君と僕と壊れた日常

天野カエル

二人の再出発(はじまり)

 「あの日ね…」
 
 私はお兄ちゃんにあの日のことを話し始めた。



 あの日は雨が降っていた。
 私と海斗くんは用事で遅れると言っていたお兄ちゃんを待つために駅に来ていた。
 
 「遅いね……」

 私はそう言った。現時点で待ち時間は30分を超えている。

 「そうだね…こんなことならどんな用事か聞いておくべきだったよ」

 先程から私と海斗くんはお兄ちゃんに電話、メールなど様々な手段で連絡を入れている。しかし電話をかけると、電源が入ってない云々のアナウンスが来るだけでお兄ちゃんの声は聞こえてこない。この様子ならメールなども見ていないだろう。
 私は苛立っていった。メールで打つ言葉もどんどん汚くなっていった。
 そこから15分ほど経った頃だろうか、海斗くんのスマートフォンに着信があった。

 「あ、アラタからだ」

 お兄ちゃんはやっと気づいたみたいだ。遅すぎる。

 「誰ですか? 番号間違えてませんか?  ……ハハ、冗談だよ」

 何を話しているのだろうか。海斗くんのスマホからはお兄ちゃんの声が聞こえてくるが何を言っているか聞き取れない。

 『厄介ってなによ』

 突如、女性の声が聞こえてきた。

 「誰かいるの?」

 どうやらその声は電話先のお兄ちゃんのところにいるらしい。お兄ちゃんの用事とはなんなのだろうか。

 「ちょっ………切られちゃった」

  お兄ちゃんが電話を切ったらしい。何かあったのだろうか。

 「どうしたの?」

 「うーーん、アラタが来れなくなったってことしか分からない。なんか用事が厄介になったとか言ってたね」

 お兄ちゃんは来れなくなったみたいだ。それにしてもお兄ちゃんの用事とは本当になんなのだろうか。まあ、そんな些細なことはお兄ちゃんが家に帰ってから説教する予定なのでその時にでも聞こうと思う。約45分もの時間を無駄にしたことの罪は重い。

 「新奈ちゃん、これからどうする?」

 海斗くんが申し訳なさそうに聞いてきた。
 海斗くんは悪くない。全てお兄ちゃんのせいである。

 「せっかくだしこのまま二人で遊ぼうよ」

 予定より一人少ないが、これはこれでいいのではないのだろうか。
 
 「うん、そうだね。二人か…映画とかはどう?」

 当初の予定ではカラオケだったのだが、二人でカラオケとなるとちょっときついかもしれない。次の日も普通に学校だし。
 どうやら海斗くんはそこの辺りも考慮してくれたらしい。さすがである。

 「いいよ!ちょうど見たい映画あったんだ〜」

 こうして私と海斗くんは駅近くの映画館へとむかった。


 

 映画館に着いた私たちは目当ての映画の当日券を買っていた。その映画は最近出たばかりの恋愛アニメーション映画だ。
 海斗くんもその映画に興味があったらしく、何を見るか迷うことなく決まった。

 「楽しみだね!あ、海斗くんポップコーンとか買う?」

 「買おうかな、あ、でも、開演時間まであとちょっとだからそれよりトイレに行こうかな。あ、食べ過ぎには気をつけてね」

 海斗くんは優しくそう言った。言っていることがお母さんみたいだ。

 「海斗くんも楽しそうだね」

 「そりゃそうだよ、昔みたいに新奈ちゃんと遊べてるんだから。いつも部活で一緒だけど部活とはやっぱり違うよね。まあ、アラタがいなくてちょっと寂しいけど」

 すごく嬉しかった。海斗くんは私と遊べることが楽しいと言ってくれたのだ。
 私は今、とても顔が赤いに違いない。多分、最後に余計なお兄ちゃんのことを言ってなければ卒倒していただろう。

 「あ!  ほ、ほら始まるよ行こう行こう!」

 動揺のあまりテンパってしまった。

 「え、何も買わなくていいの?  あと、トイレとか大丈夫?」

 海斗くんは落ち着いているらしく、私のことを心配してくれた。

 「うう〜、忘れてた」

 そんなこんなで私たちは映画を見た。




 私たちは映画を見終わり、映画館近くのファストフード店に寄っていた。

 「映画、感動したよね〜」

 先程見た映画は、高校生の男女が繰り広げる恋愛物語だった。
 画はとても綺麗で、曲や声優さんもとてもマッチしておりラストは涙が出てきた。

 「そうだね、ラストはちょっと泣いちゃったよ」

 どうやら海斗くんもラストで泣いてしまったらしい。

 「私も!  あのハッピーエンドはすごく良かった!」

 「あんな恋愛、してみたいなぁ」

 海斗くんがそんなことを呟いた。海斗くんは超ハイスペックだ。出会いはいくらでもあるだろう。そんな海斗くんは今、恋をしてるのだろうか。
 私は勢いで聞いてみた。

 「ねえ海斗くん、海斗くんって今、恋…とかしてる?」

 聞いてしまった。勢いに任せたのは良かったが、返答次第では私がダメージを負うかもしれない。考えるべきだった。
 私は少し後悔した。

 「恋か…うん、してるよ」

 「そう、なんだ…」

 海斗くんは恋をしているらしい。高校生なのだ、普通だろう。
 しかし私は少し怖かった。海斗くんが少し遠くにいるような感覚がしたのだ。
 そんな私に、海斗くんは続ける。

 「その相手はね、いつも明るくて少しお転婆なんだ。でもね、彼女を見るととても心が安らぐんだよ。いつも助けてもらってるね」

 私は言葉が出なかった。そんな子が海斗くんの側にはいるのだ。私は到底太刀打ち出来ないだろう。そのことがとてもショックだった。
 そんな私に、海斗くんはまだ続けた。

 「それでね、最近思ってたんだ。気持ちを伝えたいなって」

 「………」

 涙が出そうだった。それほどまでに私は海斗くんを好きだったのだろう。
 ここまで来たらもうどうにでもなれだ。
 私はそう思い、どんなことを話されようとも泣かない決心をした。

 「だから、今から言おうと思う」

 「え?」

 「ずっと前から好きでした。新奈ちゃん、僕と付き合ってください」

 私は言葉が出なかった。しかし前とは違う。今度のは驚き、そして嬉しさのせいだ。
 それでも私は頑張って言葉を発した。

 「わ、私…なの…?」

 手が震えている。これは現実なのだろうか。

 「ごめんね、本当はもっと雰囲気が出たときに素敵な場所で言いたかったんだけど。新奈ちゃん、好きだよ」

 「海斗くん…わ、私も…」

 私は嬉しさのあまり涙を流してしまった。映画館での感動の涙でも、さっき出そうだった悲しみの涙でもない。嬉し涙だ。
そんな私に海斗くんは微笑みながら言った。そんなの反則である。
 私は泣きながら続けた。

 「私も、私もずっと好きだった!」

 平日で良かった。まだ16時少し過ぎ、店内に客はあまりいなかった。
 つい、声が大きくなってしまった。客がいたら一斉にこっちを見てたかもしれない。しかし、客がいなかったせいで少し響いてしまった。
 私は響いた自分の声で我に返る。

 「ご、ごめんなさい、おっきい声出しちゃった」

 私は涙で濡れた顔を赤くして言った。

 「大丈夫だよ。急に告白したこっちが悪いんだし」

 海斗くんはそう優しく言った。
 昔から優しかった。私はそんな彼に惹かれたのだ。私からは告白できなかったけど、言おうと決めていた言葉があった。

 「海斗くん、愛してます」

 海斗くんは私と同じくらい顔を赤くし、右目から涙が出てきた。

 「新奈ちゃん、俺もだよ」

 その言葉に私はさらに嬉しくなった。覚えていたのは私だけではなかったらしい。あんな昔にしたおままごとのことなのに、海斗くんはきちんと覚えてくれていた。

 「なんか私、泣いてばっかだね」

 「新奈ちゃんだけじゃないよ、ほんと、涙で前が見えないよ」

 私たちの物語はこうして始まった。
 今までは幼馴染だったけど、これからは恋人。
 今日のこの再出発(はじまり)をこの先の物語に繋げていきたい。 

 私たちの再出発の日はこうして終わった。






 「こんな感じかな?  このあとはお兄ちゃんの知ってる通りお兄ちゃん説教してーって感じ」

 「お前、そんなことがあったのに、よくあんなに説教できたよな」

 僕の妹は切り替えが凄すぎる。僕は今日、新奈の話を聞いて、そう思った。

 「それにしてもあれだな。聞いておいて何だが、惚気話って恥ずかしいな」

 そう言うと、新奈は顔を真っ赤にして怒り気味で言った。

 「お兄ちゃんがそんなこと言うから恥ずかしくなっちゃったじゃん!」
 
 「まあ、そんなに好きあってるんだ、ちゃんと話し合えよ」

 「うん、分かってるよ」

 新奈は帰宅したときの暗い感じではなく、とても明るくてそう答えた。





 (そう言えば僕はあれ以来恋とかはしてないな…)

 寝る前に僕はふと考えていた。
 そこで僕は自分で考えていたことなのにおかしな点に気づいた。

 (!?   "あれ"って僕は一体いつのことを考えてるんだ?)

 無意識に"あれ"と考えていたがなんなのだろうか。謎である。
 しかし、もう既に夜も更けている。
 考えても埒が明かないので僕は寝ることにした。


 そして僕は夢を見た。
 新奈の惚気話を聞いたからだろうか、その夢は女の子と遊ぶ夢。その女の子は、ちょうど空見華月が転校してきた前の日の夜の夢の少女だ。
 しかしその夢は突如として悲劇へと変貌する。
 目の前には血まみれで倒れた少女と壁にめり込むように衝突した大型トラック。
 だんだん意識が遠のいていく。夢なので意識がないのは当たり前だ。しかしこの感覚は、まるで実際に体験したかのような、とてもリアルなものだった。

 意識が遠のき、完全に失ったとき、僕は目覚めた。
 いつもの起床時刻よりは少しはやい。
 気づくとベッドは汗で濡れていた。ちょうどいいと思い、僕は朝風呂へと向かっていった。


 しかし、一体あのとてもリアルな夢は何だったのだろうか。
 

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