君と僕と壊れた日常

天野カエル

動きだす気持ち 中編


 キーンコーン……

 終了のチャイムがなる。
 皆いっせいに、教室から飛び出していった。
 平日の午後に何も無いというのは学生にとっては最高だろう。それぞれがしたいことのために全力を注いでいる。この活気に溢れた光景を見てしまうと、正式に「帰宅部」というものを設けてもいいのではないかと考えてしまう。
 なぜこれほどまでに活気を感じるのか。それは今雨が降っているからである。
 雨が降っているのにも関わらずこの活気、これはとてもすごいと思う。
 そう呑気に感心している僕だが、これから急がなくてはならない。
 りっちゃんのおつかいだ。雨を回避しようと朝早く来たら頼まれてしまった。早起きは三文の徳と言うが、そのことわざは今の僕には皮肉でしかない。
 しかし、この間の土曜日のことを謝ろうと思っていたので、実際はそこまで悪くないのかもしれない。
 まあ、面倒なのは事実である。
 
 (プリントを渡すだけ、渡したらすぐに駅に行く!)

 海斗と新奈と僕とで、駅周辺の娯楽施設などに行って遊ぶのだが、仕事はきちんとしなければならない。
 また、海斗は3人で遊ぶことをとても楽しみにしているみたいなので、行かなければならない。
 最近とても忙しいサッカー部に所属する海斗と遊ぶのは僕としてもとても楽しみだ。
 何をしようかなどと考えていると、学校内はいつの間にか静かになっていた。さっきまで騒がしくしていた生徒たちも帰路についたらしい。
 静かな廊下、階段、靴箱を通り、外へと出る。
 傘を装備し、僕はいざ空見華月の家へと向かう。




 「いや、どこだよ…」

 りっちゃん曰く、公園の近く。
 僕の家の近所の公園というのはひとつしかないのだが、周りには一軒家だけでなくアパートなどもあるので相当分かりづらい。

 「詳しく聞いておくんだった…」

 見つからないイライラに加え、今降っている雨のおかげで相当ストレスが溜まっている。
 そんなとき、傘をさして歩いている女性を見かけた。この辺りに住んでいる人かは分からないが、尋ねてみることにした。

 「あの、すいません。お聞きしたいことがあるんですけどよろしいですか?」

 「ええ、構いませんよ」

 快く了承してくれた。

 「この辺りにある"空見"というお宅を探しているんですが、知っていますか?」

 「えっと、空見は私です」

 「え」

 まさかこんな奇跡があるなんて思いもしなかった。
 そのため、少し間が空いてしまった。

 「あの、何か御用ですか?」

 「あ、すいません!僕は駿河アラタと言いまして、空見華月さんと同じクラスです。今日お休みしている空見さんに修学旅行の大事なプリントを届けにきました」

 「駿河…アラタくん…。ありがとうね。私は華月の母です。ちょっと急なんだけどさ、夕方まで家に居てくれないかな?」

 ほんとうに急な誘いだ。既にこのあとの用事は入っているので、断るのは決まっている。

 「すいません。このあと友達と遊ぶの「ほんとに!?ありがとう!仕事の合間に帰って来たんだけど、さっき戻ってこいって仕事場から連絡きちゃってね。
じゃあ、お願いね。
これ、差し入れと家の鍵ね。勝手に入っていいから、華月ちゃんと二人で分けて食べてね。じゃ!」

 怒涛の攻めに引いてしまい、断れなかった。
 ほんとうにどうしようか。家の鍵を渡されてしまった手前、空見華月の家に寄らなければならない。
 というか、プリントも渡せていない。そもそも家の場所も教えて貰っていない。
 家に行けと言っているのだろうか、来るなといっているのだろうか。まあ、鍵渡されてるし後者はないだろう。  
 考えることを諦め、僕は空見華月の家を捜索することにした。





 やはりあの夢を見てしまった。
 いつになったら開放されるのだろうか。
 考えても分からないので私はとりあえず昼食を摂ることにした。お母さんが用意してくれているはずなので温めて食べよう。
 自室から出て階段を降り、台所へと向かう。
 台所で、ラップ掛けされた料理を見つけた。これが昼食だろう。
 私はそれを電子レンジに入れる。時間を設定して待つ。
 
 チン!

 温まったようだ。
 私はやけどに注意しながら取り出し、食卓へと向かう。
 ラップを外し食べようとしたその時だった。

 ピーンポーン

 誰か来たようだ。
 どうせセールスか何かだろうから居留守をつかう。

 ピーンポーン

 「………」

 ピーンポーン

 「………」

 結構しつこい。

 「………」

 どうやら諦めたようだ。
 それが分かると私は昼食に手をつける。

 「いただきます」

 ガチャ、ガチャガチャ、バタン

 言い終えるとほぼ同時に玄関が開いた音がした。
 もしや先程までインターホンを押していたのは空き巣犯で、留守でも確認していたのだろうか。
 留守と分かり白昼堂々ピッキングでもしたのか。
 恐怖を覚えた私は警戒レベルを最大まで引き上げる。

 「おおーーい!空見華月さーーん!」

 玄関からそう叫び声が聞こえてきた。
 誰の声かすぐにわかった。
 転校してからというもの、この声の主のことばかり考えていたのだからすぐにわかって当然だ。
 彼は私の体調不良の原因、つまり天敵だ。
 しかし声の主が分かっても、なぜ彼がここにいるのかなどの多数の疑問がある。
 これに関しては流石に居留守は使えないので私は玄関へ向かうことにした。



 
 「ここか…」
 
 空見華月の母と遭遇してから30分後、僕はやっとの思いで空見宅を発見した。
 勝手に入っていいとは言われたが、それはさすがにまずい。
 空見華月が気づくことを願ってインターホンを押す。

 ピーンポーン

 「……出ないな」

 ピーンポーン

 「……寝てるのかな」

 ピーンポーン

 「………」

 どうしよう。出てくれない。
 勝手に鍵を開けて入っても玄関までなら大丈夫だろうか。いや、勝手に入っていい許しは出てるのだ、僕は悪くならない。
 少しの間考えたがこれといっていい案はなく、結局玄関まで入って呼ぶことになった。

 ガチャ、ガチャガチャ、バタン

 ドアを開け、入ったのはいいものの、頭が真っ白になった。
 ひとまず空見華月を呼ぶことにする。

 「おおーーい!空見華月さーーん!」

 寝ているのだろうか。
 寝ているのだとしたら、インターホンに対応しなかったのも納得だ。
 そう思っていると一階の方から誰かきた。空見華月だ。
 すごく不機嫌な顔をしている。
 それもそうだろう。なにせ鍵のかかった玄関を勝手に開けて入ってきたのだから。

 「こ、こんにちは、土曜日ぶりだね」

 鍵を開けた時点で少し覚悟はしていたが、キツいものがある。

 「ええ、こんにちは。で?」

 空見華月はとても冷たい声でそう言った。
 「で?」ただそれだけでもうほんとに怖かった。

 「実はかくかくしかじかで…」

 我ながら完璧に理由を言えたと思う。

 「は?」

 「ん?」

 「ねえ、ふざけてるの?何がかくかくしかじかよ。そんなので伝わるわけないじゃない」

 どうやら世界はそんなに優しく出来てはいないみたいだ。
 結局、空見華月の神経を逆撫でしてしまった。

 「きちんと話せ」

 「はい…」

 そして僕は全て話したのだった。

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