかねないので詳細を説明する。
「最近よく見る夢のことなんだけど……」
「……そう、そんな夢を見るのね」
空見華月は少し暗い声音でそう言った。
「昨日のは最後に女の子がトラックに引かれて終わったんだけど、昔ほんとにあったみたいな気がしてたんだよ。まあ、勘違いだろうけど」
「……………」
空見華月はついには黙ってしまった。
「どした?大じょ……」
「何はともあれ、明日からはちゃんとしてよね!じゃあ」
空見華月はそう言うと帰っていった。なんなのだろうか。急な用事でも思い出したのだろうか。
「あっ!」
僕は空見華月の背中が見えなくなったあたりで気づいた。
(そういえばこの前の休日に夢で声出てきた!)
思い出した。それではっきりした。
空見華月は夢の少女では無い。声が全く違ったのだ。
空見華月の声は凛とした声なのに対し、あの時の夢では明るくてとても無邪気そうな感じの声だった。
全ては解決しなかったが、真相に一歩近づいた気がする。
「ただいま〜」
新奈が部活から帰ってきた。
週末に大会を控えてるので、テスト週間となった今も、帰宅時間が前と変わっていない。
「おかえり」
僕は新奈の方へ向かった。
果たして海斗と話し合い、結論は出たのだろうか。
「海斗と、話せたか?」
「話したよ。でも、まだダメかな……ちゃんと形になってから海斗くんと報告するよ!」
一応、話は出来たみたいで安心した。
新奈も自信に満ちた声で返してくれたので、僕は満足している。
「おう、待ってるからな」
こうして僕の一日は終わった。
登校を終えた僕は、机に突っ伏して唸っていた。
唸っているからだろうか、周りからの視線が熱い。
周りなんて今はどうでもいいのだ。今問題にしているのは僕が昨晩の見た夢である。
初めこそ、その夢は昨晩の新奈の話のせいで見た追体験かと思っていた。しかし、それではおかしいのである。
新奈の話には大型トラックと少女の事故なんて物騒なものはなかった。それに、その直後に僕を襲ったあの感覚。それはとてもリアルで、実際のことのような気がしてならなかった。まあ、僕にそんな記憶は全くないので多分実際のことではない。いや、そう信じたい。
「唸るな、うるさい」
そう言われ、僕は顔を上げて声のするほうを見た。
「あーなんだ、空見さんか」
そこに居たのは空見華月。
彼女はとても不快そうな顔をしていた。
「なんだって何よ。失礼ね」
「失礼なのは空見さんの方だ。朝から挨拶もなしにうるさいとかよく言え……あっ」
言っている途中で気づいた。
空見華月は転校初日、僕との会話で開口一番に嫌いだの許さないだの言ったのである。今更注意しても無駄である。
それに加え、今回のことに関して言えば唸っていた僕に非がある。
「なによ」
空見華月は不機嫌そうに言ってくる。
それに、圧がすごい。少し前の僕なら敬語で話しながら頭をペコペコ下げていたであろう。初日こそ敬語を使ったが、もう慣れた。
「いや、なんでもない」
「そう、ならいいわ」
僕は引っかかっていた。
度々夢に出てくる黒髪の少女。今までそれが誰かなんてさほど気にしていなかったのだが、昨晩の夢のせいで嫌でも気にしてしまう。
昨晩見た夢は最後こそ残酷な、とても悲劇的なものだったが、それまではずっと少女と楽しく遊んでいる夢だった。謎の少女と、夢の中の僕はとても親しげな様子で遊んでいた。その一時はとても楽しく感じられた。そう、実際のことかのように。
何度も言うが、それは事実ではないと思う。その少女は幼いが、とても整った顔立ちをしている。黒髪もとても似合っている。美少女だ。そんな人と親しかったら忘れるなんてことはまずないだろう。
夢の中の少女が成長したらどんな感じだろうか。
ふとそんな疑問が頭をよぎった。
黒髪でとても綺麗な容姿……
「あっ!」
「今度はなによ……」
空見華月が不機嫌そうに聞いてきた。
僕はそこでふと我に返る。
さっき僕は何を言おうとしたのだろう。空見華月が夢に出てきた謎の少女なわけない。なぜなら彼女は転校初日に初対面だと僕に言ったのである。可能性は限りなくゼロに近い。いや、もうゼロでいいだろう。
「ごめん、なんでもない」
「そう」
なんでもないと言ったものの、僕はまだ引っかかっている。可能性としてはゼロだ。しかし、よくよく考えると、謎の少女と空見華月は結構似ている。例えると、マユ○ドとカ○サリスくらい。
しかし、この例えだと進化前は同じ芋虫だから同一人物とも捉えることが出来るし、進化後は全く違う見た目をしているから別人だとも捉えることができる。余計わからなくなったが、わかる人には分かるだろう。
考えれば考えるほど謎は深まるばかりである。
そう思っていたとき、教室の入口から海斗が入ってくるのが見えた。
「あっ!」
「…………」
呆れているのか、単に無視しているだけなのか、空見華月は反応しなかった。
別に空見華月の反応が見たいから声を発したわけではない。海斗が来たから発したのだ。
いつもより少し教室に入ってくるのが遅い海斗。僕は新奈と何かあったのではと余計な詮索をしてしまう。
海斗を見た途端に、夢のことなど忘れて二人の恋物語に考えは切り替わっていた。話し合い云々のことを聞くために立ち上がったときだった。
キーンコーンカーンコーン
「HR始めるぞー」
朝のHR開始のチャイムとともにクラスの担任のりっちゃんが入ってきた。
僕は仕方なく席についた。
HRが終わり、一時限目の授業の準備時間に入った。僕は海斗を探したが、見つけた時には教室から出ようとしていた。トイレにでも行くのだろうか。僕にも次の授業の準備などがあるため、あまり時間が無い。
僕は諦め、準備を始めた。
一時限目は国語だった。
担当のりっちゃんは始まるなり、僕達生徒にとって一番大切なことを言い出した。
「さっき言い忘れてたけど、今日はテスト発表だから。それに伴って、部活動は大会控えてる部活を除いた全ての部活が時間短縮か休みだ。きちんとテストに向けて勉強するように」
テスト。それは進学、進路に大きく関係するものであり、日々の授業の集大成を発揮する場。一部の者からはゲームの日と呼ばれている。
部活動に所属していない僕は普段から好きなことを思う存分やっている。なのでテスト週間になると人並みには勉強をする。
人並みにしかしないので大体いつも全体の真ん中くらいだ。その結果が出る度に次こそはと燃えるのだが、次のテスト週間になるとその火も消えている。
「はい、じゃあ授業進めるぞ」
一時限目が終わった。
全く集中できなかった。
夢のこと、新奈と海斗のことが頭の中にずっとあって授業に集中できなかった。
「授業の最初にテストの事言われたのにすぐに集中切れてたわね。大丈夫なの?  そんなんじゃテストまともに解けないわよ」
空見華月が僕を心配してきた。熱でもあるのではないだろうか。
「私ね、隣に集中してない奴がいたら気になって仕方ないの。私の邪魔しないで」
心配してくれたわけではないらしい。
僕としても、空見華月の体調不良の心配がなくなり安心した。
「あっ!」
「ほんとにあなた何なのよ……」
空見華月と話してしまったために、海斗に聞きに行く時間がなくなってしまった。
次の授業も集中できないことが確定した瞬間だった。
その後、昼休みまで海斗のところには行けないでいた。もちろん、授業も集中できていない。
昼休み、僕は教室を出ようとした海斗を捕まえて聞いた。
「おい、海斗。あれから新奈と話せたか?」
僕は率直に問いかけた。
「まだきちんとは話せてないね。でもね、新奈ちゃんとは登下校とかできちんと話す約束はしたから、報告待ってて」
海斗は昨日、僕に謝ったときとは打って変わって、元気に、そしてとても自信に満ちた声でそう言った。
海斗の意思は固まっているようだ。
「そうか、分かった」
僕はそれを聞くと少し満足し、自分の席へと戻っていった。
昼休みにひとつ肩の荷がおりたのだが、やはり集中できない。
そんなこんなで午後の授業が終わった。
「ねえ、ほんとにあなたなんなの?  私言ったよね、邪魔するなって」
空見華月はとても怒っていた。
眉間に少しシワがよっている。
「ごめんなさい」
「はぁ……あなたは一回警察官の邪魔することをオススメするわ。罪の重さが分かる」
謝っても許してはくれない。世界はそれほど優しくなかった。
「ほんとすまん。明日からは善処する」
「明日があなたの命日にならないといいわね」
サラッと物騒なことを言われた気がする。
「というか、何考えてたの?」
空見華月は聞いてきた。
夢のことです。これだけだと空見華月に殺されかねないので詳細を説明する。
「最近よく見る夢のことなんだけど……」
「……そう、そんな夢を見るのね」
空見華月は少し暗い声音でそう言った。
「昨日のは最後に女の子がトラックに引かれて終わったんだけど、昔ほんとにあったみたいな気がしてたんだよ。まあ、勘違いだろうけど」
「……………」
空見華月はついには黙ってしまった。
「どした?大じょ……」
「何はともあれ、明日からはちゃんとしてよね!じゃあ」
空見華月はそう言うと帰っていった。なんなのだろうか。急な用事でも思い出したのだろうか。
「あっ!」
僕は空見華月の背中が見えなくなったあたりで気づいた。
(そういえばこの前の休日に夢で声出てきた!)
思い出した。それではっきりした。
空見華月は夢の少女では無い。声が全く違ったのだ。
空見華月の声は凛とした声なのに対し、あの時の夢では明るくてとても無邪気そうな感じの声だった。
全ては解決しなかったが、真相に一歩近づいた気がする。
「ただいま〜」
新奈が部活から帰ってきた。
週末に大会を控えてるので、テスト週間となった今も、帰宅時間が前と変わっていない。
「おかえり」
僕は新奈の方へ向かった。
果たして海斗と話し合い、結論は出たのだろうか。
「海斗と、話せたか?」
「話したよ。でも、まだダメかな……ちゃんと形になってから海斗くんと報告するよ!」
一応、話は出来たみたいで安心した。
新奈も自信に満ちた声で返してくれたので、僕は満足している。
「おう、待ってるからな」
こうして僕の一日は終わった。
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