君と僕と壊れた日常

天野カエル

愛し続けた者と愛し合いたかった者

 僕が空見華月の家を訪ねた翌日、まだ空見華月は学校には来なかった。
 りっちゃん曰く、大事をとってということらしい。
 空見華月が来ようが来まいが、どうってことはない。
 しかし、やっとクラスでも僕以外とは打ち解けて来たのだ。クラス内で地位を獲得するためにもあまり休むべきではないだろう。
 最近よく空見華月と一緒にいる女子に目を向ける。
 クラスの人とはあまり話す機会がないので名前が出てこない。でも、先週くらいに視線の先の女子とは何かあった気がする。
 どうにも思い出せない。
 まあ、それほど重要ことでもなかったのだろう。
 
 (うーーん、それにしてもあの女子を中心になんかピリピリしてるなぁ)

 空見華月が2日休んだことで心配しているのだろうか。そうだとしたら、視線の先の女子は友達想いの良い奴、である。
 
 


 そんなこんなで今日はもう早、昼休みである。
 トイレに行こうと席を立つ。
 教室後方のドアから出ようと、後に回った。その時、話し声がほんの少しだけ聞こえた。

 「この前は空見さんが…」

 それ以上は聞こえなかったが、確かにそう言っていた。声の主は例の友達想いの女子である。

 (あいつもいい友達に出逢えたんだなぁ…)

 トイレに行くのも忘れ、ドア付近で感傷に浸っていた。

 「アラタ、そんな所で何してるの?」

 目の前に海斗がいた。
 その瞬間、さっき通ってきた辺りから殺気のようなものを感じたが、まあ気のせいだろう。

 「トイレに行こうとしてたんだよ。あ、一緒にご飯食べようぜ」

 「わかった」

 そんなこんなで昼休みを終え、そのまま何事もなく1日が過ぎた。

 

 
 「おはよう。今日は来たんだな。四連休楽しめた?」

 僕は登校して早々に登校し終え、本を読んでいた空見華月に声をかけた。

 「なに?殺されたいの?」

 「その毒が健在ってことはもう体調は大丈夫なんだな」

 今までと同じ、キレのある毒舌に僕は安心した。

 「そんなので私の体調を判断しないで。気持ち悪い」

 空見華月はそう言うが、先日体調を崩していた時は柄にもなく僕に"ごめんなさい"と言っていた。
 そこのところを言及すると僕が酷いことになりそうなので言わない。

 「ごめんなさい」

 「謝るなら少しでも気持ちを込めなさいよ…」

 一昨日のことで少し距離が縮まったように思う。
 成長か、はたまた慣れか。
 どちらにしても前進だろう。
 前進と言えば空見華月のお友達である。

 「そう言えば。空見さん、とても素晴らしい交友関係をお築きなようで」

 「なんのこと?」

 空見華月はとぼける。でも隠しても無駄である。僕は昨日この目、耳で確認したのである。というか友達は隠すものではない。

 「ほら、最近一緒にいる女子。昨日ずっと心配そうにしてたよ」

 「お兄ちゃん」

 言い終わると同時に背後から妹の声がした気がする。
 しかし、うちの学校は学年ごとに校舎が分けられている。従ってここにいるはずはない。

 「お兄ちゃん!」

 「新奈!?」

 素っ頓狂な声をあげながら振り向くと、そこには妹の新奈と海斗の姿。

 「じゃあね、新奈ちゃん。ちょっとトイレに行ってくる」

 「はーい、また部活でね!あ、お兄ちゃん、ごめん。私今日家出るときにお兄ちゃんのお弁当と私の間違えて持ってきちゃったんだ」

 そう言われ、僕はカバンから持ってきたお弁当を取り出す。そこにあったのは妹のお弁当だ。全く気づかなかった。

 「あ、ほんとだ!ありがとな」

 そう言いお弁当を交換する。

 「じゃあ、私行くね。お兄ちゃん、海斗くんによろしく言っておいてねー!」
 
 よろしくってなんだろうか。

 「待ちなさい!!!」

 別れを告げた瞬間、怒号が聞こえた。
 声のした方を見ると、空見華月の友達を中心に女子数名が怒りの表情で皆が一点を見ていた。
 何が起きているか分からない生徒が多数で、とてもザワザワしている。中には知っているのか、目を背けている者もいる。

 「え、なに、何が起こってんの?空見さん知ってる?」

 「知ってるわけないでしょ」

 そりゃあそうだ。休んでいたのだ。僕達以上に分かってないのではないだろうか。僕も何一つ分からないけど。

 「じゃあ、新奈は…」

 言いかけて驚愕した。新奈がとても怯えていたのである。
 新奈の視線の先には怒りの表情を作っている女子集団。
 どうやら、さっきの怒声は新奈に放っていたようだ。

 「おい、大丈夫か」

 「お、お兄ちゃん…」

 今にも泣き出しそうだ。

 「ねえ、そこの一年生。あなたよね?海斗くんと付き合ってるっていうのは」

 「え」

 そんなの初耳だ。
 海斗も新奈もそんな素振りは見せていなかった。
 嘘ではないのか。

 「新奈、そうなのか?」

 「う、うん…この前から」

 どうやら付き合い出したのは最近らしい。
 こんな状況じゃなかったら盛大に祝っているところだろう。

 「で、付き合ってたとしてどうなの?」

 空見華月が入ってきた。
 意外だ。相手の女子とは友達のはずだ。それなのにこっち側として入ってくるなんて。

 「言い忘れてたけど、別にあの子とはあなたの言うほどの仲じゃないわ」

 「そうなのか?」

 そう言われてようやく合点がいった。
 今僕達と敵対してる女子達は空見華月と海斗が付き合ってる付き合ってないで少し騒いだときの噂の元凶の集団だ。
 どうして気づかなかったんだろう。
 ということは、空見華月とやたら一緒にいたのは真意を確かめるのと牽制ということだったのだろうか。

 「すまん、前言撤回する」

 「分かってくれたようで何より」

 空見華月は少し微笑みながらそう言う。
 慣れとか成長ではなく、単に毒は吐くが、空見華月が少し丸くなっただけなのかもしれない。

 「無視しないでよ。付き合ってたとしてどうって?私たちの間では抜けがけ禁止ってなってるの!それを1年風情がノコノコと!」

 そう言われるとカチンとくる。

 「お前誰だよ」

 (あ、間違えた…)

 勢いに任せて「お前何様だよ」と言おうとしたら言い間違えてしまった。同じクラスなのにそもそも名前を覚えてなかったのでちょうど良かったかもしれない。
 しかし、流石にこの発言にはクラス中が空いた口が塞がっていない。

 「ねえ、あなた人の名前も覚えれないの?」

 空見華月がバカに来たように言ってきた。
 実際覚えていないので何も反論出来ない。

 「サイテー」

 これには流石に、クラス中同じ感想のようだ。

 「いや、まあ、あれだ。要は深く知ってないのにそうきつく当たるなよってことだ」

 うまくまとめれたと思う。

 「言い間違えでマイナス50点、妹想いでプラス50点ね」

 空見華月が評価している。プラスマイナス0らしい。

 「うるさい!なによあんた!引っ込んでてよ!なんでこんなポット出のやつに海斗くんが!」

 女子という生き物はとても怖い。高二にして思い知った。
 ポット出。この言葉には流石に新奈は怒るのではないだろうか。

 「…何がポット出よ!」

 やはり怒ったようだ。

 「私は昔からずっとずっと海斗くんが好きだったの!私からしたらあんた達の方がポット出よ!」

 よく言った。兄としてとても誇らしい。

 「妹の方ができるのに兄はできないって残酷ね」

 空見華月のその一言で台無しである。
 しかしやっぱり反論出来ない。

 「うるさいうるさい!お前なんか、お前なんか!」

 そう言いながら鬼の形相で新奈に近づいていく。これは危険なのではないだろうか。 
 次の瞬間、狂った女子は手を振りあげた。
 僕は咄嗟に新奈を庇う。

   パンッ!!

 僕は思いっきり叩かれた。
 新奈には被害が行ってないようで安心した。

 「邪魔しないで!」

 「なあ、お前に分かるか?」

 僕は爆発寸前だった。

 「なによ!」

 「妹と幼馴染が付き合ったって聞いた時の気持ちが分かるか?」

 「そんなの知らない!」

 「海斗は前に言ってた。昔からずっと好きだったって!」

 「…!!」

 「多分新奈もそうだったんだと思う。そんな二人がくっついたんだ。僕は嬉しいんだよ。なのになんでお前は邪魔するんだよ!新奈は悪くない、お前が悪いんじゃないか!そんなに好きなら言えばよかった、言えなかったお前、言った新奈、それがお前の…」

 「そこまで!!」

 途中で切られてしまった。
 皆が一斉に声の方を向く。
 声の主はりっちゃん。どうやら朝のホームルームの時間が近づいていたみたいだ。

 「席につけ、ホームルームを始める」

 先生の声はとても冷たかった。
 生徒は皆それに従った。

 


 「後で川島は職員室に来い、話がある。それと今日はもうみんな帰れ。学校には緊急措置として報告しておく」

 先生は終始冷たい声でHRを終えた。
  
 (それにしてもあいつ川島って名前なのか)

 川島は泣いていた。新奈は一年生の校舎へと向かっていったが、あの様子なら多分早退するだろう。

 「なあ海斗、なんであのときいなかったんだ?」

 僕は先生の指示に従って帰る用意をしていた。
 近くにいた海斗に尋ねる。

 「トイレだよ。と言っても、戻ってきたときには遅かったから先生を呼びに言ってた。あのとき入ってたら余計壊れそうだったから」

 「そうか」

 「ごめん、新奈ちゃんを危険に晒してしまって…」

 海斗はすごく申し訳なさそうだ。しかし、今回の一件は海斗は悪くない。

 「謝らなくていい。でもまあ、その気持ちがあるんだったらひとつ頼み聞いてくれ」

 「なに?」

 「このあと、新奈が別れるとか言ってもちゃんと繋ぎとめろ。いい?」

 「わかった」

 こうして約束は交わされた。
 多分今回の一件は僕達幼馴染史上最も大きな事件かもしれない。僕の覚えている範囲でだが。

 


 こうして、僕のクラスの生徒達は各々が帰路についた。
 海斗は用事とか言って、少し帰るのを遅くした。
 なので方角的に、空見華月と一緒に帰っている。

 「今日のは少し見直したわ」

 空見華月は僕を褒める。初めて褒められたのではないだろうか。

 「兄妹だし、当たり前だよ」

 「兄妹、ね…」

 空見華月が時折見せるこの表情、何なのだろう。
 懐かしむような、思い出したくないような。

 「私もちょっと用事あるから」

 「そうか、じゃあな」

 こうして僕達は別々の道へと分かれていった。
 僕達はどうなるのだろうか。
 平穏な日々を取り戻せるのだろうか。

 (まあ、なるようになるか…)

 僕は考えることをやめ、家に帰っていった。

「君と僕と壊れた日常」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く