鋏奇蘭舞

炎舞

言葉

「やばい!」思わず口から出た。目の前の料理があまりにも美味しすぎて、口が言う事を聞かなかったのだ。が、すぐに友人からたしなめられた。
「そうやってすぐ『やばい』っていう癖、直したほうがいいよ。使いすぎると陳腐になっちゃうし、大体何がやばいのか分からないよ。」
そうは言っても反射で出てしまうのだから仕方ないだろう。俺は、はいはいと軽く流して食事を続けた。友人は呆れた顔で珈琲をすすった。
ひとしきり雑談をした後、俺と友人はレストランを後にした。俺は友人に、先程の料理が如何に美味しかったかを語っていた。友人は暫く笑いながら聞いていたが、ふと真顔になった。
「そうやって細かく表現出来るのなら良いんだけどな…」
俺は友人の言葉の意味を読み取れず、思わずえ?と聞き返した。友人は構わず続けた。
「街に溢れる声に耳を傾けてみろよ」
俺は言われるがままに耳を澄ませた。足音、車の排気音、音楽、それらに混ざって聞こえる、人々の声。
マジやばくね?これはやばいって!マジで?やばいよ!…
唖然とした。人々の感情は、こんなにも安い言葉の繰り返しで表現されていたのか。同時に、ついさっきまでの俺もそうだった事に気づき、途端に恥ずかしくなった。俺は友人の方を見た。
「感情表現っつーもんは、一体何処へ行っちまったんだろうな」
友人の言葉は雑踏の中に消えていった。

〈了〉

「鋏奇蘭舞」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「文学」の人気作品

コメント

コメントを書く