鋏奇蘭舞

炎舞

彼は何処へ

 二人の男子大学生がいた。一人は弘、もう一人は純也といった。

 二人は中学の頃からお互いを”親友”と認識していた。高校の三年間をあっという間に通り過ぎた後は、二人で同じアパートの、同じ階で寝起きし、同じ大学に通っていた。

 互いにちょっかいを出し合うのが二人の楽しみの一つであった。軽いものはいくつやったか数しれず、中には冗談じゃ済まされないようないたずら____それはもういたずらと言って良いのだろうか____をやったことも幾回かあったが、それでも後になって二人で笑い飛ばしていることが、二人の友情の深さを強く示していた。……言っておくが、二人には断じてそんな気・・・・は無い。

 ある日、珍しく二人が大喧嘩した。原因は分からない___というかこの際どうでもいい___。お互いにむしゃくしゃしており、純也はしばらく顔を合わせようともしなかった。だが、弘は違った。
「ああ、仕返しをしてやりたい、でも謝ってもおきたい、どうすればいいのか……」
 小学生のようなしばらくの葛藤。の後、彼は一つの”名案”を思いついた。

 喧嘩から三日後の深夜、弘は渡されていた合鍵で純也の部屋に忍び込んだ。純也はすでに眠っていた。弘は一枚のプラゴミ用収集袋を広げ、寝ている彼を、起こさないよう注意しつつ、素早く袋に詰め、外に出、収集所に置いてきた。運んでいる様子は、傍から見れば不審を具現化したようであった。ほんの少しひねくれている弘は、そうして純也を軽く怖がらせてから、後で謝ろうと思っていた。いつものノリのつもりであった。

 明日がプラゴミの収集日であったことを忘れていた。

 明くる日の朝、弘は起き、朝日の差し込む窓の外を何気なく見た。外では、ゴミ収集車がゴミを回収していて……
 ……え?ゴミ収集車が……?
 慌ててカレンダーを見て、ようやく事の重大さに気づくと、その他の用事をすべてほっぽりだして、靴を履く暇もなく、まるでお魚を咥えたドラ猫を追いかけるようなペースで、裸足で収集所に駆けた。

 ついた頃には、収集車は遥か彼方に走り去っていた。彼は寝ぼけた頭で、既に追いつけない位置にあると悟った。

 _____ああ、とんでもない事をしてしまった……
子供心でやったいたずらが、こんな事になるなんて……きっと神ですらもこれは予期しなかったであろう……神が下した判断なのだとしたらあまりに辛辣すぎるが……

 弘は後悔していた。今となっては遅すぎる後悔をしていた。

 30分その場に立ち尽くした後、彼は交番に届け出た。事情を話したとき、そこに居た警察官の内一人はぶったまげて部屋の隅まで転がっていった。一人は
 「ゴミ収集業者も共犯なのでは」
 ととんでもないことを言い始めた。警察官もこの事実は信じられない様子であった。
 その後、彼は取調室に連れて行かれた。何しろ前例が無い事案なので、取調べは5時間にも及んだ。容疑はもちろん、「殺人」であった。

 捜査は一週間続いた。弘も同行し、純也の遺体_____ほぼ確実に死んでいる_____を探した。だが結局、生存確認はおろか、彼の顔を拝むことすら叶わなかった。

 3週間後、刑事裁判にて、弘には殺意がなかったことが認められ、懲役4年、執行猶予5年の判決が下された。純也の扱いは、既に「行方不明」から「死亡」に切り替わっていた。

 裁判所から出てきた弘は酷くやつれた顔をしていた。この一ヶ月で随分神経が衰弱してしまったようだった。

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 行く宛もなく、暫くトボトボと歩き、彼はコンビニに入った。

 ______お菓子でも買うか…………

 お菓子コーナーに入った瞬間、彼はあっと言ってその場に立ち尽くした。そして、膝から崩れ落ちた。


 陳列されたポテトチップスの袋のいくつかに、純也の顔や体が印刷されていたのである。



〈了〉

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