異世界の魔法少女はラクじゃない!

極大級マイソン

第8話「最強の魔法少女」

 それはある日のことだった。
 時刻は夜十時。
 小学生のキャンサーは、本来なら眠っているような時間だが、彼女を含め、この住宅に住んでいる魔法少女、計十一人がリビングに集まっていた。
 それほど広くはないリビングにこれだけの人数が集まるので少々狭い。
 しかしそんなことは、ここにいる皆は気にしていない様子だ。
 それよりも、大事なことがあった。
 魔法少女の生みの親、精霊からメンバー全員に通達があったのだ。
 内容は『怪人の拠点を破壊しろ』というものだった。

「……という訳で、今夜中に怪人の拠点に向かいます」

 魔法少女のリーダー格であるサジタリウスが皆にそう言った。
 サジタリウスの言葉に、レオが口を開く

「今夜中っていうのは随分と急だなぁ」
「みんな時間の都合もあるし、出来れば一緒の時に一斉にミッションをこなしたいの」
「まあ、怪人の拠点だし。相手に時間を与え過ぎると、後々面倒なことになるかもだしね」

 拠点が見つかったとなれば、そこに大勢に怪人がいるのは明白だ。
 早々に始末したほうが良いというのは、ここにいる全員の総意であろう。
 皆の意思が固まるのを感じたサジタリウスは、そっと一枚の封筒をテーブルに置いた。

「拠点の位置と、ある程度の敵の情報が書かれているわ」

 封筒に中身を広げる。
 そこには拠点の見取り図や敵の規模、そしてこの拠点で行われている研究についてが記入されてた。
 何でも、この拠点では大量の怪人を生み出す装置の研究がされており、既に何体かの成功例が出て来ているそうだ。

「怪人を生み出す装置……。近頃、急に怪人が現れる頻度が高くなったのはこれのせいかしら?」
「このままだと次々に怪人が増えていきますね。一体一体は我々で始末できても、増え過ぎれば厄介です。それこそ怪人の軍団などが作られれば……」
「手に負えなくなる。どのみち今夜中に決着をつけようというサジタリウスの案には賛成ね」

 この場にいる全員が頷く。
 これほどの研究がなされているとしたら、出来るだけ最高戦力で挑むのが適切だろう。
 魔法少女十三人、全員で拠点を破壊する。
 まあ、今寝ている8歳のジェミニ達はお留守番をしてもらうことにした。彼女達は、児童を無理やり起こして働かせるほど鬼ではない。

「後、留守番が一人いるよなぁ」
「それなら私が、家の留守をします」

 そう言ったのはアクアだった。
 他のメンバーは特に反論することはない。
 これで準備は整った、後は早急に拠点を破壊するだけだ。

「それじゃあ、行きましょう。みんな!」

 サジタリウスの号令と共に、魔法少女達は家を出た。



 *****



 街から少し離れた山の麓に、ひっそりと建つ寂れた施設があった。
 人通りも少ないこの場所は、現在怪人達の拠点となっていた。
 その玄関口には、暇そうに立つ影が二つある。
 それは怪人……といっても、見た目だけは人間の姿をしている夜間の警備だ。
 二人は、ただただ静かな山の奥をじっと見ている。
 大事な仕事とはいえ、ただ何もしないで立っているだけなのは退屈でしょうがないと、怪人の一人がファッと欠伸をした。

「おい、サボるなよ」
「そうは言うがよぉ。こんな時間に誰がここに来るって言うんだ」
「そりゃあ魔法少女だろう。彼奴らは、何かと俺達を目の敵にしてるからな」
「魔法少女ねぇ。話を聞く限り、まだ年端もいかない女の子ばかりらしいな。そんな相手に、俺達の仲間が大勢やられているなんて信じられねーぜ」

 魔法少女とは、ある日を境に現れた強大な力を持つ少女のこと。
 少女達は、不老不死であり、さらに十三人もいるのだそうだ。
 この拠点では、そんな魔法少女に対抗するために怪人を大量に作り出す研究がされている。
 どれだけ魔法少女が強くても、数には勝てない。
 圧倒的な頭数で叩いて、制圧する。
 それが、怪人のボスが考えたアイデアだった。

「でも、どうやって怪人を作ってるんだろうなぁ」
「お前、自分も怪人のくせに知らないのかよ。まあ俺もだけど」
「なー。俺達、どうやって生み出されたんだろうなー?」
「なー」

 怪人二人が、気の抜けたように呟く。
 ……そして、遠くの方から彼らの会話を聞いている人物がいた。
 魔法少女カプリコーンだ。
 変身時に通常の数千倍の聴力を持つカプリコーンは、何かを理解したように「ふんふん」と頷く。

「どうだった?」
「なんか、『自分が何で生まれたのかわからない』的なことを言ってるっすね」
「何それ、哲学?」

 首を傾げる魔法少女達。
 気を取り直して、魔法少女達は山の木々に隠れながら拠点周りを確認する。

「見張りは二人ね。侵入するのは然程難しくなさそうだけど」
「見取り図があった方が良いですね。サジタリウス、貴女の弓矢で敵の注意を引けますか?」
「もちろん!」

 自信満々に表情で、サジタリウスは頷いた。
 魔法少女サジタリウス。
 彼女は、十三人の魔法少女達の中でも一番のベテランだ。
 12歳の頃から、サジタリウスは怪人退治を行い、現在の魔法少女歴はなんと八年。
 その経験値の高さから、チームをまとめる能力には長けていた。
 もちろん、魔法少女としての戦闘能力も随一だ。
 サジタリウスは、真剣な眼差しでギリギリと弓を引き絞る。

「ハァッ!!」

 サジタリウスの矢が放たれた。
『不可避の矢』と呼ばれるサジタリウスの矢は、どんな状況であろうとも必中だ。
 まるで吸い寄せられるように敵の心臓を貫くことから、『怪人殺し』などと敬称される。
 そう、サジタリウスの矢は必ず怪人を仕留めるのだ。
 光のような速度で飛ぶ矢は、軌道を変えて敵の拠点へ自動照準される。

「あ」

 サジタリウスが、しまったと顔を上げる。
『不可避の矢』は絶対命中の精度を誇るが、問題は絶対に外れないということだった。
 これの何が問題なのかというと、本人がわざと攻撃を外そうとしても自動的に矢が敵を狙ってしまうのだ。
 しかもサジタリウスの矢は、軽く建物が一つ消し飛ぶほど威力が高い。



 瞬間、怪人の拠点は光の如き矢によって凄まじい破壊を引き起こした。
 ついでに言えば、山の地形も変わった。



「「「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」」」

 向こうの方から、怪人の悲鳴がこだました。
 想定外の大規模な破壊に魔法少女達は言葉を詰まらせる。
 一方で、敵の注意を引くどころか誤って敵拠点をアッサリ壊してしまったサジタリウスは、「あちゃー」と顔をしかめた。

「ごめんなさい、やり過ぎちゃった」
「いやまあ、拠点を破壊するのが私達の目的だったけど……」
「これなら、僕達が集まるまでもなかったんじゃあ」

 たった一人魔法少女による一撃は、同じ魔法少女の皆にも衝撃を与えた。
 これが、ベテラン魔法少女。
 十三人のリーダー、サジタリウスの実力である。

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