鋏奇蘭舞
魔法のペン
ー西暦20xx年、○×電機新商品発表会にてー
「…と言う事で、このペンは世界の革新となるのです!」
壇上で雄弁に物語るのは新商品開発課の課長だ。
「誰がそのペンを使っても、誰もが驚く文章を書けるのですか?」
面倒そうに尋ねる記者の質問に対し、課長は笑顔で答える。
「その通りです!このペンを握って、机に紙を用意すれば、後はペンが自動的に紙の上に、誰もが驚く、それこそ世界中の誰もが注目し、驚嘆するような文章を手軽に書くことができるのです!」
「世界中の誰もが注目する文章にする仕組みはどうなっているのですか?」
「いい質問ですねぇ〜」
課長は待っていた質問が出され、ますます笑顔に磨きがかかった。
「このペンは無線ネットワークで世界とつながっていて、人々が興味、関心を持っていることを読み取り、或いは、持つだろうということを予測し、それをまとめて文章に書き起こすという機能があります!また、自動で書き起こす機能についてですが、これはF-89微小電気信号発信システムを直接腕に作用させ…」
彼が熱弁をふるうなか、会場の裏では幾人かの人影が動いていた。全員が何故か細長いものを持っていた。
「…機能説明は終わりましたので、実演タイムです!」
会場がざわめく。
『本当に全自動で書かれるのか?』
『どんな文章が書かれるんだろう?』
『素晴らしい発明を間近で見られるとは!』
会場に溢れんばかりのどよめきに、課長はとても満足していた。
「では、行きます!」
会場のどよめきが一気に静かになり、空気が張り詰める。生唾を飲む音が聞こえた。
課長はペンのスイッチを入れ、ペン先を紙の上に置く。すると、まるでペンは踊るように紙に文章を書き始めた。
おおーっと、会場に歓声が広がる。一気に会場に熱気が広がる。更に、課長は書き続ける____最も、書いているのはペンだが____。だが、心なしか、課長の顔色が悪くなっているように見えた。記者は課長の手元に集中し、それに気づくことはなかった。
その後、実に五分が経過した後、課長は書き終えた。
『さあ、どうなってる!?』
『どんなふうに驚かせてくれるんだ!?』
『いったいどんな文章が!?』
記者達の興奮が最高潮に達する中、課長だけがあべこべにテンションが下がっていた。
「さあ!見せてください!」
先程まで嫌そうに取材をしていた記者が我先にと声を上げた。
「え、いや、あの…」
先程まで雄弁を奮っていた課長がくぐもった声で答えた。
もったいぶっているように見える課長の態度に、記者たちは苛立ちを覚え、口々に催促した。
『早く見せろよ!』
『何が書かれてるんだ!?』
『ホントにあっと言わせられるものなんだろうな!?』
ほぼ全員の記者が野次を飛ばしている。
「わ、わかりました…」
課長は額に脂汗を浮かべながら、青ざめた顔で紙を掴んだ。記者たちはそれに一斉に注目する。
まさに世紀の瞬間が訪れようとしたその時、パァン、と、乾いた音が聞こえた。風穴の空いた胸から血を吹き出しながら、課長は倒れた。
全記者が集中していたその紙は、肝心の文章が見える前に一瞬で血に濡れた。だが、記者はそんな事は気にする間もなく、ある者は叫び、ある者は声を詰まらせ、全員が我先にと出口へ逃げた。
先程まで熱気に包まれていた会場は、一気に静かになった。
…………………………………………
……………………………………
………………………………
空になった会場に、銃を持った三人の男がいる。男たちは、課長の書いた”文章”の紙を回収した。
「やれやれ、余計なものを作るからこうなるんだ。」
「ま、今から世界が注目するとしたら、專らこれについてだろうからな。」
「俺らの仕事を増やしやがって、全く…」
倒れた課長はすでに冷たくなっていた。
ペンにより書かれた文章には、今後の核戦争による人類滅亡のシナリオが事細かに記されていた。
誰かによって仕組まれたシナリオであった。
それを知ったのは日本で課長だけであった。
〈了〉
「…と言う事で、このペンは世界の革新となるのです!」
壇上で雄弁に物語るのは新商品開発課の課長だ。
「誰がそのペンを使っても、誰もが驚く文章を書けるのですか?」
面倒そうに尋ねる記者の質問に対し、課長は笑顔で答える。
「その通りです!このペンを握って、机に紙を用意すれば、後はペンが自動的に紙の上に、誰もが驚く、それこそ世界中の誰もが注目し、驚嘆するような文章を手軽に書くことができるのです!」
「世界中の誰もが注目する文章にする仕組みはどうなっているのですか?」
「いい質問ですねぇ〜」
課長は待っていた質問が出され、ますます笑顔に磨きがかかった。
「このペンは無線ネットワークで世界とつながっていて、人々が興味、関心を持っていることを読み取り、或いは、持つだろうということを予測し、それをまとめて文章に書き起こすという機能があります!また、自動で書き起こす機能についてですが、これはF-89微小電気信号発信システムを直接腕に作用させ…」
彼が熱弁をふるうなか、会場の裏では幾人かの人影が動いていた。全員が何故か細長いものを持っていた。
「…機能説明は終わりましたので、実演タイムです!」
会場がざわめく。
『本当に全自動で書かれるのか?』
『どんな文章が書かれるんだろう?』
『素晴らしい発明を間近で見られるとは!』
会場に溢れんばかりのどよめきに、課長はとても満足していた。
「では、行きます!」
会場のどよめきが一気に静かになり、空気が張り詰める。生唾を飲む音が聞こえた。
課長はペンのスイッチを入れ、ペン先を紙の上に置く。すると、まるでペンは踊るように紙に文章を書き始めた。
おおーっと、会場に歓声が広がる。一気に会場に熱気が広がる。更に、課長は書き続ける____最も、書いているのはペンだが____。だが、心なしか、課長の顔色が悪くなっているように見えた。記者は課長の手元に集中し、それに気づくことはなかった。
その後、実に五分が経過した後、課長は書き終えた。
『さあ、どうなってる!?』
『どんなふうに驚かせてくれるんだ!?』
『いったいどんな文章が!?』
記者達の興奮が最高潮に達する中、課長だけがあべこべにテンションが下がっていた。
「さあ!見せてください!」
先程まで嫌そうに取材をしていた記者が我先にと声を上げた。
「え、いや、あの…」
先程まで雄弁を奮っていた課長がくぐもった声で答えた。
もったいぶっているように見える課長の態度に、記者たちは苛立ちを覚え、口々に催促した。
『早く見せろよ!』
『何が書かれてるんだ!?』
『ホントにあっと言わせられるものなんだろうな!?』
ほぼ全員の記者が野次を飛ばしている。
「わ、わかりました…」
課長は額に脂汗を浮かべながら、青ざめた顔で紙を掴んだ。記者たちはそれに一斉に注目する。
まさに世紀の瞬間が訪れようとしたその時、パァン、と、乾いた音が聞こえた。風穴の空いた胸から血を吹き出しながら、課長は倒れた。
全記者が集中していたその紙は、肝心の文章が見える前に一瞬で血に濡れた。だが、記者はそんな事は気にする間もなく、ある者は叫び、ある者は声を詰まらせ、全員が我先にと出口へ逃げた。
先程まで熱気に包まれていた会場は、一気に静かになった。
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空になった会場に、銃を持った三人の男がいる。男たちは、課長の書いた”文章”の紙を回収した。
「やれやれ、余計なものを作るからこうなるんだ。」
「ま、今から世界が注目するとしたら、專らこれについてだろうからな。」
「俺らの仕事を増やしやがって、全く…」
倒れた課長はすでに冷たくなっていた。
ペンにより書かれた文章には、今後の核戦争による人類滅亡のシナリオが事細かに記されていた。
誰かによって仕組まれたシナリオであった。
それを知ったのは日本で課長だけであった。
〈了〉
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